2019年01月31日

迷走するイギリス――EU離脱と欧州の危機

迷走するイギリス―― EU離脱と欧州の危機
迷走するイギリス―― EU離脱と欧州の危機

慶應義塾大学出版会 | 迷走するイギリス | 細谷雄一

親EU・反EUの姿勢をイデオロギー的かプラグマティズム的かで分ける捉え方。興味深い。(本文中で定義されていたわけではなく個人的な理解にすぎないが)イデオロギー的な親EUは理念共感型であり、プラグマティズム的親EUは実利重視型であり、イデオロギー的な反EUは自国主権に統制が加えられようとすることへの反発型であり、プラグマティズム的な反EUは移民や域内への拠出による国民経済への影響感を嫌悪する型であり、とでもなるだろうか。

それを念頭にイギリスとEU(それ以前のEEC時代からも含めて)の関係を見ていくと、イギリスのヨーロッパ統合運動への参加はごく初期をのぞいてほとんど常に経済的な実利重視の態度によるものだったようで。そこからくる理想主義への懐疑姿勢だったりで厄介なパートナーとしての地位も築きあげられていったのだけれど、それでもヨーロッパにおける一大経済国としてほかの加盟国と共同で統合への道筋を描いていっていた国家なのであって。それがイデオロギー的な反発が拡大していくことになったのは、マーガレット・サッチャー首相の時代。EU(当時はEC)が市場統合からさらに政治的社会的な統合へと深化していく方向性を打ち出しはじめたことが原因になったという。加盟各国の法をも規範する欧州的な憲法典、各国政府の政策をも規定する超国家的な統一政府、それら国家主権に対する束縛への拒否反応がイギリスではひときわ強かったらしい。大陸諸国とは海を隔てた島国であり、言語的にもアメリカとのつながりが強いのがイギリスであり、根本的なところまでは価値観を共有できなかったということなのかもしれない。それでも統合市場における経済的な利益の手放しがたさからその一員でありつづけてきたものの、着実に統合への道を進めようとするEUへの反発を政権内部でも抑えきれなくなった結果が2016年に行われた国民投票だったということだろうか。もともとイギリスは対外関係的に、対米重視・対欧州重視のはざまでかじ取りを迫られる部分があったようなので、EUべったりになりきれなかったところもあるのかもしれない?

また、昨今のイデオロギー的な反EU思潮の広がりにはイギリス国内のメディアが果たした役割も小さくないようで。イギリスの人々が日頃から目にする新聞の一部(大衆紙においても高級紙においても)で連日のようにEU懐疑の論陣が張られることで、もともとEUへの関心がうすかった国民にも反EU的なイデオロギーが浸透していく要因になったのだという。この辺、イギリスのメディアは日本と比べるとかなり政治的なスタンスをはっきりさせてると思う。2016年の国民投票に際しても、離脱賛成派・反対派ともども、メディアも含めてかなりの論陣が張られていたことと思われる。ただ、その賛成派の論陣は、本書以外でも書かれていることながら、客観的なデータよりも読者・聴衆の感情に訴えかけるメッセージが中心だったようなので、それはまさにポピュリズムそのものとしか言いようがないところ。けれどその投票で実際に勝ってしまったのが離脱賛成派であって。一部のメディアではポピュリズム対アカデミズムのような論調を見かけることもあるけれど、そんな構図が成り立ってしまうほどにポピュリズムが力を持ってるのが現在のイギリスなのだろう。そんなイギリス社会にも興味があるところではあるが、これ以上は話が逸れるのでそれはともかく。

現実時間ではいよいよ離脱の日が近づいているにもかかわらず、いまだイギリス・EU間における離脱後のための協定は結ばれていない。離脱派内部でも意見にばらつきがあったり、離脱反対派は二度目の国民投票を求めていたりと、EU離脱問題に限ってもタイトル通りの迷走がつづいているイギリス政治。現在の争点は何か、その背景にはある問題はどういったものか、そしてこの問題の先にどのような展望が開けていくのか……。興味の尽きないところです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:32| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月22日

偽りのフレイヤ(2)

偽りのフレイヤ 2 (花とゆめCOMICS)
偽りのフレイヤ 2 (花とゆめCOMICS)

偽りのフレイヤ 2|白泉社

泣き虫な村の少女が、将来を嘱望されていながら命を落としてしまった王子になりかわる。難易度無理ゲー級ファンタジー少女マンガ第2巻。

今回も至難の展開がつづいてた。命を狙う者との対峙、決闘裁判……それら村娘時代には縁のなかった血と争いごとの世界で生きていくことをひきつづき強いられる。しかも、周りを以前の王子を知り、かつ王子のなりかわりを知らない家臣や側近たちに囲まれながら……。相変わらず無理ゲー感が強い。

共犯者はいまやふたり。幼馴染の兄弟の片割れで従騎士のアレクシス(アレク)と、その主人であり王子本人の腹心でもあった近衛騎士ユリウス。降りかかる危機をはね除け、偽りの王子をサポートしていくには人員が不足しているのは明らか。

けれどそんな状況であろうとも、フレイヤは偽りの王子を演じることを求められるわけで。決然とした態度、周りの者を引きつけずにはおかない強気さ、傲慢なほどの自信とそれが様になる美しさ……。それらを持ち合わせていた王子と、ただ容姿が瓜二つだっただけの自分との乖離はとても埋めきれるものではないにもかかわらず。

それでも、この少女は「王子」になってしまうんですよね。側近の危機に、領民の危機に、彼ら彼女たちを救えるのは「王子」しかいないからと、「王子」ならば救えるかもしれないのにと、その「王子」とはいまや自分のことなのだと、内なる声に従うように。まるで理想の「王子」を演じるかのように。内気な少女としての一面は変わらず存在しつづけているからこそ、その姿とのアンバランスさにハラハラさせられることといったら。

無理をしているフレイヤを見るたびに、アーロンのことを残念に思わずにはいられない。最大の心の支えでしたからね。アレクとユリウスでは、ふたり合わせてもまだ足りない。けれど、だからこそ、ふたりとの絆がすこしずつ強くなってきているのを感じさせられもする。ユリウスとは、いちばん大切な者を亡くした心の傷を抱える者同士として。アレクとは、王子らしさを求められる環境下で少女としてのフレイヤをさらけ出せる相手として。

くわえて、王子の側近にも、事情は知らずとも支えになってくれる人はすこしずつ増えてきているのが救いではあり。偽りの王子としての振る舞いにも確かにカリスマ的な魅力の片鱗はあるけれど、ここぞというとき以外のフレイヤはやはり心優しい少女であり。そんな「王子」の意外な一面によって忠誠心を増していく者を見ていると、彼らの存在がフレイヤの心の支えにまでなれる日がくればと願わずにはいられません。

とはいえ、フレイヤもただ泣き虫なだけの少女ではないんですよね。柱のところでジャンプ力はすごいと書かれてたように、身体能力に関してはもともとそれなりのものを持っていたようで。腕力はともあれ脚力についてであれば、ユリウスにサルと罵られたりするほどのものを何度か発揮してくれてたりもする。なので、剣を持っても一概に非力とはいえない一面に驚かされたりもするんですよね。

秘めたポテンシャルを知るにつれて、もしかしたらそのうちに偽りの王子としての演技も板についてくるのかもしれないと期待させてくれるものはある。けれど、平時ならばともかく、フレイヤたちの国はいま戦争をまっただ中にあるのであって。しかも形成は不利。そんななかでの「希望の王子」だったんですよね、もともとのエドヴァルト王子は。やっぱりこれは荷が勝ちすぎてますよ。

いよいよ戦争の最前線に飛び込んでいく流れになって、果たしてフレイヤはどれほどの衝撃を体験することになるのか。不安で不安でしかたなくて、だからこそ目が離せないシリーズです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:32| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月20日

あの娘にキスと白百合を(9)

あの娘にキスと白百合を 9 (MFコミックス アライブシリーズ)
あの娘にキスと白百合を 9 (MFコミックス アライブシリーズ)

あの娘にキスと白百合を 9 | あの娘にキスと白百合を | 書籍 | 月刊コミックアライブ オフィシャルサイト

番外編が本編感ある。既刊のカップルが再登場してくれて、そのままの雰囲気でいちゃいちゃしてくれるのがとてもいいんですよね。

いつきと紗和のカップルは、あいかわらずさーちゃん大好きすぎて昔の思い出まで全部覚えてるレベルないつきに対して、それを受け止める側の紗和が素で忘れてたりするやりとりがおもしろかったりするんですけど(誕生日忘れてたりとか)、今回も、うろ覚えで昔の思い出の品を持ち出してくる紗和に、さーちゃん大好きすぎるいつきがあえてツッコミを入れることなく、うれしそうにしてる自分を見てしあわせそうにしてるさーちゃんが見れて幸せな気分になれてるという、そんな入り組んだ構造にこちらまで幸せな気持ちにさせられるようでした。

あまねと仁菜と諒の三人は、シリーズでは独特の三人仲良く感が出てるのがいい感じで。そしてその中に、三人仲良く大好きなあまねと、そんなあまねの様子に幸せそうな諒と、三人という関係性にまだ照れのある仁菜という、三者三様の心情をばっちり感じさせてくれるのがいいものであり。

あとがきによると、シリーズ通した主役である白峰さんと黒沢そんの話もそろそろ終盤ということで。次はどんな話になるのか、楽しみですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:10| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月16日

メイドのユキさんのヒーリング耳セラピー

(今回も雑記カテゴリで。さらに増えるようなら専用カテゴリ設置を検討します)
メイドのユキさんのヒーリング耳セラピー

記憶喪失のご主人様と献身的なメイドのユキさんによる耳かき系音声作品(と自分の中では分類してますが、サークルさん側が呼称するようにヒーリングセラピーと呼んだほうがいいかもしれません。耳かき以外の場面も多いことですし)。作品紹介によればシリーズ3作目ということですが、これだけ聴いても問題なし。まさに自分がそうでした。ご主人様が記憶喪失になってしまった設定とも重なって、かえってまっさらな気持ちで楽しめたように思います。

トラックの内容としては、作品紹介ページ(画像リンクより)を見てもらったほうが正確かとは思いますが、耳かき、オイル(耳)、散髪、シャンプー、綿棒と耳オイル等、さまざまな場面が用意されており、多彩な音で癒してもらえます。耳かき音は定番ですが、音による癒しはそれのみにはあらず。それ以外にもいろいろな音を体験させてくれる構成がポイントです。自分の好みの音が多かったのでなおさら。

まず、オイルセラピーのさわさわ音、とてもよかったですね。音の鳴る場所が移動しながらなのを感じつつ、両耳同時に表面をなぞられる感じが伝わってきて、ゾクゾクさせられること。その後のタオルで拭く音も、オイルっぽいぬるぬる感から乾いた布のさわさわ感もいい感じで。そして、最後の手のひらで耳を揉みこむマッサージ、これがたまらない。耳を押さえるようにしての動作なので、耳がふさがれるようになって、聴覚がぼうっとなる感覚がめちゃくちゃ気持ちいい。これ好きなんですよね。両耳同時なので意識までぼうっとさせられそうな快感。

散髪セラピーでのハサミのちょきちょき音もよかったです。ハサミの刃を開閉する軽快な音が頭の周りをあちらこちらに行き交う気持ちのよさ。触れるか触れないかくらいの距離感で、軽やかでありながら甘やかさを感じさせるハサミの入れ方が絶妙にぞくりとさせてくれるんですよね。特に、まゆげをそろえるところで、それまで以上にハサミの音が慎重になるところ。真剣に目分量を図るようにしながらジョキ、ジョキとすこしずつ髪が切られていく様子が、丁寧なうえに丁寧さを感じさせてくれるようでたまりませんでした。結構なお手前で。

お風呂後の、顔に乳液を塗るすべすべとした音も心地よかったですし、耳にアロマオイルを塗るときはまた耳を塞ぐようにしてくれるからたまりませんでしたね。耳の表面を指がなぞるさわさわ音の合間にこもって聞こえる声はものすごく気持ちいい。耳ツボのマッサージをはさまれたりもするものだから、本当にトんでしまいそうになる快さ。最後に乾いた布で耳を拭くかさかさ音もたまらなくて、実に癒されるパートでした。

総じて、これ単体でもストーリーは問題なく理解でき、ヒーリングセラピーの音としてもどれもとても気持ちのいい音ばかりで、とても満足のいく一作でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:28| Comment(0) | 音声作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月13日

オネエ男子、はじめます。(3)

オネエ男子、はじめます。 3 (花とゆめCOMICS)
オネエ男子、はじめます。 3 (花とゆめCOMICS)

オネエ男子、はじめます。 3|白泉社

事態のややこしさの跳ねあがりようが尋常じゃないんですど! なにこれ。いろいろ斜め上の展開すぎてツッコミが追いつかない追いつかない。展開的に乗りに乗ってておもしろいことといったら。そういえば、巻末の作者さんのコメントで気づいたんですけど、いわれてみればこのシリーズ、1巻から特に登場キャラクターが増えてはいないんですよね。それもあって、勢いだけで生きてるようなおバカどものこと、それぞれのキャラにいろんな展開があって、そのたびに予測のつかない方向に話が転がってはノリでまあいいかで済まされて。その結果、どんどん明後日の方向にズレてきている展開のおもしろさよ……。今回もめっちゃ笑った。ここからまだどう転がっていくのか、非常に楽しみなシリーズになってますよね。

それにしても、オネエ修行をしてたはずがどうしてこうなった……という感じだけど、たぶんアレだよね。オネエ修行のはずが、途中から女子力上げすぎて女装にも足を踏み入れだしたのが、今回のいろいろおかしな進展の元凶ですよね。男子が苦手な音鐘さんとお近づきになることが目的だったはずが、なぜか女装姿で会って話したりなんかしてるから……。なんで女装姿の自分がライバルみたいになってるんでしょうねえ。というか音鐘さんのほうも女装姿の「高橋さん」相手なら満更でもなさそうすぎていろいろおかしい。特にラストの展開は予想外すぎて。もういっそそのままいけるところまでいっちゃうのもおもしろそうだけど、さすがにそうなると話がややこしくなりすぎるでしょうか。当初の目的からしてもどこかで軌道修正必須なんでしょうけど。ただそれにしたところでもうどこから手をつけたらいいのか、いろいろよくわからない状況ですよね。まあそこがおもしろいんですけど。

女装といえば、「せらちゃん」もすっかり女装が板についてしまって……。中身はふつうに女好きな男子なのに、本人はノリノリだし、無事に(?)女装男子としの認知も広がってるんですよね。交際設定とかまて付与されだしたりしてて、こちらもこちらでどうしてこうなった……は最初から読んでればちゃんとわかるんですけど、あらためてふりかえるとやっぱりツッコミ不可避ですよね。まあともあれこっちもおもしろいことになってるのが楽しいキャラであり。

高橋の妹の杏ちゃんも、今回もおバカにズレたオネエ修行への冷静なツッコミがおもしろくありつつ、くわえて兄やその友人たち(男)の無駄にレベルの高い女子力へのリアクションに笑わせてもらったり、コメディ的に欠かせないキャラになってますよね。その一方で、伊織との関係で伊織の不憫感だけでない展開が見られたのはとてもニヤニヤさせてくれるものでもありました。

そして、個人的にうれしかったこととしては、出張版の話で『水玉ハニーボーイ』の仙石さんがまた登場してくれてたこと。しかも、短いページ数のなかでイケメンぶりをしっかりばっちり発揮してくれてたからもう満足。格好良い仙石さんホントいいですよね。

ともあれ、話もとても気になるところでつづいており、次の巻が待ち遠しくなってくる話ではありました。展開的にも乗りに乗ってる感があって、要注目のシリーズだと思います。未読の方はぜひ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:02| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月11日

「ラノベ人気投票『好きラノ』 - 2018年下期」に投票します

https://lightnovel.jp/best/2018_07-12/

さて、今回もこの時期がやってきたということで、候補を選定しようと期間内対象作品をピックアップしていたら数冊しか読んでないことに気づいて途方に暮れました。はい。そういえば、前回もなかなか投票したい作品見つからなかったところ、ぎりぎりでひとつ見つかったのでかけこみで投票したんだった。そんなことを思い出してみてもいたしかたなし。直近のラノベの読めてなさがひどい。本自体は読んでるんだけど、ラノベの比率の減少が著しい今日この頃。

ともあれ、今回投票するのは以下の2作です。男性向け単行本から1作、女性向け文庫から1作。どちらもとてもいい作品なので、気になった方はぜひぜひどうぞ。

予言の経済学(1)巫女姫と転生商人の異世界災害対策 / のらふくろう  感想記事へ
予言の経済学 1 巫女姫と転生商人の異世界災害対策 (レジェンドノベルス)
【18下期ラノベ投票/9784065136263】
新興のレジェンドノベルスより。超常的な予言を科学的な推測に変え、現実的な対策を考えていく話。仮説ベースで予言を検証していく過程は謎解きのようでおもしろく、出自を考えれば不安になってくるくらいの純真さで主人公を慕うお姫さまとそんな彼女に警戒心を隠せない幼なじみと主人公の間で生じる三角な人間関係も楽しかったり。

呪いの王女の幸せな結婚 / 水月青  感想記事へ
呪いの王女の幸せな結婚 (ソーニャ文庫)
【18下期ラノベ投票/9784781696287】
歪んだ関係性を描くことに定評のあるソーニャ文庫より。箱入りで世間知らずな王女さまが幸運の王子との結婚により幸せを手に入れる話であり、またその純粋な幸せの裏に隠された強烈な執着心に魅せられる話でもある。幸せは籠の鳥。ヒロイン視点と、ヒーロー視点で、一冊で二度楽しめる物語です。

以上になります。

期間内に読んだ中でのベストは火崎勇『王位と花嫁』(講談社X文庫ホワイトハート)だったんですけど、これは上期の作品なので投票できず。残念。

次回は5票くらい投じられたら……とは思いつつも、最近の読書傾向的にどうなることやら。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:24| Comment(0) | 読書まとめ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月09日

検証 長篠合戦

検証 長篠合戦 (歴史文化ライブラリー)
検証 長篠合戦 (歴史文化ライブラリー)

検証 長篠合戦 - 株式会社 吉川弘文館 安政4年(1857)創業、歴史学中心の人文書出版社

『長篠合戦と武田勝頼』においてはどちらかというと騎馬兵の合戦における立ち回りがクローズアップされていた印象があるが、こちらでは当時の鉄炮の運用についてより詳しく記述されていた印象。二冊そろって当時の合戦の姿というものをより正確に描きだそうとする研究は、その一部をあちらこちらでかじっていたとはいえ、まとめて読むと古いイメージで固定されていたのが否めない身には新鮮で面白かったこと。とはいえこれでもまだ研究途上のようですし、軍事史的観点から見る戦国時代というのもなかなか興味深いテーマではありそうで。

本書を読んでいて浮かびあがってくるのは、当時の鉄炮の使い勝手の悪さでしょうか。後代のあと知恵をもってすれば、鉄炮の採用は時代の変革であり、いち早くそれに手を付けるのは先見の明の表れであったのだろうなんて思えたりもするけれど、どうもそれほど決定的なアドバンテージがあったようには読み取れないのですよね。まず調達するだけでコストがかかる。鉄炮本体の国産地はかなり限られているため、輸入分を合わせても数をそろえるのには大名直属の鉄炮衆だけでなく家臣団からもかき集める分が欠かせなかったようで。また、本体のほかに弾丸や火薬などの消耗品も必要になってくるけれど、これも必ずしも勢力圏内で賄いきれるものではないので輸入して取り寄せなければならないものも発生する。しかも、それらは揃えるだけ揃えてあとは合戦のときだけ持ち出せばいいかというとそんなことはなくて、鉄炮衆の質や練度の向上のための訓練が重要になってくるため日常的に消費する分の調達も欠かせなくなってくる。実戦投入の前段階からしてやたらとリソースを要求されるのが伝わってくるんだけど、その上そうまでして鉄炮衆を配備しても、実戦の戦況に与えられる影響はそれほど決定的ではなかったりするようだからたまらない。よく言われるように連射性に難があるので射撃の合間には隙が生じるし(そのために多段撃ちがあるにはあるけれど)、そもそも雨が降れば使えないし……。鉄炮の採用に有用性はあるけれど、実戦での効果は局面的なものでしかなかったのではないかとも思わされる。けれどそれでも戦国時代の各勢力のもとで鉄炮が普及していったのは、矢合戦よりも遠距離から戦端を開ける有効射程の長さを有する都合上、敵がそれを持つからには、こちらも持たないことには一方的な戦とならざるをえなくなってしまう事情があったからではないかとも思ったり。

長篠の戦いの主要勢力の主である武田氏と織田氏にとって、鉄炮に関してのいちばんの相違は、地理的な両者の領国の位置がもたらす鉄炮本体や玉薬の調達しやすさにあったといえるだろうか。輸入原料が存在する関係上、西高東低な傾向が現れるのはある程度しかたのないことだったろうけれど、三千挺ともいわれる鉄炮衆を打ち崩すことができずに敗北を喫した長篠の戦いの結果を見ると、地理的な資源へのアクセス性が勝敗に与えた影響は無視できなさそう。

合戦における武田勝頼の敗因としては、そのほかにも鳶ヶ巣山砦の陥落などがあげられていたけれど、そのなかでも個人的には敵軍情報の誤認がいちばん大きかったのではないかと思えたり。鉄炮の装備云々以前に単純な兵力数の段階ですでに倍ほどの差があったにもかかわらず、それに気づくことなく思ったよりも小勢だぞとあなどってしまっていたようなので。諜報の失敗ともいえそうだし、裏返せば信長側による欺瞞作戦の成功ともいえそうで。そしてどちらにせよ、これは純粋に勝頼自身の決断の失敗なのであったという。父信玄から武田の負の遺産を受け継いだ悲劇の将としての勝頼像を否定する内容でもあるでしょうか。まあでも著者の平山先生はこの後著『武田氏滅亡』でも述べていたと記憶しているように、この合戦を滅亡の原因としてはいないのだけれども。

その他、鉄砲玉の成分の解析から東南アジアにまで広がる当時の貿易事情が見えてくるのは興味深かった。ここ、もっと深堀りした本はないだろうか。

そして、ポルトガル船からの鉄炮伝来以前の中国からの鉄炮の導入をさらっと既知の事実のごとく記す記述に衝撃を受けていた。いやまあそんな説もあるとかないとか見かけた記憶もあったように思うけど、自分が学校で習ったのはたしか1543年説だったっけ……。研究の進歩による新説との遭遇には驚かされるばかりですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:31| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月08日

シンデレラ・コンシェルジュ(1)

シンデレラ・コンシェルジュ (1) (フラワーコミックスアルファ)
シンデレラ・コンシェルジュ (1) (フラワーコミックスアルファ)

シンデレラ・コンシェルジュ 1 | 七島佳那 | 【試し読みあり】 – 小学館コミック

このコンシェルジュがハイスペック。調理にDIYに、ひとりでさらっとやってのける仕事のレベルの高さに、様々な要望に応えるお仕事の天職ぶりを実感させてくれる。とはいえ、そもそもとしてそれら数々のスキルを身につけるに至った経緯が、人並はずれた尽くし体質で新しく彼氏ができるたびに特技も増えていった結果だというのが泣けてくるところであり。そんなヒロインだから、特技としてのハイスペックさも男運のなさを象徴するものでしかなくて、誇れるものではまったくなかった。けれど、そんな彼女のあるがままの姿をすごいと言ってくれ、引き立ててくれる人との出会いがもたらされた。それがこの物語のヒーローであるキャラになるわけで。このヒーロー、ヒロインとはまた別の意味でいろいろできちゃう人ではあるけれど、そのせいで自分というものが空っぽになってしまっているタイプでもあるようで、それだけに似た部分がありながらも前向きなヒロインに目が離せなくなっていくところがあるようで。ヒロインとしても、呪いだと思っていたものに肯定感を与えてくれる人というのはなかなかありがたいものではあり、この時点で相性の悪くないふたりと思わせてくれるものがあります。今後、このふたりの仲がどう進展していくのかといったところですね。個人的には、ヒロインのハイスペックぶりについてももっと楽しみにしたいところだったり。

読切のほうはみごとなまでのケンカップルで。冒頭の別れ話の本気っぽさがマジだっただけに、最後でよりを戻す流れがケンカップルらしさをより感じさせてくれて。腐れ縁のようでもあるけれど、まあつまるところお似合いなふたりなんでしょうね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:19| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月05日

エクレア rouge あなたに響く百合アンソロジー

エクレア rouge あなたに響く百合アンソロジー
エクレア rouge あなたに響く百合アンソロジー

エクレア rouge あなたに響く百合アンソロジー:コミック | KADOKAWA

4冊目となる短編百合マンガ集。今回もすてきな百合がいっぱいないい一冊でした。感想は各話ごとにて。

カボちゃ「はじめまして、久しぶり」
自分にはないものを持った、特別な友だち。ふたりの間にあるのは思い出と、そこからくる好感と、ほんのりとしたあこがれと。進学を期に道はわかれても、お互いが特別なのは変わらない。なんというか、いいですよね。うん。

仲谷鳰「わたしカスタムメイド」
リアルに興味のないアバター作家とお近づきになるために、彼女好みの可愛いアバターを依頼しておじゃまする。短くまとまったそんなお話がとてもかわいかったです。

唯野影吉「あわせたら最後」
前回のキャラ! うーん、やっぱりコミュ障かわいい。

ヒロイチ「どん底の恋わずらい」
すっごいどうしようもない感じ。とてもいい。

北尾タキ「レジェンドと新人と私」
コメディタッチな社会人百合いいですわー。実年齢差二桁の先輩と後輩という関係で、基本的には一途な後輩をエースな先輩がようやるわみたいに見守ってるのがいい感じなんだけど、ときおりそんな関係性が逆転する場面も見どころだったり。

今回いちばんの好みは「レジェンドと新人と私」だったでしょうか。ほかの作品の女の子たちもいろんなかわいさがあって、やっぱりいい一冊でした。次にもぜひ期待したいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 04:40| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月04日

女装コスプレイヤーと弟(1)

女装コスプレイヤーと弟(1) (ガンガンコミックスONLINE)
女装コスプレイヤーと弟(1) (ガンガンコミックスONLINE)

Twitterでたまに見かけては気になっていたマンガが書籍化されたとなればこれは買うしかないというところで(ちなみにTwitterで見かけてたのはだいたい和久井透夏先生(@TokaWakui)によるRTだったような気がします。女装系の作品のRTに個人的に定評のある方です)。というかこれコスネタ的によく書籍化できたなと驚くところですが、それはともかく。

弟よりも元カノとの関係が気になるんですけど! (女装)コスに夢中でそのまま自然消滅とか、なんかもうめちゃくちゃ詳しく知りたくなってくる情報なんですけど!

というか、主人公もそんな過去があるものだから、女装コスプレにも抵抗がないというか、ノリノリなんですよね。いやまあ自分で楽しむか、あるいは他人を楽しませることに楽しみを見出だすかあたりができないと、なかなか続かないものだとは思いますけど(一般的な趣味の話として)。そしてこの主人公の場合は自分で楽しむのがメインなタイプであるようで、メイク映えする顔をいかしたかわいい女の子のコスプレを自撮りなんかして楽しんでいたそうなのであったという。まあ本人が楽しいならそれでなによりなんだけども、自分で自分の女装コス姿をかわいいと言っちゃうあたりは、しかも照れながら言っちゃうあたりとか、それが元カノとの会話ということを考えてもね、もうね、かわいいよね。このシリーズ、コスプレのこととかよくわからず女装姿に恋してしまったフランス人の義弟のちょっとずれた愛情表現が萌えポイントなのかなと思うんですけど、個人的にはそっちよりもおまえがかわいいよという。

弟との距離の取り方に関しても、普段は男同士かつ義理の兄弟なんだけど……という事実によって一定以上に近づけさせてはいけないという抵抗感が働いているけれど、疲れてたりお酒が入ったりしてそういう心理が働かなくなってくると、べったり慕って寄りついてくる弟くんを自然に受け入れている瞬間があったりして、姉弟みというかおねショタみというかを感じられてグッドだったり。あと、弟くんによる人前だろうがかまわず押せ押せなアプローチで照れ照れになる主人公(女装)はまあ文句なしに優勝ものなので、もっともっと引き出してもらいたいところではあり。

1巻とナンバリングされてもいますし、2巻も楽しみにしたいところですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:17| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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