2018年11月29日

金色のマビノギオン アーサー王の妹姫(1)

金色のマビノギオン ─アーサー王の妹姫─ 1 (花とゆめCOMICSスペシャル)
金色のマビノギオン ─アーサー王の妹姫─ 1 (花とゆめCOMICSスペシャル)

金色のマビノギオン ─アーサー王の妹姫─ 1|白泉社

キャラといい話の雰囲気といい、読んでてめっちゃワクワクしてくる。すごくいい感じ。

ざっくりとした内容としては、現代の高校生である、たまき・真・広則の三人が、修学旅行先のイギリスから魔術によってアーサー王伝説の世界へと呼び出されることになる話。

まずもってキャラがいい。アーサー王伝説に現代の高校生たちか巻きこまれることになる話だけど、この三人組のキャラがとてもしっかりしてるんですよね。ウーサリアンの真、武道の心得のある男子一点の広則、アーサー王子と瓜二つのたまき。流血沙汰のある世界にも呑みこまれることなく、かといって主張しすぎて伝説そのものの雰囲気を壊してしまうこともなく、絶妙なバランスのうえでしっかりと印象に残るキャラを見せてくれる。それは伝承の登場人物たちが彼女たちを重要人物として遇しているというのが大きいのだけど、彼女たちとしても元いた場所とは違う世界におびえとまどうばかりではなく積極的に交流を深めていき、別世界の人であるからといって壁を隔てるようなことのない関係を築いていることにもよるのであり。

時系列的にはまだアーサーによる王位継承前ということもあり、血なまぐさい陰謀の雰囲気は当然底流に流れてはいる。けれど、いまのところはまだ安全地帯ともいえるアヴァロンにいることもあってか、三人組は伝承の中の世界で驚くほどに現代人らしさを保っているんですよ。真はアーサー王伝説の世界に興奮してツッコミをもらい、広則は湖の乙女に心惹かれたり、たまきは子どもっぽいまでの無邪気さを発揮して周囲を和ませたり。驚くほどに現代世界にいたときと変わらないキャラクター。幼なじみらしく、いろいろな体験を共有してるからこその掛け合いもそのままに、行動力あふれる真と広則が悪いやつらからたまきを守るという関係性は不穏な情勢のこの世界ではよりいっそう強化されている感もある。こういうの、いいてすよね。現代人としての背景とアーサー王伝説の背景とが、食い合うことなく混ざりあってこの作品らしさを出してるというか。

そしてそうであるからには、伝承の側の人物たちもしっかりと存在感を発揮しているのであり。筆頭はやはりマーリンでしょうか。現アーサー王子陣営の参謀格といった感じだけど、どうにも食えないところのあるキャラであり。妖しげな魔術を使い、皮肉げな表情で場を主導する。異界らしさ代表といえばこの人。冗談を言わせれば愉快なキャラではあるけれど、その一方で口にする言葉を信用しきっていいのか不安を抱かせる人物でもある。真が持つ伝承知識の優位を相対化させたのもこのキャラであり。底の知れなさは頼もしさと油断ならなさの紙一重といった趣。

また、ガウェインもアーサー王子とのつなかりの深さからたまきとの交流が進んでいく様子がほほえましくもあり。

まだ物語が本格的に動きだすのはこれからといった感じでもありますが、この段階でとてもいい感じなだけに期待は高まります。アーサー王伝説についてはあちらこちらの作品でつまみ食いした程度のあやふやな知識しかないので、まっさらな気持ちで次の巻も読んでみたいところ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:26| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月25日

なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 異世界で、王太子妃はじめました。(1)

なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 異世界で、王太子妃はじめました。1 (B's-LOG COMICS)
なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 異世界で、王太子妃はじめました。1 (B's-LOG COMICS)

BOOKWALKER→https://bookwalker.jp/ded7686cfc-2f87-4266-8b0e-61bd0163dd26/


原作書籍のこの部分は既読。そちらの挿絵担当の方がこのマンガを描いてることもあって絵柄への違和感はなし。

あらためてこのシリーズ最初の部分に接してみると、元の世界での主人公もいいキャラだったよなあと思わされますね。料理の腕を活かして仕事に生き、仕事を楽しみ、身内のいない孤独な身ではあるけれど仕事を通して居場所を築き、忙しさに大変そうではあるものの充実感を感じさせる。小説のほうを読んでたときも思ったけど、死んでしまう直前のひと言に本当に実感がこもってるんですよね。少ないページ数でもそれはしっかり伝わってきて。いいですよね。こういう人生。……まあ、そんな彼女が、異世界でいかにもなかわいらしい幼王太子妃になることになるんだけど。

この転生先の(というより憑依みたいなものなんですけど)王太子妃、小説版だと媒体の制約的に言動の描写が中心になるんですけど、マンガだと必然的にビジュアル付きで話が進んでいくものだから、あの場面もこの場面もしっかりイラスト化されて、ただ登場して動き回ってるだけでかわいらしさを感じさせてくれるからコミカライズありがとうございますとも言いたくなってくるところ。特に異世界に行った直後は、それまでとそこからのギャップでとてもかわいく感じられること。

お話の描き方としては、どうしても小説のほうが紙幅をとって描写できる分、丁寧さでは違いが出てくるかというところはありますが、その分ビジュアル付きで舞台やキャラの解説をすることができるので、そうした面ではわかりやすさもあり。そしてなによりアルティリエさんのかわいらしさ要素ましましな描写がとてもいい。

2巻ももう出てましたっけ。このペースだとそちらで小説書籍の1巻目は終わりそうな(うろ覚えな記憶で書いてるのでテキトー)。またそちらも楽しみにしたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:50| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

小説 魔法使いの嫁 金糸篇

小説 魔法使いの嫁 金糸篇 (マッグガーデンノベルズ)
小説 魔法使いの嫁 金糸篇 (マッグガーデンノベルズ)

原作自体は未読なんですが、「真理の織り手」シリーズの佐藤さくらさんが参加されてるという情報を目にして購入。

実際に読んでみた感じ、原作知識はなくても問題なく楽しめました。そして、一番おもしろかったのは、なんといっても佐藤さくらさんの「守護者とトネリコ」。

この作者さんの書く物語はとてもやさしさにあふれてるんですよね。情けないところもある、傷つけられたりもする。けれど、それでも一生懸命になれるキャラクターだからこそ、助けの手が伸ばされる。必死なほどの思いは見捨てられずに届けられる。これがとれほど有り難いことであるか。

この話におけるアシュレイも、妹に対して複雑な感情を抱える少女ではありました。家族に疎まれながらもいっしょに魔法の勉強をした無二の仲間であり、けれど自分を置いてひとりだけ正式な魔法使いの弟子に収まった相手であり。幼いころからの絆と嫉妬心から、ある日アシュレイは取り返しのつかない過ちを犯してしまう。それでも、だからこそ償いを果たさずにはいられないし、妹にしてしまったことを思えば自分の命と引き換えにしても必ずやり遂げなければならないと悲壮な決意を固めることにもなる。

そんなところに、お節介者が現れる。出会いは間の悪いもので、それだから忘れてしまおうとするんだけど、身の丈に合わない無茶をしようとしているアシュレイのことがどうにも気になってしまい、口ではあれこれ言いながらも手助けせずにはいられなくなっていく。この絶妙なキャラクター配置がとてもいいんですよね。

そして最後のアシュレイの決意。これもそれまでの経緯を経てくることでとても心に響いてくるものがあって。もう少しだけでもいいからこのキャラクターのその後も見てみたいなあと思わされたり。

でも、このキャラ、検索してもヒットしてこないんてすよね。本編に出てきてるキャラの前日譚かと思ってたんてすけど、もしかしてこの話だけのオリジナルなキャラクターだったとか……?

その他、三田誠さんの「吸血鬼の恋人」のふたりはいい雰囲気でしたし、桜井光さんの「虹の掛かる日、ごちそうの日」は妖精の見えない女主人と家事妖精との、それでも長い年月を通した絆が感じられるのがいいものだったり。いろんなキャラクターがいてそれぞれの物語がつむがれていく感じがよかったです。 それを許容できるだけの世界観の奥行きがあるということでしょうか。

ともかくも、原作未読でも十分に楽しめる、魔法使いや魔の世界の者たちによる小話集。いい雰囲気の一冊でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:24| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月15日

The Girl with the Dragon Heart

The Girl With the Dragon Heart
The Girl With the Dragon Heart
(画像はUS版の表紙っぽくて、自分の購入したUK版のイラスト調の表紙とは違ってやや違和感がありますが)

The Girl with the Dragon Heart - Stephanie Burgis(作者サイト)

前作『The Dragon with a Chocolate Heart』感想


魔法で人間の姿に変えられてしまったドラゴンの女の子アベンチュリンがチョコレート作りにその情熱を見いだす話であった『The Dragon with a Chocolate Heart』の続編にあたる話。今回は主役が入れ替わって、前作でアベンチュリンが出会った少女シルケが主人公をつとめることに。

今回の話の内容としては、ふたりが住む都市の宮廷に突然妖精の国の女王一家が訪れてくることになって、国の実権を握る世継ぎの王女からその目的を探ることを任されたシルケが奮闘する話。または、かつての戦災難民としてのシルケの家族の物語。

今回も、終盤のシルケの活躍ぶりは見せてくれるものがありました。どんどん事態が悪化していって、死人が出るレペルの争いにまでなろうかというところから、持ち前の知恵と語りの才覚によって危機を乗りきってみせる。すっかり親友のアベンチュリンや、王女さまたちによる支えもあったとはいえ、強力な魔法の力を持つ妖精の女王夫妻に身一つで対峙し、口先ひとつで引き下がらせる。これこそ語りの力の極致でしょう。なにせ途中までは、これはもう武力行使不可避ではとまで思えるぐらいに事態がこじれにこじれてましたから。今回のシルケの見せ場はまさに魔法のようだったというか。そういえば、前作でもいちばんの見どころと感じたのはそうした場面なのでした。

前作では主役としてパワフルな行動力を見せてくれたアベンチュリンは、今回はやや存在感うすし。考えるよりも先に動きまわるタイプのキャラが物語をひっぱる役どころからはずれるとこうなってしまうのかなとも思いますが、それでもシルケから見たアベンチュリンの姿というのは、彼女自身の視点から見た姿とはまた違った印象を与えてくれて新鮮でした。具体的には、とても頼もしい親友としての感があったというか。行動力に偏りがちでそのせいで失敗もしてしまうアベンチュリンの性格は、その一方で内面にぶれない明確な芯を有しているのであって、事態の解決への道筋をつけてくれるわけではないのだけど、自分を見失ってしまいそうになったときに現れてくれるとこんなにどっしりとして頼もしさを感じさせてくれるキャラもいないもので。前作における印象とのギャップは大きいですが、これもまた情熱のドラゴン、アベンチュリンだなあと思わせてくれる姿ではありました。

ただ……というところなんですけど、今回は前作に比べてやや評価しにくいんですよね。終盤はよかったんですけど、そこにいたるまでが……。悪化した事態を見事に納めてみせたシルケはすごかったけど、その一方で事態を悪化させた元凶もほとんど全部シルケなので。自分が出した火を自分で消しただけというか。最後になんとかなったからよかったものの、なんとかならなかったらと思うとおそろしくなってくるものがある。

まあ、結局なんとかなったのだし、ふたたびあたたかな家族を得たシルケの幸せそうな様子は心あたたまるものではありました、というところで?
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:04| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月13日

サラファーンの星(4)星水晶の歌(上)(下)

星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫) 星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)
星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)
星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

星水晶の歌〈上〉 サラファーンの星4 - 遠藤文子|東京創元社
星水晶の歌〈下〉 サラファーンの星4 - 遠藤文子|東京創元社


ついに最後のページまでたどり着いてしまった……。

読み終えてみれば、いつまでも読みつづけていたかったと思わせられる物語でした。それほどに、なぜだか無性に安心感を覚えさせてくれるファンタジーだったように思うのです。

リーヴがいて、ウィルナーがいて、ジョサがいて、ハーシュがいて、ルシタナがいて、その他にも、すべて合わせれば20を超える人々がいて、彼らの一人ひとりがそれぞれの生い立ちを持ち、それぞれの生活を送りながら、戦争が激しさを増すなかでさまざまに関係が深まっていき、一人ひとりがそれぞれの役割を果たしながら、引き起こされる戦渦に対してさまざまな思いの丈を表し、それぞれのやり方で戦争へと関わっていく。果たした役割に大小はあれど、長い物語を通して丁寧に描かれてきた彼らの思いは本物で、だからこそ一人ひとりのキャラクターがいとおしく、どのひとりをとっても安否不明に陥るやほかの登場人物ともども不安をわかち合い、最後の最後まで彼らの行く末を見守りたい気持ちにさせられた。そこに生まれや成し遂げた功績による貴賎はなく、見届けられる結末の一つひとつがただただ尊いものとして記憶されていくように感じられるものがあったのです。

自分は当初、このシリーズをルシタナの物語だと思っていました。激化していく戦争に対して重要な役割を果たす人物として、期待を含まされつづけていた人物でしたから。なので、物語の進行があまりにも遅いと感じてもいました。けれど、最後まで読んだ後、やっと気づくことができました。これは彼女だけの物語ではなく、他に登場するすべてのキャラクターの物語であったのだと。自身や関係深い人たちの幸せに喜び、降ってわいた不幸に悲しみ、そうした感情をわかち合いながら生活していたすべての人たちの物語であったのだと。大きな世界のなかで一人ひとりができることは小さくとも、自らができることを模索して世界に飛び込んでいくすべての人々の物語であったのだと。

そして、それら一人ひとりの物語を描きだす作者の目線はとてもやさしさに満ちて感じられて。トゥーリーの帰りを待つヨハンデリ夫人や、サラになかなか言いだせない想いを寄せるパーセロー、同じく奥手なハーシュや自身の障害に対する引け目から子どもの発育に不安を抱くマリアなど、悩みを抱えた人々にもどこまでも寄り添った描写がなされており、どんなキャラクターにも親しみを感じさせてくれるんですね。意中の人からの手紙に喜んだり、試験の結果に気を揉んだり、世界全体からみれば小さなことではあるけれど、一人ひとりの身の上に起こる日常的なできごとがていねいに描かれてくることで、彼らの一喜一憂する姿にしだいにこちらの心情が重なっていくのがわかるものがあって。英雄的な人物ではなく、誰もが悩みを抱えた等身大のキャラクターであり、それでも自分がなすべきだと思ったことのために身を投じていく。だからこそ、その一人ひとりのキャラクターの決意が尊く、そしてまた、悩み迷う姿こそがいとおしく思えてくるのです。

物語の結末としては、第一部文庫版のあとがきでもふれられていたというように(自分はハードカバーでしか持ってないんですが)、このシリーズ自体が作者による以前の作品の前日譚であるということもあって、終わりを迎えるべき部分としては終わりを迎え、それでも途切れない一部の縁はそちらに引き継がれていくものもありといった趣き。

第三部までの流れを思えば、この第四部はまさに激動といった感じで、一人ひとりのキャラクターの動きを丹念につむぎあげていく描写は変わらないものの、こぼれ落ちていく人々の姿を見届けるのはとてもつらかったですね。もっと彼らのすることを見つづけていたかった。もっと喜怒哀楽をともにしたかった。失われていくことではじめて、自分がどれほどこの物語の世界をいとおしく思っていたのか気づかされるようであって。本当に、終わってほしくない物語だったと、思わされるものがあるのです。

この物語は、これでおしまい。どんな思いを抱えようとそれは変わらないわけで。けれど、この世界はまだ終わりを迎えてはいない。その長い長い後の時代を舞台にした物語があるという。ならば、このシリーズに登場したキャラクターたちの姿を見届けた読者としては、彼らの抱いた思い、その行く末を見届けたいと思わずにはいられないですよね。それが彼らへのなによりの親愛の表れのように思えるので。

後日譚『ユリディケ』。それが読める日を、心待ちにしています。


サラファーンの星 公式サイト
https://serafahn.com
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:41| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月08日

分解するイギリス――民主主義モデルの漂流

分解するイギリス: 民主主義モデルの漂流 (ちくま新書 1262)
分解するイギリス: 民主主義モデルの漂流 (ちくま新書 1262)

筑摩書房 分解するイギリス ─民主主義モデルの漂流 / 近藤 康史 著
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480069702/


第二次大戦後のイギリス政治の潮流を、「安定→合意→対立→分解」という図式でEU離脱の国民投票直後まで俯瞰する現代政治史の一冊。経緯に沿った記述は出来事の流れをつかみやすく、そして現在のイギリス政治の問題点をわかりやすく提示してくれる良書。

本書によれば、戦後から七〇年代くらいまでにかけては政権交代を繰り返しながらも二大政党のどちらも共通した理念のもとに政府を運営してきたが、小さな政府を標榜するサッチャー政権の頃を境にしてイギリスの合意政治は崩壊したという。「ゆりかごから墓場まで」ともいわれた福祉国家路線からの離脱がすすめられていくなか、左派と中道左派による党内対立が起きていた労働党では、九〇年代になってトニー・ブレアの登場によって巻き返しが図られることになった。ブレアのリーダーシップのもとに、ネオ・リベラル化した保守党に対して中道路線の「第三の道」を打ち出すことで労働党は広範な支持を集め、政権に返り咲くことになった。野党となった保守党は新自由主義的な路線をやわらげ思いやりのある保守主義としての政策案を打ちだすようになった。ここに、サッチャー路線を一部引き継ぎつつ修正を図っていく新たな合意政治の形態ができあがったとする。

しかし、二大政党による競争が存在しながらも前政権からの連続性が保たれていくイギリス合意政治の特徴は、その一方で一定程度において二大政党の近似化を招くものであり、そこから取りこぼされる有権者の層を生み出し拡大させていくことにもつながった。EUとの関係性、スコットランドを筆頭にしたナショナリズムの高まりによって党内や支持者層でも意見の分裂が目立つようになり、またブレア、ゴードン時代の労働党政権後半に醸成された政治家への不信感からエスタブリッシュメントへの反発が形成されていった。そこにキャメロン政権での緊縮政策での打撃が加わって、EU離脱を問う投票での労働者階級を中心にした離脱賛成多数が成立したと本書では述べられている(と思う)。

高安健将著『議院内閣制――変貌する英国モデル』(中公新書)の参考文献としてあげられていた一冊だが、あちらは制度的な構造を中心にした記述であり、それに対してこちらはより歴史的な経緯を中心にした叙述。背景的な知識を補完する意味で有意義な本であり、そしてなにより読み物としてとても面白かった。特に、左右の政策の接近は政権交代を容易にするが、それゆえに政府への不満の受け皿としての野党の機能を低下させることにもつながるというのは、これはケース・バイ・ケースではないかとも思うけど、現在の情勢を考えるには見落とせない一面かもしれない。

本の内容紹介はできるだけ本書の記述をもとにしたつもりだが、もしかしたらこの前後に読んだ前述の『議院内閣制』や、水島治郎『ポピュリズムとは何か――民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書)、Andy Beckett, "The death of consensus: how conflict came back to politics", https://www.theguardian.com/politics/2018/sep/20/the-death-of-consensus-how-conflict-came-back-to-politics などの影響があるかもしれない。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:42| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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