2018年12月15日

歴史人名学序説 中世から現在までのイベリア半島を中心に

歴史人名学序説―中世から現在までのイベリア半島を中心に―
歴史人名学序説―中世から現在までのイベリア半島を中心に―

歴史人名学序説 ≪ 名古屋大学出版会

(※読んだ記憶をもとにして書いてるので、実際の内容とは違うことを書いてる部分もあるかもしれません。)

公刊された各種史資料をもとに、人名のあり方、その傾向や変遷を、文化的・歴史的その他さまざまな側面から検討していく学問、歴史人名学。なかでも本書は、著者の専門とするスペインの位置するイベリア半島の中世から現在までを中心として、フランスやイタリア、イギリスも含めてより広く西ヨーロッパを俯瞰しようと試みる一冊。

たいへん興味深い一冊であり、面白かった。

記述の内訳としては、分量的に中世が半分、近世以降が半分といったところ。その概要としては、古代ローマ式の「名+族名+家名」が衰退して単一名となった中世初期の状態から、出身地や父の名などを付した補足名の登場を経て、父から子へと代々受け継がれていく姓が定着していき、近世以降ではスペインにおいて特徴的な第一姓と第二姓が合わさった複姓の登場およびその普及の流れを追う。また、その間には、これもスペインで特徴的な、使用される姓や名の縮減や集中の過程もあつかわれる。

思えば人名というものには単なる呼称という以上の意味合いを考えたこともなかったんだけど、どのような経緯でそのような形態になっていったのか、それを知ると、これもまた歴史のひとつの大きな題材なんだなと気づかされる。現在において当たり前のように使われている姓名から中世にまでさかのぼるそのルーツをたどるのは、またアラブ圏や広く西ヨーロッパにまたがる伝播の過程とも合わせて、人の文化の長い歴史に思いを馳せるようでたいへん面白い内容だった。

個人的には中世スペイン史に関心があるのでそのあたりの内容についてもう少し触れていく。「スペイン」という国家がまだ存在せず、中小国が割拠していた中世の半島情勢と呼応して、姓名システムの伝播に関しても一様な推移は見られない。しかし、おおざっぱには半島の中西部と東部に分けられるという。これはすなわち中世におけるカスティーリャ王国とアラゴン連合王国に該当する地域である。レコンキスタの進展にともなって、西半分ではレオン(レコンキスタのルーツともいえるアストゥリアス王国が都を遷してレオン王国と名を改めた地)やガリシア(巡礼で有名なサンティアゴ・デ・コンポステーラの位置する地域)などの北西部からカスティーリャ地域へ、さらにそこから南部の再征服地域へと伝わる流れが読み取れ、東半分ではピレネー山麓のナバーラやアラゴンからエブロ川の下流地域へ、そこからこちらも南部の再征服地域へと伝わる流れが読み取れるのだそうで。こうしてみると、姓名システムの伝播からでも半島情勢の推移がうかびあがってくるものがあり面白い。その一方で、目下スペインで耳目を集めるカタルーニャの独自性についても再認識させられるものがある。半島東部としてくくられる地域のなかでカタルーニャにおける伝播の推移も述べられるのだが、ナバーラやアラゴン地域よりもむしろ南仏のオクシタニア圏との共通性が見て取れる。

父称の普及経緯についての論もまた面白い。補足名としての父称には異教徒の境界地帯であるイベリア半島らしくイスラーム圏からの影響を推測しながらも、それが父から子へと代々伝わる姓へと転換していくのは西ヨーロッパのなかでは遅いほうだったとし、その原因を封建制の未成熟さにみるのは西ヨーロッパの特殊地域としてのスペインらしさを思わせる部分。父称がなぜ発達したのかという経緯に関して、それは父とのつながりを強調するためである。すなわち、父の有する土地や財産の権利を受け継ぐ者であり、さらにその父称が姓として代々受け継がれていくと、その相続される権利がその家に代々伝わっていくものであることを主張することにもなる。それに対して、中世におけるスペインはキリスト教勢力圏の拡大の歴史でもあり、また植民や開拓民の募集によって新規に土地を獲得した人々を数多く生み出した時代でもある。その地が代々受け継がれる土地になっていくのにはまだ少しの時間が必要であった。また、継承のシステムにおいても、男子だけでなく女子による継承を認める慣習が伝来する地域が多数存在しており、それもまた父方の姓を代々継承していく姓名システムの普及を遅らせることになったという。そしてここでもカタルーニャは例外的であり、11世紀の「封建革命」期に一気に父称の普及が進むという。

そして、中世からすでに看取でき、現在においてはヨーロッパでひときわ目立つ傾向となっているスペインの姓名に関する特徴が、使われる姓・名の種類の少なさであるそうで。姓については特に、第一姓・第二姓とふたつの姓があるにもかかわらず、スペイン人の姓の数は少ないのだという。これは、たしかに言われてみればそんな気はしなくもないようなというところで、これはさまざまな要因が絡み合った結果のようなのだけど、それはともかく、実例としてガルシア・ガルシアとかフェルナンデス・フェルナンデスなんて姓が検索すればふつうに出てきたりするのはおもしろくもあり。

そんな感じで、そもそも中世初期って姓がなくて名前だけで個人の識別してたのかとか、そんなレベル知識から読みはじめて、中世から現在にいたるスペインの歴史に思いをはせながら、最後まで興味深く読むことができた。たいへん面白い本でした。関連書も読んでみたい……と思ったのだけど、参考文献を見るかぎり、すくなくとも日本語の文献はなさそうで? その点はやや残念な気もしますが、ともあれ中世ヨーロッパの歴史に興味ある人にはぜひともオススメしたい本ではありました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:38| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ノンフィクション・カテゴリ新設

読む本のジャンルが自分でもなかなかカオスになってきたと思う今日この頃。フィクション作品以外でもおもしろい本があって感想を残したいと思うものの、フィクションの感想を期待している向きにはコレジャナイ感がひどいのではと思えるところでもあり、いっそのこと新規カテゴリを設置してみんとす。

カテゴリ名は「ノンフィクション」とするけれど、意味合いとしては「フィクションではない本」くらいのつもりで。「非フィクション」のほうが近いかもという気もしますが、こちらのほうが通りはいいかなと思ったので。

本の種類上、やや政治的な内容も含んだりするうえに書く感想はわりとテキトーだったりするのでちょっとこわかったりもするんですが、ものは試しということで。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:28| Comment(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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