2018年09月26日

Frogkisser!


作者Twitter@garthnix

すごくおもしろかった。タイトルがコメディチックな印象から誇りに満ちあふれたものへと意味を変えた場面のこみあげてくるような熱い感情といったら。そして、途中からあれもこれもと解決すべき出来事が重なって、これ一冊で決着をつけられるのかと不安なほどに膨れ上がった課題が、終盤で一気に解消される爽快感といったら。ミソピーイク賞児童文学部門受賞の名に違わぬおもしろさでした。

おおざっぱなあらすじとしては、とある小国の王女Anyaが、悪い魔法使いである継父によってカエルに変えられてしまった姉の恋人を元の姿に戻すため、魔法薬の材料を求めて冒険の旅を行うことになる、といったもの。そこに、姉妹を害して王位簒奪を目論む継父の権力欲とか、それぞれの経緯で姿を変えられてしまったキャラクターたちが加わったり、他にもいろいろ、どんどん旅の目的が膨れ上がっていく感じ。ちょっとひと息では説明しきれそうにないお話の絡まりよう。それだけ、いろんなキャラクターの物語があったともいえますか。

この作品で目を引かれるのは、まずそのタイトルではないかと思います。感嘆符付きで示されるその言葉は、ざっくり「カエルにキスする者」という感じの意味合いになるでしょうか。それだけでウゲッという印象を起こさせるタイトルで、さらにここでは感嘆符もついていることからいよいよもって、おぞましいことをする者もいたものだ、ありえない、ひくわーといった、否定的なニュアンスが含まれているように感じられるところで(本当にそんな意味がこめられてるのかはわかりませんが)。

とはいえ、悪い魔法使いに姿を変えられた王子さまが、愛する王女さまからキスされることで元の姿に戻るという筋書きは、童話なんかではそれに類するものをちらほらと見かけるタイプの話ではないでしょうか。その他にも、白雪姫等、多くの人が知っているだろうおとぎ話を下敷きにしたパロディーが散りばめられているのがこの話であり。

そして、そんないかにもおとぎ話的な出だしでありながら、いきなりそのおとぎ話を逆手にとって、王子の恋人ではなく、その妹であるAnyaが王子を元の姿に戻すべく奮闘することになるのがこの話であり。いきなりどういうことなの……という感じでしたが、そんな頼み事をしちゃうのがAnyaの姉王女なのですよね。そして、なんで自分がと不満に思うAnyaに有無を言わさず承知させてしまったのが、姉王女から発された「sister promise」という言葉。え、なんですか、その言葉? なんでAnyaさんそれで不承不承ながらも好きでもない王子さま(からカエルになったもの)にキスすること引き受けちゃえるんですか? 英語圏では何か特別な意味合いとかあったりするんですか? そういう魔法の言葉かなにかなんですか? 百合なんですか? とても、気になるんですけど! 詳しい人の解説求む。

それはそれとして、旅に出たはいいものの、お供といえば犬一匹。王家に代々仕える忠犬たちのひとりで、ひとと言葉を交わすこともできるとはいえ、性格は成長期の犬のそれであって。基本的に好奇心優先で落ち着きがない。あとから加わる旅の仲間も、おどおどしたイモリ(元は盗賊志望の少年)、元のカワウソの習性が抜けきらない女中と、なんとも頼りにならない者たちばかり。こんな一行を旅慣れない王女が率いてうまくいくんだろうかと不安を募らせてくれるところで。実際、うまくいかないことだらけで、Anyaとしても何度もくじけそうになりながら、それでも姉のためにと歯をくいしばって前に進む姿はいかにも根性あふれてて、そっと背中を押してあげたくなる健気さでしたね。

正直なところ、道中の役に立った度合いでいけば、旅のお供たちよりも途中で立ち寄った先の大人たちのほうがはるかに助けになったのはまちがいないでしょう。なにせ、全員まだ子どもの旅の一行でしたから。でも、そのお供のすべてに、Anyaの助けとなる見せ場の場面があったんですよね。なにより、最後の場面で決定的な役割を果たしたのは、その中のひとりでした。適材適所。大人たちと比べたら、頼りにならないのはしかたがない。けれど、子どもでも役に立てるときはある。そんなことを伝えてくれるような、そうでもないような、なかなか愉快な旅の一行ではありました。なにより、あの対ボス特効無敵状態は読んでて笑っちゃいそうになるくらいのおもしろさではありました。

あらためてふりかえってみると、やっぱりいちばんの大筋は、王城で臣下たちにかしずかれて育った子どもであった王女Anyaの冒険と成長の物語ということになるのでしょうね。誉れあるFlogkisserの二つ名を頂いた彼女が、見事なまでの転変を見せたクライマックスの場面のその先で、どんな人生を歩むことになるんだろうかと、最後には感慨とともに思わせてくれるお話でした。今回の苦難を経た彼女なら、ちょっとやそっとのことでは大丈夫だろうとは思えるものの、まだまだ試練が待ち受けていそうだと思えるところでもあり。話自体は一冊できっちり完結してますが、続編が出るならそれもぜひ読みたい気にもさせられる。そんなお話でした。

とにもかくにも、おもしろい一冊でした。前年受賞の『The Inquisitor's Tale 』ともども、邦訳されないかなーと期待をしてみたり。
ラベル:Garth Nix
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:05| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする