2019年03月06日

連邦制の逆説? 効果的な統治制度か

連邦制の逆説?: 効果的な統治制度か
連邦制の逆説?: 効果的な統治制度か

連邦制の逆説? - 株式会社ナカニシヤ出版

連邦制の逆説。それは、対立を解消し同じ国家の一員でありながら地域ごとに特色ある自治を促すはずの連邦制が、逆に国と地域の対立と分離をもたらすという論説であるようで。初めて目にする主張ではありましたが、なかなか面白い内容ではありました。

本書の構成としては、まず第T部の理論編でこの主張の概要とその下敷きになっている政治学の知見がまとめられ、その後の第U部の事例編でそれを念頭に置きながら各国の事例が紹介されていく。とはいえ、連邦制というくくりであげられる国だけだと事例がかなり限定されてしまうため、本書では広く地方自治の領域としてこの問題を取り上げている。そのため、扱う対象には連邦国家を名乗っている国以外も含まれる。タイトルから連想がつながりにくい国もあるかもしれないが、個人的にはそのおかげでより興味を持てる内容になっていたのでありがたいかぎり。

先に研究史や研究手法、理論的概要がまとめられていることから、初心者にも安心かと思いきや、むしろその辺の記述がどうにも抽象的で、事例編のほうが興味深く読めた気がするけれど、ともあれ理屈としては冒頭に書いた感じ。ユーゴスラビアの解体や欧米世界の各地でくすぶる独立問題などから、単一国家では為しえない多元的な統合国家を実現するはずが分離独立への一里塚となりうる可能性が指摘されている連邦制。ただ、ひと口に連邦制といっても地方分権の度合いは国によってさまざまであり、政党や政府の構造それぞれも、国家と地方政府を束ねる統合力としても遠心力としても働きうるものがあり、一概に連邦制が良い悪いと言えるものでは到底なさそうである。連邦制の導入にいたった経緯やそのもたらした影響にもその国ごとの事情があり、連邦制の逆説がどこまで一般化できるかについてはまだまだこれからの研究しだいなのかもしれない。


事例編で興味深かったのは、ペルギー、スペイン、イギリス、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、ユーゴスラビア、カナダあたり。やはり、個人的には西欧への関心がより高い。


ベルギーでは、オランダからの独立以来、オランダ語圏とフランス語圏の存在から、経済状況ともあいまって民族的な対立が存在していたようで。政策立案にも必然的にどちらかの有利不利が生じてしまうことから、1960年代末から主要政党の地域政党化もみられるなど、社会の分裂が進んでいたらしい。その問題への対応として、1993年に両言語圏のそれぞれの構成体とする「多極共存型」の連邦制が導入されるにいたったのだという。

これはオランダ語・フランス語両言語圏への分権化を進めることで対立の解消を狙うものであった。しかし、国政レベルではやはり両地域政党による大連立が基本であり、そこから90年代になると経済的に豊かなオランダ語圏から、分離独立を主張する地域主義政党が台頭しだしたのだという。それにより、連立交渉において、2007年にはおよそ半年、2010-11年においては1年半ほどもの間、首相が決まらない政治的空白期間が出現してしまうにいたった(2011年には国王アルベール2世が政治家たちへの不満の意を公的に発言するにも及んだとか)。

このように、ベルギーにおける連邦制は、経済状況の異なるふたつの地域圏への分化が、政党においては地域主義的言説こそが有権者の支持を集めるのに効果的な手段となるという意味で、分裂に向かう「競り上げ効果」を発揮しているのだという。その他にも、地域議会と連邦議会の同日選挙や、特に近年ではEUの人事など、大連立下での政府形成交渉に絡む事項の複雑化も指摘されていた。これらはまだ国家の分裂にいたるまでにはなっていないようだが、問題はくすぶりつづけていると言えそう。


スペインは正確には連邦制をとってはいないが、広範な地方分権を可能にする自治州国家制が採用されていることから、実質的に連邦制国家であると見なされて取り上げられている。本書の出版が2016年とあって、ここ1,2年の動きは触れられていないが、民主制移行直後の歴史がまとまっていてとても参考になる内容だった。

スペインは1970年代にフランコ体制からの民主化を迎えることになったが、もともとのスペインという国家成立の経緯もあり、カタルーニャ、バスク、ガリシアといった独立の火種を有する地域を複数抱えていた。そうした地域ナショナリズムを抑止し、地域の独自性を容認しながらひとつの国家としての形を維持していくべく導入されたのが自治州国家制であったという。この自治州制は導入時にすでに完成されていた制度ではなく、自治州側が自治憲章を改正したり、中央政府との交渉を重ねることで、広範な地方分権を果たしてきたようで。

近年はカタルーニャの独立運動が注目を浴びているが、この章の筆者はそれを連邦制の逆説と捉えることには疑問を呈しているように思う。分離独立の機運が高まっているのがカタルーニャだけであることもあり、カタルーニャ固有の問題であることを否定する根拠には乏しいというわけで。憲法裁判所による改正自治憲章の違憲判決がナショナリズム高揚の一因になったことは確かだろうけれど、それが連邦制(スペインでは自治州制だけど)による統合の限界を示しているかどうかは、時間をかけて他州の動向と比較する必要が指摘されている。

個人的に、地域ナショナリズムと敵対的な右派と融和的な左派という構図がどうも2000年ごろから見られていたらしいのが興味深くもあった。その後、いくつか新党が台頭してきているけれど、それでもこの構図は現在もつづいているように思うので。


イギリスでは、スコットランドにおけるナショナリズムが取り上げられていたが、なかでもイングランドに統合されながらも社会制度ともども独自の政策志向を有する地域性が維持されたことの指摘が興味深かったです。


ロシアや東南アジアの国々の事例は、地域ナショナリズムの抑止と多極共存を目指す連邦制およびその限界という観点よりも中央と地方の権力関係や地方内部での権力闘争といった視点からの分析が多かったような気もしますが、これはこれで面白くはありました。


ボスニア・ヘルツェゴヴィナでは、紛争後の和平合意によって、3民族・2エンティティ(構成体)からなる連邦国家として成立した国であるのだが、民族ごとの地域区分から、ベルギー同様の競り上げ効果が発生しているという。この状況を改善すべく憲法改正の議論なども行われているが、利害調整がうまくいかずに出口が見つからずにいるらしい。しかし、現状の連邦制自体も、紛争にまでいたった情勢下では複数の民族がまとまることのできる唯一の解だったとの指摘もあり、ままならない難しさがあるようである。


ユーゴスラビアはコラム的に触れられていただけだったが、チトーというカリスマ的なリーダーと冷戦下における非同盟主義の旗振り役としての立場から多数の民族を一体的な国家としてまとめあげていたのが、チトーの死や冷戦の終結によって、強力なリーダー不在のまま、経済危機に対してまとまった対応を取ることができず、民族主義の高揚から分離独立の発生にいたったという。

このコラムにおいては連邦制は多数の民族の求心力としても遠心力としても捉えられており、分離独立はそのバランスが崩れた結果であるとする。個人的にも、本書のテーマである連邦制の逆説に関して、現状で出せる結論はまだこんなところではないかと思うところである。


昨今の欧米国家で見られる分離独立運動の先駆けになったのはカナダにおけるケベックというイメージが自分の中であるが、これはすでに20世紀において2回も独立を問う住民投票が行われているという事実からきている。連邦政府としても、これまでケベックにはいくらかの分権化を進めてきてはいるものの、多数派の英語圏は仏語圏への過度な優遇には反発してきた歴史があるようで、民族のアイデンティティの問題としては根深い。

そんなカナダにおいていちばんに注目されるべきことは、独立問題に関して1998年に最高裁判決が下され、2000年には早くも連邦政府による独立のための条件を定めた法律の制定がなされているというところだろう。それによると、憲法改正による分離独立は可能だが、一方的に分離独立することは不可能であるとされているらしい。投票によって連邦離脱の意志が明確に表明された場合に連邦政府は州政府と交渉の義務が生じるとの内容であるようなので、そこから段階を踏んでいく流れになることだろう。
とはいえ、独立を認めない側の連邦政府が定めたルールであり、解釈の余地も残されていることから独立へのハードルはさらに高くなったとも言えるようで、現在の民主主義国家から平和的に独立することは果たして可能なのだろうかという疑問は残るところである。


以上、欧米を中心に東南アジアなども含めて、様々な国の連邦制的な分権的な統治制度とその歴史的展開を概観できる一冊として、とても面白い一冊だった。いくつか、もうすこしほかの文献にあたって理解を深めたい気持ちにもなってくる。この分野への興味を高めてくれる、いい本でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:41| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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