2018年12月15日

歴史人名学序説 中世から現在までのイベリア半島を中心に

歴史人名学序説―中世から現在までのイベリア半島を中心に―
歴史人名学序説―中世から現在までのイベリア半島を中心に―

歴史人名学序説 ≪ 名古屋大学出版会

(※読んだ記憶をもとにして書いてるので、実際の内容とは違うことを書いてる部分もあるかもしれません。)

公刊された各種史資料をもとに、人名のあり方、その傾向や変遷を、文化的・歴史的その他さまざまな側面から検討していく学問、歴史人名学。なかでも本書は、著者の専門とするスペインの位置するイベリア半島の中世から現在までを中心として、フランスやイタリア、イギリスも含めてより広く西ヨーロッパを俯瞰しようと試みる一冊。

たいへん興味深い一冊であり、面白かった。

記述の内訳としては、分量的に中世が半分、近世以降が半分といったところ。その概要としては、古代ローマ式の「名+族名+家名」が衰退して単一名となった中世初期の状態から、出身地や父の名などを付した補足名の登場を経て、父から子へと代々受け継がれていく姓が定着していき、近世以降ではスペインにおいて特徴的な第一姓と第二姓が合わさった複姓の登場およびその普及の流れを追う。また、その間には、これもスペインで特徴的な、使用される姓や名の縮減や集中の過程もあつかわれる。

思えば人名というものには単なる呼称という以上の意味合いを考えたこともなかったんだけど、どのような経緯でそのような形態になっていったのか、それを知ると、これもまた歴史のひとつの大きな題材なんだなと気づかされる。現在において当たり前のように使われている姓名から中世にまでさかのぼるそのルーツをたどるのは、またアラブ圏や広く西ヨーロッパにまたがる伝播の過程とも合わせて、人の文化の長い歴史に思いを馳せるようでたいへん面白い内容だった。

個人的には中世スペイン史に関心があるのでそのあたりの内容についてもう少し触れていく。「スペイン」という国家がまだ存在せず、中小国が割拠していた中世の半島情勢と呼応して、姓名システムの伝播に関しても一様な推移は見られない。しかし、おおざっぱには半島の中西部と東部に分けられるという。これはすなわち中世におけるカスティーリャ王国とアラゴン連合王国に該当する地域である。レコンキスタの進展にともなって、西半分ではレオン(レコンキスタのルーツともいえるアストゥリアス王国が都を遷してレオン王国と名を改めた地)やガリシア(巡礼で有名なサンティアゴ・デ・コンポステーラの位置する地域)などの北西部からカスティーリャ地域へ、さらにそこから南部の再征服地域へと伝わる流れが読み取れ、東半分ではピレネー山麓のナバーラやアラゴンからエブロ川の下流地域へ、そこからこちらも南部の再征服地域へと伝わる流れが読み取れるのだそうで。こうしてみると、姓名システムの伝播からでも半島情勢の推移がうかびあがってくるものがあり面白い。その一方で、目下スペインで耳目を集めるカタルーニャの独自性についても再認識させられるものがある。半島東部としてくくられる地域のなかでカタルーニャにおける伝播の推移も述べられるのだが、ナバーラやアラゴン地域よりもむしろ南仏のオクシタニア圏との共通性が見て取れる。

父称の普及経緯についての論もまた面白い。補足名としての父称には異教徒の境界地帯であるイベリア半島らしくイスラーム圏からの影響を推測しながらも、それが父から子へと代々伝わる姓へと転換していくのは西ヨーロッパのなかでは遅いほうだったとし、その原因を封建制の未成熟さにみるのは西ヨーロッパの特殊地域としてのスペインらしさを思わせる部分。父称がなぜ発達したのかという経緯に関して、それは父とのつながりを強調するためである。すなわち、父の有する土地や財産の権利を受け継ぐ者であり、さらにその父称が姓として代々受け継がれていくと、その相続される権利がその家に代々伝わっていくものであることを主張することにもなる。それに対して、中世におけるスペインはキリスト教勢力圏の拡大の歴史でもあり、また植民や開拓民の募集によって新規に土地を獲得した人々を数多く生み出した時代でもある。その地が代々受け継がれる土地になっていくのにはまだ少しの時間が必要であった。また、継承のシステムにおいても、男子だけでなく女子による継承を認める慣習が伝来する地域が多数存在しており、それもまた父方の姓を代々継承していく姓名システムの普及を遅らせることになったという。そしてここでもカタルーニャは例外的であり、11世紀の「封建革命」期に一気に父称の普及が進むという。

そして、中世からすでに看取でき、現在においてはヨーロッパでひときわ目立つ傾向となっているスペインの姓名に関する特徴が、使われる姓・名の種類の少なさであるそうで。姓については特に、第一姓・第二姓とふたつの姓があるにもかかわらず、スペイン人の姓の数は少ないのだという。これは、たしかに言われてみればそんな気はしなくもないようなというところで、これはさまざまな要因が絡み合った結果のようなのだけど、それはともかく、実例としてガルシア・ガルシアとかフェルナンデス・フェルナンデスなんて姓が検索すればふつうに出てきたりするのはおもしろくもあり。

そんな感じで、そもそも中世初期って姓がなくて名前だけで個人の識別してたのかとか、そんなレベル知識から読みはじめて、中世から現在にいたるスペインの歴史に思いをはせながら、最後まで興味深く読むことができた。たいへん面白い本でした。関連書も読んでみたい……と思ったのだけど、参考文献を見るかぎり、すくなくとも日本語の文献はなさそうで? その点はやや残念な気もしますが、ともあれ中世ヨーロッパの歴史に興味ある人にはぜひともオススメしたい本ではありました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:38| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ノンフィクション・カテゴリ新設

読む本のジャンルが自分でもなかなかカオスになってきたと思う今日この頃。フィクション作品以外でもおもしろい本があって感想を残したいと思うものの、フィクションの感想を期待している向きにはコレジャナイ感がひどいのではと思えるところでもあり、いっそのこと新規カテゴリを設置してみんとす。

カテゴリ名は「ノンフィクション」とするけれど、意味合いとしては「フィクションではない本」くらいのつもりで。「非フィクション」のほうが近いかもという気もしますが、こちらのほうが通りはいいかなと思ったので。

本の種類上、やや政治的な内容も含んだりするうえに書く感想はわりとテキトーだったりするのでちょっとこわかったりもするんですが、ものは試しということで。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:28| Comment(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月13日

お兄ちゃんはおしまい!

お兄ちゃんはおしまい! (IDコミックス)
お兄ちゃんはおしまい! (IDコミックス)

朝起きたら女の子になっていた話。

最初の数話はネットで読んだ記憶あり(もともとは『君の名は。』の二次創作で知った作者さんだったり)。あらためて読んでみてもおもしろい。

「引きこもりのクズニート」も小さな女の子の姿になるとかわいいんだよなあ。特にこの作者さん、羞恥顔をはじめとしたかわいい表情を描くのがとてもうまいので、まひろちゃんがなにをしててもかわいいかわいい。ヒラヒラした服を着せられればもちろん似合うし、髪をまとめてみればまた違ったかわいさが見れていいし、自撮りなんてしてみればいかにも女の子女の子した雰囲気が出てとてもかわいい。なんだけど、中身は「エロゲを愛する孤高の自宅警備員」なものだから、そんな女の子らしさ抜群の姿を見られれば恥ずかしさにもだえもするし、本来は男である自分との間の自己同一性の危機に沈んだりもする。けれど本人がどう思おうが、傍から見ている分にはかわいい女の子のかわいい姿にしか見えないから、読んでいるこちらとしてはほほえましいものを見る目にしかならないのだったという。

買い物やら体のことやら、話が進めばそれだけ女の子としての生活でのあれやこれやを経験していくことになるんだけど、そのたびにカルチャーショックを受ける様子がまたかわいくもあり。ちょっとずつ自然体の女の子らしさが身についてきてるように思えるところもありますが、もとの姿に戻ることはできるのかというのも含めて、お兄ちゃんの明日はどっちだという感じ。まあ、記憶喪失回のように、女の子であることへの抵抗がなくなったときに発揮される素直なかわいさは相当のポテンシャルがあると思うので、戻ってしまうのは惜しいような、でも戻れないままでは納まりがつかないような、なんとも悩ましい先の展開への期待。

2巻発売予定の情報もあがってきたようですし、ひきつづき楽しみにしたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:35| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月09日

クリフトン年代記(3)裁きの鐘は(上)(下)

裁きの鐘は(上): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫) 裁きの鐘は(下): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫)
裁きの鐘は(上): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫) 裁きの鐘は(下): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫)

ジェフリー・アーチャー、戸田裕之/訳 『裁きの鐘は〔上〕―クリフトン年代記 第3部―』 | 新潮社
ジェフリー・アーチャー、戸田裕之/訳 『裁きの鐘は〔下〕―クリフトン年代記 第3部―』 | 新潮社

今回も進行が速い。ハリー・クリフトンの少年時代から大学入学まもなくくらいまでを描いた第一部のように、この第三部もその息子セバスティアン・クリフトンの少年時代から大学入学くらいまでの年代を上下巻の二冊で駆けぬける。

その見どころはいろいろあるにはありましたが、個人的にはやはりバリントン家がらみのあれこれ。バリントン家のろくでなしについては第二部でほとんど幕が引かれ、唯一引き延ばされた案件(邦題はこれについてでしょう)に関しても今回の冒頭ですんなり、とはいえないまでも決が下されて。これにてあの忌まわしい記憶ともども別れを告げられる……かと思っていたんですけど、まだ未解決の事案があったじゃないかと思い出させられる展開。そうですよ。あのろくでなし、最後の最後に愛人との間に子どもなんて残していきやがりましたね。しかもその娘を残して実の両親はどちらも死んでしまっているから本当にどうしようもない。残された不義の子がどうなろうが、クリフトン一家にもバリントン家にも関係ないといえば関係ないんだけれど、それでも彼女を引き取るのがよいと思われる事情が持ち上がるのは一族の縁がつながるようで不思議の思いにかられるところであり。まあでも、ハリーとエマの夫妻にとっても同じ父から生まれた妹にあたるわけで、その子を引き取って面倒を見るのは父の業の罪滅ぼしのようでもあり、これもひとつの因縁でしょうか。善行も悪行も歴史に連ねられていく名門一族らしさを感じさせる事柄ではありましたね。当時まだ幼く事情も知らないセバスティアンとの相性がどうなるかというところは気がかりではありましたが、出会った当初からびっくりするぐらいの良好な関係を目にできるのは感慨深くもあり。というか、セバスティアン、なかなかやんちゃぶりを発揮するエピソードも多く、どんな男の子になっていくんだろうかと期待半分心配半分なところもありましたが、ことこの女の子、新たな妹となったジェシカに対してであれば妹思いのいいお兄さんぶりを随所で見せてくれるんですよね。妹も兄を慕っているようで良好な仲を見るたびにほほえましい気持ちにさせてくれること。ただ、上述の事情がいまだ明かされないままになっているのは、将来に対する小さいながらも不安のもとではあり。原題はその辺の機微を表した感じでしょうか。

ふりかえってみてもやっぱり、ハリーよりもセバスティアンに焦点が当たることの多かった回でしたね。あと、ジャイルズ・バリントン。議員のどぶ板選挙ぶりはイギリスも大変そうだなあと思わされるところもありましたが、彼も順調にキャリアを歩んでいるようで。どこまでその道がつづいていくのかと楽しみなところでもあり。

今回もまたラストはクリフハンガーではありましたが、前回に比べればまだ心おだやかに次の巻を迎えられそうですね。いやまあ、事によっては事態の深刻さはより洒落にならん感じではあるんですけれども。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:23| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月06日

星系出雲の兵站(1)

星系出雲の兵站 1 (ハヤカワ文庫JA)
星系出雲の兵站 1 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站 1 | 種類,ハヤカワ文庫JA | ハヤカワ・オンライン

異星人と思われる勢力の接近が探知されて、ここに人類の存亡をかけた戦いがはじまるかと思いきや、その前にまずまとまりきれない内部事情を抱えつつも緊急時の体制を構築するところからはじめなけらばならないのであったという。

やりました、内部対立ですよ! 中央と辺境の対立関係、独立志向の高まりと介入必至の情勢において、嫌でも生じる政治的な摩擦に対して真剣に頭を悩ます軍人や政務官なんかのお偉方の姿はいいもので。

これ、なによりも異星人の発見された場所が独立志向の高まっている辺境・壱岐星系だったというのがいちばん厄介なところですよね。中央としては自分たちが主導して統一的な体制のもとで対応したい。けれど、現地からしてみればそれは独自に育んできた社会体制の解体につながりかねないもので。それどころか、これを機会に自治から統合へなんて介入をされた日には、悲願である独立の芽を摘まれてしまうことにもなりかねない。そんな背景から、壱岐星系の人々はこの事態をあくまで自分たちの管轄であると主張するし、中央には後方支援的な立場を期待する。中央の人間としては、トップダウンで統一的な指揮を執るのが効果的だとは思いながらも、そんな現地の情勢を無視できずにいくらかの配慮をし、けれど譲れない部分は自分たちの主張を押し通す。この辺の対立と妥協点の探り合いがですね、いいんですよね。対立はあるんだけど、それらはすべて我欲ではなくて社会をよりよくするための自分たちの職分においてであって。そうであるからこそ、強く出る部分には信念が感じられて。

キャラとしても、まじめ一辺倒の堅物がいるかと思えば、あれこれ気を回す裏に個人的な期待をさしはさむ茶目っ気を感じさせる者がいたり、政治的な配慮に頭を悩ませる者がいるかと思えばそんなこと知るかとばかりに効率一辺倒で物事を進めたがる者もいる。それぞれの行動の裏にはそれぞれの思惑が感じられて、統一的なリーダー不在のままに物事が推移していってるようにも見えるんだけど、人類の総体として見れば対異星人のための一個の体制ができあがってはいくのであり。この辺のあんばいの描写がいいですよね。

さて、そうしてとにもかくにも進展の見られる内部事情とは裏腹に、肝心の敵に関しては、戦闘まで行われたもののまだその正体が見えないのであり。果たしてこの接触がどんな結果をもたらすのか。タイトル見てるとそこまで派手な展開にはならないんだろうかと思えたりもしますが、どうなることやら。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:50| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月05日

親がうるさいので後輩(♀)と偽装結婚してみた。

親がうるさいので後輩(♀)と偽装結婚してみた。 (百合姫コミックス)
親がうるさいので後輩(♀)と偽装結婚してみた。 (百合姫コミックス)

出だしだけどこかで見かけたような記憶のある表題作目当てに読んでみたマンガ作品集。

収録作品としては表題作が4分の3に独立した読切が4分の1といったところ。

個人的には読切の話のほうが好みだったでしょうか。表題作の社会人百合のほうは、先輩の顔がいいいう感想にほぼ落ち着いてしまうところがあるというか。あと、クールに見えて押されると弱い先輩がかわいいとか、そんなところでしょうか。それはともかく。

読切のほう、ざっくりとした内容としては、ケガで陸上部を引退した女の子とその部活で全国で戦いつづけている女の子の話。

ふたりの関係はもともと薄いつながりでしかなかったようだし、最後まで読んでもこれは恋心なのかなあ、でもほかになんて呼んだらいいかわからないし……というくらいの微妙な感じではある。けれど、主人公がもう一方の女の子を見つめる視線。まるで敵わなかった才能の高みから見下ろしてくるような相手に辟易と憧憬という矛盾した気持ちを抱きつづけ、なにかあると放っておけなくてちょっかいを出さずにはいられない。そうした言動の背景にある感情は、いいものなんですよね。ひと言で言い表せるほどにははっきりとしていなくて、けれど引き寄せられる自分を自覚するには十分なほどの感情が存在していることを感じさせられて。

同じ部活をやれていたころにはただ届かないだけの存在だった。それが、部活をやめることになったことで初めてひとりの人間として意識するようになる。その姿はかつて思っていたような孤高の天才というには頼りなくて、けれど競技者として彼女が知るかぎり誰よりも理想に近い人で。だからこそ彼女には強くあってほしいし、その一方で自分しか知らないだろう弱い部分を見つけるとほんのりとしたうれしさを感じてしまう。ちょっかいを出してみれば意外にもかわいい反応を返してくれるものだから余計に楽しさもあるけれど、だからといってそれ以上ふたりの関係をどうしたいのかもわからない。

そんな感じの関係。当人にもよくわからず、けれどその相手とだからこそ生じる悪くはない関係、その時間を当て所も見えずに過ごしている感じが、とても学生っぽくてよかったですね。

そういえば、あとがきで初めて気づきましたけど、アニメ化も経験されてる作家さんなんですね。そちらのほうは興味がありつつもそのままになってる感じでしたが、ともあれこちら、なかなかいい一冊ではありました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:30| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月04日

腹黒従者の恋の策略

腹黒従者の恋の策略 (ソーニャ文庫)
腹黒従者の恋の策略 (ソーニャ文庫)

腹黒従者の恋の策略|ソ−ニャ文庫

辺境送りが決まって捨て鉢な気分の王女さまミルドレッドと、彼女に一心に忠誠を誓う騎士ライアンの恋物語であった。表向きは。

というのも、王女さまのほうから身分をかさにきて結ばれたような関係でありながら、その実の従者の偏執ぶりにゾッとさせられる話でもあったので。なんというか、ヤンデレルート的というか。

王女さまからしてみれば、幼いころからのつきあいのある相手で、昔に起きた事故から負い目を持っている相手に押しきられるままに、自身も心の奥底に押しこめようとしていた想いと素直に向き合って、幸せで祝福される結末を迎えるお話。

そのはずだけど、ライアン側から見ればまったく違う意味を持つ。不遇な生い立ちをしてきた王女さまをその不幸から解き放つお話。焦がれるほどの想いを抱くミルドレッドのことがただただほしくて、地位や名声なんてものよりもなにより彼女を手に入れたくて、真綿でくるむようにして鳥籠に入れて一心に愛情をそそぐ。真実を知ればその異常性にゾッとさせられるとともに、けれどそこまでの執着心を抱えるキャラだからこそほかのだれよりこのヒロインにふさわしい存在であるといやでも認めさせられる。

まるで呪いの上に虚構を築きあげて、その上にやっと成り立たされた幸せの形。いかにもいびつであり、けれどそのいびつさが際立つほどに目を奪われるような美しさを持つにいたった話でもあり。なかなかよいものではありました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:32| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

予言の経済学(1)巫女姫と転生商人の異世界災害対策

予言の経済学 1 巫女姫と転生商人の異世界災害対策 (レジェンドノベルス)
予言の経済学 1 巫女姫と転生商人の異世界災害対策 (レジェンドノベルス)

レジェンドノベルス|シリーズ別一覧|予言の経済学

面白い。

予言とは、超常的に知りえた未来を伝える言葉であり、理屈を超えた経緯で直接的に未来を捉えた者の述べるところであるが、それゆえに知覚した話者の主観に左右されるものでもあり、信じられるか否かは話者の信用性に依存せざるをえない。真実を言い表しているのかもしれないし、虚言を弄しているのかもしれない。真実も含まれているのかもしれないが、あくまで一面的なものにすぎないのかもしれない。いつ・どこで・なにが起こるのか。だれが・どのようにしてその影響を被るのか。予言は超常的であるかゆえにそれらを明確にはしてくれない。対応は、ただ話者を信じるか否かに左右されるばかりである。

しかしこの話の主人公は、そこに別の側面からアプローチをかける。それは近現代の科学が用いる手法。課題に対して仮説を設定し、それを検証することで結論にいたる一連のプロセス。それをしてみせるリカルドという人物は、なるほど転生者であるわけで。

この、予言に科学的なアプローチでの検証を試みるという組み合わせ。これだけでもうわくわくさせてくれますよね。予見されたという災害に対してだれもが無関心にふるまうなか、ただひとり可能性を検討し、思いがけない援助も得ながら調査を進め、その末にこれしかないというもっとも起こりうる可能性の高い事態についての結論を導きだす。謎解きのような面白さですよ。結論が出た瞬間というのは、それだけでひとつのクライマックスであったことでしょう。

とはいえ、その結論はあくまで予言の話者を一から十まで信用するという前提に立つものであり、それへの対応にかかるコストを考えれば、主人公としても完全に無視することはできないまでも消極的な対応で済ませることも可能ではあったでしょう(まあさすがに予想される被害規模的にそれは言いすぎかもしれませんが、それはともかく)。それを、この陰険なまでに爪を隠し隠してきた猛禽にそれを明かさしめてみせたのは、その予言の話者であるところのヒロイン・アルフィーナの存在であったというのもまたポイントであって。

このアルフィーナというヒロイン、身分としては王族であるものの、反逆者の血を引くことから腫れ物に触れるような扱いをされる厄介者でもあり、そしてそれが理由で王族にしては政治的な感覚にうとい箱入りの王女さまであり。平民であるリカルドがアルフィーナとの交流を持つにいたったのもその感覚の欠如ゆえともいえるでしょうか。言ってしまえば、善くも悪くも純粋な性格なんですよね。いさかいを目にすれば心を痛めるし、打算をこめたやりとりにも心からの喜びを表すし。あまりにも裏表がないからこそ放っておけなくなるタイプというか。

リカルドが彼女の予言と真正面から向き合っていくことになったのも、その純粋さがもとだったでしょうか。院生経験のある転生者として、根拠のない予言を真剣に取り合う理由はない。けれど、いくつかの経緯があったとはいえ、これほどに根のいい少女が困り果てているのを見て、まっすぐな気持ちで頼られてしまって、断ることができようかというもの。災厄のもたらされるという地がどうも主人公と無関係ではなさそうだというのが大きかったように見せかけてますけど、これ絶対違いますよね。箱入りゆえの無防備さで頼られて、勘違いせんばかりの距離感でまっすぐな好感を示されて、よからぬ感情がちらとでも首をもたげなかったとは、とてもとても言えませんよねえ……。これはミーアの目も三角になろうというもの。ええ。たいへんいいものでした。

そんな感じの、予言を予測に変えて対策を練る物語、とてもおもしろかったです。2巻も来年4月に刊行予定ということで、楽しみにしたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:11| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月02日

微熱空間(1)

微熱空間 1 (楽園コミックス)
微熱空間 1 (楽園コミックス)

微熱空間 1|白泉社

親の再婚によって義理の姉弟になったふたりが家族になっていく話……だろうか? 帯の文句を見てると恋愛方面への含みを残してそうな印象も受けるけれどそれはさておき。

高校生の男女がいきなりいっしょに暮らすことになって(もちろん親はいる)、姉弟として仲良くやっていくことを期待されても、それまで存在しなかった他人が生活空間の中に紛れこんでくる居心地の悪さは避けがたく、また適切な距離感をつかみかねてぎこちないやりとりをくりかえしてしまいがちにもなってしまう。ふたりともに女の子と男の子のひとりっ子であっただけに、なおさら突然できた同い年のきょうだい(それも異性)との生活にどう折り合いをつけていけばいいのかにとまどいを抱かずにはいられない。

けれどそれでも、生活上の必要性だったりちょっとしたできごとをきっかけにして、家族としてのあり方を少しずつ築きあげていっている様子がほほえましくあり。家族という関係性って一朝一夕にできあがるものじゃないですからね。まして高校生という年のころの男女。理解できないことにもやもやしたり、いろいろ耐えられない気持ちになることもある。それでも一歩進んで、一歩下がったら次には二歩進むようにして、他人同士が同じ家で暮らしてる状態からひとつの家族へと、間に広がる溝を少しずつ埋めていく日々の様子はとてもよいものであり。

まあもともと互いに姉弟ができると聞いてよく似たイメージを思い描いてがっかりさせられるという体験を第一にした者同士、通じあえる部分はあったと思うのですよね。

姉弟になっていく関係性というのは、姉弟であることが当たり前の関係性とはまた違って、姉弟らしさとはなにかというのを意識させてくれるのがいいですよね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:00| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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