2018年04月12日

蜘蛛の巣(上)(下)

蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫) -  蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫) -
蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫) -  蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫) -

蜘蛛の巣〈上〉 - ピーター・トレメイン/甲斐萬里江 訳|東京創元社
蜘蛛の巣〈下〉 - ピーター・トレメイン/甲斐萬里江 訳|東京創元社

七世紀のアイルランドを舞台にしたミステリー。ローマ・カトリック教会への移行がはじまりつつも、まだ多くの部分でケルトの要素を反映したアイルランド教会の文化・様式がはっきりと存在する辺境のキリスト教世界。学者としても注目すべきキャリアの持ち主だという著者ならではのケルト的アイルランド社会のあざやかな描写に目を奪われる。議論癖を持つ主人公のフィデルマによって対比されるローマ式とケルト式の違い。罪には相応の刑罰を与えるのではなく金銭の対価で贖うという法慣習など、新鮮な社会の様子が面白い。ケルト側が劣っているというわけでは決してなく、この地域ならではの文化を豊かに発展させてきながらも、王クラスの決定によってローマ式の導入が社会の趨勢となりつつあるところにうっすらと哀愁を感じさせるところもあり。

あと、この話の舞台は当時のアイルランド内でもわりと地方の村落的な居住域が舞台なんですけど、そこに登場する男性キャラクターの「〜〜なんですわ」という口調が、ひどく田舎くさくならない程度で、でも絶妙に地方のおっさんっぽさを感じさせるところがあって、とても印象的だったり。

日本ではこれが最初の刊行作だけど、本国では実は5作目にあたるということで、前後のことがいろいろと気になってくる記述もあり、もっとこの世界の話を読んでみたいと思わせてくれる話でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:59| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする