2019年05月18日

反転する福祉国家 オランダモデルの光と影

反転する福祉国家: オランダモデルの光と影 (岩波現代文庫)
反転する福祉国家: オランダモデルの光と影 (岩波現代文庫)

反転する福祉国家 - 岩波書店

中公新書から出ている『ポピュリズムとは何か』がとても面白かった著者の本。ちょうど興味を持ちだしているところのオランダをテーマにした本ということもあり、こちらもたいへん面白く読みすすめることができました。

内容としては、広範な中間団体を主軸にして手厚い給付を施していたオランダの福祉政策が、移民の選別が進み就労や職業訓練を義務とする就労強化型の政策に変化していく過程を、国内の政治情勢と絡めて描き出す一冊。

特に興味深かったのは2002年以降のポピュリズム(≠極右)の台頭。連立政権の可能性が広く模索される多党制の影響もあって、左右の政党による協同が成る一方でそれが既成政党の政策距離の接近をもたらしてポピュリズム台頭の一因となったというのは、左右対立の合間の時代らしいできごととはいえるだろうか。

ともあれ、そうして現れたポピュリズム政党が、感情的な排外主義政党ではなく、イスラーム文化の反世俗性を訴える理性的な反移民主義だったというのは、これも今とは違うこの時代ゆえのものか。フォルタイン党から自由党へと、そうした傾向は主流なポピュリズム政党に受け継がれているらしく、なかなかに特徴的な傾向であるように思われる。

けれどオランダにおいてなによりポピュリズム政党をめぐる状況を複雑にしたのは、2002年の総選挙の数日前にフォルタイン党の党首フォルタインが反対者によって殺害された事件ではないかと思う。反移民など、既成政党の政治家にとって「タブー」となる部分に触れるような発言によって支持を集めていった人物だけあって、脅迫を受けるなど反発を強めてはいたというけれど、実際に殺害事件が起きてしまったとなると、ポピュリスト政治家への批判そのものが「タブー」視される空気が醸しだされてしまうという。

しかも実際、数日後の選挙では、党首を失ったフォルタイン党は亡き党首の「殉教者」的な人気によっていきなり第二党に躍り出るという実績すら残してしまったので、既成政党の側もある程度その民意を汲み取らざるをえなくなってきたりなどもして、福祉政策もだんだんと右寄りなものが選択されていくという流れ。なんとも悩ましい展開ではあるというか。

第二次産業から第三次産業への産業構造の変化も指摘されてはいたけれど、個人的にはなによりその情勢の変遷が面白く、興味深い内容でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:12| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月16日

逆転の大戦争史

逆転の大戦争史
逆転の大戦争史

『逆転の大戦争史』オーナ・ハサウェイ スコット・シャピーロ 野中香方子訳 船橋洋一解説 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS

パリ不戦条約(ケロッグ・ブリアン条約)を起点にした国際的な秩序の変革について論じる刺激的な一冊。とても面白かった。


ざっくりまとめると、本書で述べられるパリ不戦条約以前の旧世界秩序とは、国際法の父ともいわれるグロティウスによって考案され、その後の近代国家によって利用された国際的な秩序のあり方のこととでもなるだろうか。

旧世界秩序において、戦争は国策の手段として完全に合法であったという。戦争を起こす国にはそれぞれの大義名分があり、仕掛けられる側にもそれぞれの反論があったが、それらの正否は問われない。正否を判断することはすなわち一方に味方して戦争に関与することであり、そのつもりがない限りはどちら側の言い分もひとまず正しいものとされざるをえなかった。最終的に大義名分の正否を決めるのは戦争の結果によってであり、力こそが正義となる世界観であったといえる。

現代では一般的となっている経済制裁は旧世界秩序では違法であったという。これは大義名分の正否の判断を留保することと重なるものであり、どちらか一方に味方して参戦するつもりがない限りは、交易等で交戦国のどちらも平等に扱う必要があった。経済制裁はそれだけで戦争行為とみなされ、中立の立場を逸脱するものであった。

一方の新世界秩序において、パリ不戦条約以降に第二次世界大戦を通じて規定された秩序下では、侵略戦争は違法である。武力によって国境を書きかえようとする行為、武力を背景にして一方的な要求を突きつける砲艦外交は国策の手段として認められていない。違反した国家は経済制裁によって罰せられ、違法な行為によって得られた成果を手放すことを要求される。戦争は唯一、防衛目的においてのみ認められている。


論のあらましとしては、まずグロティウスが旧世界秩序を考案した背景からはじまり、そこから旧世界秩序の有する「力こそが正義」となる性格が述べられていく。次に、旧世界秩序に対するカウンターとなる新世界秩序を打ち立てるべく尽力した人物たちの尽力が描かれ、第二次世界大戦にいたる国際情勢のなかでその規範が発展し実行力を持つ秩序となっていく歴史が記される。さらに、戦後は国際連合の拡大によって新世界秩序が全世界的に広まり、それとともに浮かび上がってきた問題点や立ち現れる脅威が触れられ、新世界秩序も必ずしも完全なものではなく進歩改良の余地があることやその必要性が説かれて終わる。


なにより面白かったのは、これまで名前は知っていてもその重要性の説明を見たり聞いたりした覚えのないパリ不戦条約(著者らも序章で、以前に同じテーマで新聞に記事を書いたところ、同様のコメントを受けたと記している)を、国際秩序の変革点として、きわめて重大な歴史的意義を持たせた叙述。パリ不戦条約以前と以後で、これほどまでに国際情勢の見え方が変わってくる。その後の第二次世界大戦による連合国側の勝利も不可欠な出来事ではあったといえるけれど、なるほど、パリ不戦条約の成立は歴史的にひとつの画期と捉えうるのでしょう。

そして、そうした論の構成上、当然のことではあるけれど、条約成立後の大日本帝国の失策感はなかなかのものであった。目次を見てもらえれば一目瞭然だが、第四章までで旧世界秩序の説明がなされ、第五章で何人もの人物たちの尽力によってカウンターとなる新世界秩序が打ち立てられる過程が描かれた直後に現れるのが、「第六章 日本は旧世界秩序を学んだ」なのである。あ、これアカン流れや……。


というのはさておき、まとめ的な終章を除いて、本書の最後の章を飾るのはイスラム国であった。中国やロシアによる国際秩序の隙を突く挑戦や、侵略戦争を違法化した副産物として失敗国家が温存されてしまう問題、経済制裁という罰の強制力の弱さへの対応などが述べられた後で、もっとも直近の脅威とされたのがイスラム原理主義ということだろうか。

著者らによると、彼らは明確に新世界秩序とは異なる秩序を体現し、それを外部へと拡大していくことを目的としたグループであるという。彼らの存在は新世界秩序に対する明確な挑戦であるが、それ以上にその秩序を生み出す背景となる思想の対立でもあるらしい。いわば人の世と神の世の対立というまったく次元の異なる闘争が提起されているのだが、植民地支配下の抑圧の歴史や半世紀以上にわたる原理主義思想の広まりもあり、対立の土壌はまだ多分に残存しているといえるだろうか。

イスラム国がアルカイダのイラク支部から発展した勢力とされるように、原理主義を抱えるイスラム系の組織はほかにいくつも存在していることが指摘されていたりと、ややもすると恐怖感をあおるような記述であったようにも思うが、正確な理解のためにも現実的な脅威の認識は必要であるだろうか。


なんにせよ、これらの脅威の中で、著者らのいう新世界秩序はいかにその役割を維持・発展していくことができるのか、それとも転換を余儀なくされるのか。それは、今後の国際的な情勢次第といえるだろう。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 16:01| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月12日

着たい服がある(1)

着たい服がある(1) (モーニング KC)
着たい服がある(1) (モーニング KC)

『着たい服がある(1)』(常喜 寝太郎)|講談社コミックプラス

背が高くかっこいい装いが似合うんだけど、本人としてはかわいいロリータ服が好きな女子大生の主人公が、周囲の目に悩みながら好きな服を着たい自分の気持ちと向き合っていく話。

どれだけ似合わないと言われようが笑われようが、自分が着たい服を着るのがいちばん気分がいい。なりたい自分の姿になれるのがいちばんうれしい。いいじゃないですか。素敵じゃないですか。

そんな主人公の転機になったのは、バイト先にやって来た助っ人男子の誰はばかることのないパンチにあふれた服装を目にしたこと。周りからそれはないと言われようと、好きな服を着るのがいちばん気持ちいいとなんのてらいもなく言ってのけるあの姿、最高にかっこよかったですね。

それに感化された主人公が、葛藤しながらもすこしずつ自分もなりたい姿に自信を持てていくようになる展開もとてもよくって。

まさにタイトルがそのものずばりな作品で、最強にかっちょいい話。すごくよかった。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:51| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月11日

月夜に誘う恋の罠

月夜に誘う恋の罠 (エタニティ文庫)
月夜に誘う恋の罠 (エタニティ文庫)

月夜に誘う恋の罠(文庫本) : 月城うさぎ | エタニティブックス〜大人のための恋愛小説レーベル〜

これはある種の主従ものっぽかったというか。ハイスペックなお嬢様ヒロインによって、年上の男が翻弄される感じの流れがとてもよかったです。

しかしその発端が、結婚はしたくないヒロインが、それでも子どもはほしくなったことによるものだから、なんともエロティックな展開になるもので。男なんていらないと思うにいたった経緯は同情できるものだし、周囲の友人たちの結婚・出産に感化されて子どもへの欲求が芽生えるのも理解はできるけど、だからっていくらなんでも、関係を迫るお相手の男に対して、お金は払ってもいいけど籍は入れたくないというのは……それなんてエロゲ(死語)最高でした。ハイ。

さすがに恋心を自覚して以降はヒロインのほうがドキドキさせられる側に回ることも多くなってきますが、番外編を見ててもやっぱりお相手の男は基本的にヒロインに頭が上がらない感じの関係性なのが見て取れて、とてもいい話ではありました。そうなんですよ。ティーンズラブでこういう話を探してたんですよという、女主男従の理想像に、これまで読んだ中でもっとも近い話だったと思います(ティーンズラブ小説では)。ぴんときた男性諸氏にはぜひにと勧めてみます。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:53| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月07日

やがて君になる 佐伯沙弥香について

やがて君になる 佐伯沙弥香について (電撃文庫)
やがて君になる 佐伯沙弥香について (電撃文庫)

やがて君になる 佐伯沙弥香について | やがて君になる | 書籍情報 | 電撃文庫公式サイト

マンガ『やがて君になる』のノベライズ作品であり、本編のメインカップルの一方である燈子先輩に想いを寄せる佐伯沙弥香を主人公にした物語。

あとがきでも書かれているように、時系列的には本編の前。主に、3,4巻でちらっと描かれた、彼女の先輩との話が描かれる話でした。「こういう私にしたのは、あなたのくせに」というのは、本編でも登場した印象的なセリフではありましたが、そこに至るまでにそういう出来事があったのねという話。セリフの時点で想像できていたように、あまり幸せな結末にはならない話ではありましたが、それが本編での佐伯沙弥香というキャラクターを形成しているのだと知れるのは、キャラに対する愛着が深まる貴重なエピソードであり。

そして、そうしたエピソードを読んだ後にまたあらためて「こういう私にしたのは、あなたのくせに」というセリフと向き合うと、言葉の通りの意味でもあるんだけど、そうでない意味でもあるんだなという気づきがあって味わい深さを感じられるところであり。まあつまり、彼女の中ではそういう認識になっているということなんでしょうけど、それも含めてとても佐伯沙弥香らしいなあと思わせてくれるセリフですよね。

なんというか、報われない巡り合わせのままならなさを思わされる、そんな感じの百合小説。いい話でした……と思ったら、さらにこの話の続編も数日後に出るようで。そちらも楽しみにしたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:47| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする