2018年11月15日

The Girl with the Dragon Heart

The Girl With the Dragon Heart
The Girl With the Dragon Heart
(画像はUS版の表紙っぽくて、自分の購入したUK版のイラスト調の表紙とは違ってやや違和感がありますが)

The Girl with the Dragon Heart - Stephanie Burgis(作者サイト)

前作『The Dragon with a Chocolate Heart』感想


魔法で人間の姿に変えられてしまったドラゴンの女の子アベンチュリンがチョコレート作りにその情熱を見いだす話であった『The Dragon with a Chocolate Heart』の続編にあたる話。今回は主役が入れ替わって、前作でアベンチュリンが出会った少女シルケが主人公をつとめることに。

今回の話の内容としては、ふたりが住む都市の宮廷に突然妖精の国の女王一家が訪れてくることになって、国の実権を握る世継ぎの王女からその目的を探ることを任されたシルケが奮闘する話。または、かつての戦災難民としてのシルケの家族の物語。

今回も、終盤のシルケの活躍ぶりは見せてくれるものがありました。どんどん事態が悪化していって、死人が出るレペルの争いにまでなろうかというところから、持ち前の知恵と語りの才覚によって危機を乗りきってみせる。すっかり親友のアベンチュリンや、王女さまたちによる支えもあったとはいえ、強力な魔法の力を持つ妖精の女王夫妻に身一つで対峙し、口先ひとつで引き下がらせる。これこそ語りの力の極致でしょう。なにせ途中までは、これはもう武力行使不可避ではとまで思えるぐらいに事態がこじれにこじれてましたから。今回のシルケの見せ場はまさに魔法のようだったというか。そういえば、前作でもいちばんの見どころと感じたのはそうした場面なのでした。

前作では主役としてパワフルな行動力を見せてくれたアベンチュリンは、今回はやや存在感うすし。考えるよりも先に動きまわるタイプのキャラが物語をひっぱる役どころからはずれるとこうなってしまうのかなとも思いますが、それでもシルケから見たアベンチュリンの姿というのは、彼女自身の視点から見た姿とはまた違った印象を与えてくれて新鮮でした。具体的には、とても頼もしい親友としての感があったというか。行動力に偏りがちでそのせいで失敗もしてしまうアベンチュリンの性格は、その一方で内面にぶれない明確な芯を有しているのであって、事態の解決への道筋をつけてくれるわけではないのだけど、自分を見失ってしまいそうになったときに現れてくれるとこんなにどっしりとして頼もしさを感じさせてくれるキャラもいないもので。前作における印象とのギャップは大きいですが、これもまた情熱のドラゴン、アベンチュリンだなあと思わせてくれる姿ではありました。

ただ……というところなんですけど、今回は前作に比べてやや評価しにくいんですよね。終盤はよかったんですけど、そこにいたるまでが……。悪化した事態を見事に納めてみせたシルケはすごかったけど、その一方で事態を悪化させた元凶もほとんど全部シルケなので。自分が出した火を自分で消しただけというか。最後になんとかなったからよかったものの、なんとかならなかったらと思うとおそろしくなってくるものがある。

まあ、結局なんとかなったのだし、ふたたびあたたかな家族を得たシルケの幸せそうな様子は心あたたまるものではありました、というところで?
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:04| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月13日

サラファーンの星(4)星水晶の歌(上)(下)

星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫) 星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)
星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)
星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

星水晶の歌〈上〉 サラファーンの星4 - 遠藤文子|東京創元社
星水晶の歌〈下〉 サラファーンの星4 - 遠藤文子|東京創元社


ついに最後のページまでたどり着いてしまった……。

読み終えてみれば、いつまでも読みつづけていたかったと思わせられる物語でした。それほどに、なぜだか無性に安心感を覚えさせてくれるファンタジーだったように思うのです。

リーヴがいて、ウィルナーがいて、ジョサがいて、ハーシュがいて、ルシタナがいて、その他にも、すべて合わせれば20を超える人々がいて、彼らの一人ひとりがそれぞれの生い立ちを持ち、それぞれの生活を送りながら、戦争が激しさを増すなかでさまざまに関係が深まっていき、一人ひとりがそれぞれの役割を果たしながら、引き起こされる戦渦に対してさまざまな思いの丈を表し、それぞれのやり方で戦争へと関わっていく。果たした役割に大小はあれど、長い物語を通して丁寧に描かれてきた彼らの思いは本物で、だからこそ一人ひとりのキャラクターがいとおしく、どのひとりをとっても安否不明に陥るやほかの登場人物ともども不安をわかち合い、最後の最後まで彼らの行く末を見守りたい気持ちにさせられた。そこに生まれや成し遂げた功績による貴賎はなく、見届けられる結末の一つひとつがただただ尊いものとして記憶されていくように感じられるものがあったのです。

自分は当初、このシリーズをルシタナの物語だと思っていました。激化していく戦争に対して重要な役割を果たす人物として、期待を含まされつづけていた人物でしたから。なので、物語の進行があまりにも遅いと感じてもいました。けれど、最後まで読んだ後、やっと気づくことができました。これは彼女だけの物語ではなく、他に登場するすべてのキャラクターの物語であったのだと。自身や関係深い人たちの幸せに喜び、降ってわいた不幸に悲しみ、そうした感情をわかち合いながら生活していたすべての人たちの物語であったのだと。大きな世界のなかで一人ひとりができることは小さくとも、自らができることを模索して世界に飛び込んでいくすべての人々の物語であったのだと。

そして、それら一人ひとりの物語を描きだす作者の目線はとてもやさしさに満ちて感じられて。トゥーリーの帰りを待つヨハンデリ夫人や、サラになかなか言いだせない想いを寄せるパーセロー、同じく奥手なハーシュや自身の障害に対する引け目から子どもの発育に不安を抱くマリアなど、悩みを抱えた人々にもどこまでも寄り添った描写がなされており、どんなキャラクターにも親しみを感じさせてくれるんですね。意中の人からの手紙に喜んだり、試験の結果に気を揉んだり、世界全体からみれば小さなことではあるけれど、一人ひとりの身の上に起こる日常的なできごとがていねいに描かれてくることで、彼らの一喜一憂する姿にしだいにこちらの心情が重なっていくのがわかるものがあって。英雄的な人物ではなく、誰もが悩みを抱えた等身大のキャラクターであり、それでも自分がなすべきだと思ったことのために身を投じていく。だからこそ、その一人ひとりのキャラクターの決意が尊く、そしてまた、悩み迷う姿こそがいとおしく思えてくるのです。

物語の結末としては、第一部文庫版のあとがきでもふれられていたというように(自分はハードカバーでしか持ってないんですが)、このシリーズ自体が作者による以前の作品の前日譚であるということもあって、終わりを迎えるべき部分としては終わりを迎え、それでも途切れない一部の縁はそちらに引き継がれていくものもありといった趣き。

第三部までの流れを思えば、この第四部はまさに激動といった感じで、一人ひとりのキャラクターの動きを丹念につむぎあげていく描写は変わらないものの、こぼれ落ちていく人々の姿を見届けるのはとてもつらかったですね。もっと彼らのすることを見つづけていたかった。もっと喜怒哀楽をともにしたかった。失われていくことではじめて、自分がどれほどこの物語の世界をいとおしく思っていたのか気づかされるようであって。本当に、終わってほしくない物語だったと、思わされるものがあるのです。

この物語は、これでおしまい。どんな思いを抱えようとそれは変わらないわけで。けれど、この世界はまだ終わりを迎えてはいない。その長い長い後の時代を舞台にした物語があるという。ならば、このシリーズに登場したキャラクターたちの姿を見届けた読者としては、彼らの抱いた思い、その行く末を見届けたいと思わずにはいられないですよね。それが彼らへのなによりの親愛の表れのように思えるので。

後日譚『ユリディケ』。それが読める日を、心待ちにしています。


サラファーンの星 公式サイト
https://serafahn.com
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:41| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月08日

分解するイギリス――民主主義モデルの漂流

分解するイギリス: 民主主義モデルの漂流 (ちくま新書 1262)
分解するイギリス: 民主主義モデルの漂流 (ちくま新書 1262)

筑摩書房 分解するイギリス ─民主主義モデルの漂流 / 近藤 康史 著
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480069702/


第二次大戦後のイギリス政治の潮流を、「安定→合意→対立→分解」という図式でEU離脱の国民投票直後まで俯瞰する現代政治史の一冊。経緯に沿った記述は出来事の流れをつかみやすく、そして現在のイギリス政治の問題点をわかりやすく提示してくれる良書。

本書によれば、戦後から七〇年代くらいまでにかけては政権交代を繰り返しながらも二大政党のどちらも共通した理念のもとに政府を運営してきたが、小さな政府を標榜するサッチャー政権の頃を境にしてイギリスの合意政治は崩壊したという。「ゆりかごから墓場まで」ともいわれた福祉国家路線からの離脱がすすめられていくなか、左派と中道左派による党内対立が起きていた労働党では、九〇年代になってトニー・ブレアの登場によって巻き返しが図られることになった。ブレアのリーダーシップのもとに、ネオ・リベラル化した保守党に対して中道路線の「第三の道」を打ち出すことで労働党は広範な支持を集め、政権に返り咲くことになった。野党となった保守党は新自由主義的な路線をやわらげ思いやりのある保守主義としての政策案を打ちだすようになった。ここに、サッチャー路線を一部引き継ぎつつ修正を図っていく新たな合意政治の形態ができあがったとする。

しかし、二大政党による競争が存在しながらも前政権からの連続性が保たれていくイギリス合意政治の特徴は、その一方で一定程度において二大政党の近似化を招くものであり、そこから取りこぼされる有権者の層を生み出し拡大させていくことにもつながった。EUとの関係性、スコットランドを筆頭にしたナショナリズムの高まりによって党内や支持者層でも意見の分裂が目立つようになり、またブレア、ゴードン時代の労働党政権後半に醸成された政治家への不信感からエスタブリッシュメントへの反発が形成されていった。そこにキャメロン政権での緊縮政策での打撃が加わって、EU離脱を問う投票での労働者階級を中心にした離脱賛成多数が成立したと本書では述べられている(と思う)。

高安健将著『議院内閣制――変貌する英国モデル』(中公新書)の参考文献としてあげられていた一冊だが、あちらは制度的な構造を中心にした記述であり、それに対してこちらはより歴史的な経緯を中心にした叙述。背景的な知識を補完する意味で有意義な本であり、そしてなにより読み物としてとても面白かった。特に、左右の政策の接近は政権交代を容易にするが、それゆえに政府への不満の受け皿としての野党の機能を低下させることにもつながるというのは、これはケース・バイ・ケースではないかとも思うけど、現在の情勢を考えるには見落とせない一面かもしれない。

本の内容紹介はできるだけ本書の記述をもとにしたつもりだが、もしかしたらこの前後に読んだ前述の『議院内閣制』や、水島治郎『ポピュリズムとは何か――民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書)、Andy Beckett, "The death of consensus: how conflict came back to politics", https://www.theguardian.com/politics/2018/sep/20/the-death-of-consensus-how-conflict-came-back-to-politics などの影響があるかもしれない。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:42| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする