2018年04月22日

社内恋愛禁止 〜あなたと秘密のランジェリー〜

社内恋愛禁止 ~あなたと秘密のランジェリー~ (蜜夢文庫)
社内恋愛禁止 ~あなたと秘密のランジェリー~ (蜜夢文庫)

蜜夢文庫編集部ブログ

表紙ではタイトルの後半部分のほうが明らかに大きく表示されてるんですけど、正式のタイトル表記を見てるとそっちはサブタイトルっぽくも思えたり。

それはともかく、ティーンズラブ作品です。下着メーカーに勤めるOLで、人には秘密でセクシーな下着をつけるのが趣味の主人公・愛花と、下着のデザイナーで彼女の会社の社長になったお相手・高瀬のお話です。

初対面からしてセクシーな下着を買おうとしていたところにそのデザイナーの男性と出会ってという、人には見せられないような一面を知られてしまったことによるもので、そんな地点からスタートすれば、いろいろさらけだして大胆な関係になるのも早かろうという感じのふたりの話。女性向けとしてはかなりえっち度高めというか、前半はとくに気持ちの交歓よりも行為を楽しむタイプのえっちが多く、このペースだとほかのTL作品の倍くらいそんな場面があるのかと思ったりもしましたが、中盤以降は恋のライバルとなるキャラの登場で気持ちのすれ違いからきずなの深まりが描かれていってと、恋愛面もしっかりしてて。えろとらぶの二側面をそれぞれの要素を打ち消すことなく描きわけつつ最終的にひとつにまとまる感じはいかにも、ではないですがTLらしさをつきつめたひとつの形のようで印象的だったり。

……というところなんですけど、感想としてはどうしてもえろかったというところになってしまうという。大胆な下着をつけて、好きな人のことを思っていたら、それだけで体が疼いてきてしまったり。そんな状態なものだから、彼女を見かけたお相手のほうもすっかりその気にさせられてしまって、会社にいるのに周りからみたら明らかに不自然なスケジュールの空白を作ってまで行為に突入して興じあったりとか、ちょっと女性向けにしてはえっちすぎませんかね。個人的には大歓迎ですが。

そして、前半のえっちな場面はそういうところもあるのに、最後のえっちはちゃんと気持ちが深まる幸福感を感じさせてくれる描写になってるからまたいいんですよね。波乱があったことで心情の整理がついて、自分にはこの人しかいない、この人だからどんなことでも許せるという、何物にも代えがたい安心感に包まれる感じがあるというか。

以上、えっち度高めで手堅いお話ということで、男性のTL作品入門としてもすすめられるのではないかと思ってみたり……いやどうなんでしょうね?
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:41| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月20日

魔導の矜持

魔導の矜持 (創元推理文庫)
魔導の矜持 (創元推理文庫)

魔導の矜持 - 佐藤さくら|東京創元社

姉弟子が序盤で退場してしまって悲しい……(前書き)

それはともかく、シリーズ第三作。

今回もすごくいいテーマでした。誰かにとっての普通なことが誰にとっても普通なわけではなく、むしろその人以外には誰も理解できないことだったりする。けれどそれはその人にとっては当たり前のことすぎて、むしろそうじゃないことがどういうことかもわからないくらいに「普通」のことであって。誰かに説明しようとしても、子どもの頭では自分にだけわかる感覚というものをかみくだいて説明するなんてことはできるはずもなく。知識のある大人ならば、より専門的な知識のある先達ならばと期待をかけてみるも、これっぽっちも理解を示してはもらえない。それどころか、ほかの子どもたちならば普通にできることができないことから単にやる気がないのだと疎まれていき、しだいに落ちこぼれの烙印を押されてることに諦念すら抱くようになってしまう。それがどれほど人から希望を奪っていくことか。普通とされる才能だけが認められ、そこからはずれる素質がなんの価値もないものとして顧みられない社会が、普通からはずれた人たちに対してどれほど希望に欠けた社会として映ることか。だからこそ、理解できないながらも他人とは違う何かを持つ人だと肯定的に認識しようとしてくれる人物に出会えることの、なんとうれしいことか。普通ではないことがすなわち劣ったことなのではないのだと、本人にとってはまぎれもなく「普通」のことであるその感覚を育んでいいのだと言われることの、なんとありがたいことか。それはほとんど無価値同然に思われていた自身の存在そのものを肯定してくれることであって。まるごとそのまま理解されたわけではないけれど、少なくともそのままの自分を受け容れてくれる場所がある。まったく同じではないけれど、特異な存在は自分だけではない。ならば、いずれ何かの役に立てる日も来るのかもしれない。そう思えることが、どれほどの希望と安心感を与えてくれることか。弱い立場に置かれている人をあたたかく、力強く包みこんでくれる。とても素晴らしいテーマの物語でした。

なんですけど、ストーリーのバランスがややよくないような気がするというか。一作目でも思ったんですけど、ラバルタにおける魔導士と非魔導士の対立情勢はどうにも荒削り感があるんですよね。その影響か、そことエルミーヌとにまたがる話になると、どうにも物語の雰囲気がそちらに引きずられてしまうところがあるんだろうかというか。

今回の話でも、エルミーヌ組のキャラクターはすごくいい感じでした。アニエスの自由さはあいかわらずで、リーンベルにまでいろいろ影響を与えたりして、なんだかこの世界ではすごく特異な自由さを感じさせる魔導士養成の場を形成してたりして。カエンス君もそんな自由人やら負い目のある妹やら目を離すとぶっ倒れてそうで気を抜けない旧友やらに囲まれて、あいかわらずの苦労人ぶりがほほえましかったり。殺気だった雰囲気がただようラバルタと比べてこのほのぼのとすら感じられる空気ですよ。そこに今回のデュナンもくわわって、今後はどんな空気が醸成されていくことになるのかと考えると、それだけで次も楽しみになってくるところがあります。

次の巻は6月予定とのことで、くわえてシリーズ最終巻との予告もあり。もっとこのシリーズの話を読んでいたかった気もしますが、ともあれ次も期待したいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:37| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月13日

先生とそのお布団

先生とそのお布団 (ガガガ文庫) -
先生とそのお布団 (ガガガ文庫) -

ガガガ文庫既刊情報へ
先生とそのお布団 | 小学館

読んでて心が痛い。なんだこれは。なんというものを書いてくれるんだ、石川博品は。めちゃくちゃ私小説風の話じゃないですかこれ。タイトルは私小説つながりで明治の某作品から取ってきてますか? でも、なまじ石川博品作品を全部ではないにせよそれなりに読んできた読者としては、この作品はつらい。たぶん一応ファンである作者の売れない現実をまざまざと目の当たりにさせられるのは悲しいものがある。面白い話を書ける人だと知っているだけに。実力はある人だとわかっているだけに。作者の商業的な成功を喜ぶことができないのが悲しい。そのために自分がなんの助けにもなれないことがくやしい。

そんな、なかなか斬新な読書体験をさせてくれる一冊でしたけど、なんだかんだいってやっぱり面白かったんですよね。「石川布団」という架空の作家の物語として描きつつも、固有名詞はいろいろ変えてるけど、これはあの作品のことだよねとか、作者の作品をいろいろ読んできた人ほどふつうにわかっちゃう部分があって。誇張があるにせよないにせよ、商業的にはぼろぼろで、つらいつらい言ってる布団さんだけど、ときに成功の予感にぬかよろこびしたり、やっぱりダメでどうしようと悩んでみたり、売れない作家の悲喜こもごもぶりが、くすりとさせてくれる面白さにあふれてるんですよね。

あと、相棒の猫。猫はいいですよね。布団先生以上の「先生」ぶりを発揮するしゃべるお猫様との作家生活は、景気のいい話とは無縁でありながらも、コミカルなやりとりが癒しを与えてくれて。

そして、ラストが、石川博品らしい、青春っぽさをを感じさせてくれるしめ方で。これまたいいんですよ。細々とでも物語書きつづける。そんな作者をこれからも応援していきたいなと思わせてくれる、いいラストだったんですよ。作者の持ち味をしっかり感じさせてくれる一冊だったと思います。

鳴かず飛ばずな布団先生とはふしぎなことに縁がつづいてる売れっ子作家の美良との関係とか彼女のキャリアが今後どうなっていくのかとかも気にはなってるので、ぜひともつづきを……と言いたいところですけど、話の性質上、早くても数年後になっちゃいますかね。というか、そもそもこの本も売上的にはどうなってるんだろうかとか気になってきてしまうけど、まああまり考えすぎないようにしましょうということで。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:16| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月12日

蜘蛛の巣(上)(下)

蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫) -  蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫) -
蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫) -  蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫) -

蜘蛛の巣〈上〉 - ピーター・トレメイン/甲斐萬里江 訳|東京創元社
蜘蛛の巣〈下〉 - ピーター・トレメイン/甲斐萬里江 訳|東京創元社

七世紀のアイルランドを舞台にしたミステリー。ローマ・カトリック教会への移行がはじまりつつも、まだ多くの部分でケルトの要素を反映したアイルランド教会の文化・様式がはっきりと存在する辺境のキリスト教世界。学者としても注目すべきキャリアの持ち主だという著者ならではのケルト的アイルランド社会のあざやかな描写に目を奪われる。議論癖を持つ主人公のフィデルマによって対比されるローマ式とケルト式の違い。罪には相応の刑罰を与えるのではなく金銭の対価で贖うという法慣習など、新鮮な社会の様子が面白い。ケルト側が劣っているというわけでは決してなく、この地域ならではの文化を豊かに発展させてきながらも、王クラスの決定によってローマ式の導入が社会の趨勢となりつつあるところにうっすらと哀愁を感じさせるところもあり。

あと、この話の舞台は当時のアイルランド内でもわりと地方の村落的な居住域が舞台なんですけど、そこに登場する男性キャラクターの「〜〜なんですわ」という口調が、ひどく田舎くさくならない程度で、でも絶妙に地方のおっさんっぽさを感じさせるところがあって、とても印象的だったり。

日本ではこれが最初の刊行作だけど、本国では実は5作目にあたるということで、前後のことがいろいろと気になってくる記述もあり、もっとこの世界の話を読んでみたいと思わせてくれる話でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:59| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月01日

めがはーと

めがはーと (ビッグコミックススペシャル) -
めがはーと (ビッグコミックススペシャル) -

めがはーと | 小学館

夫婦や大切な人どうしで、寿命が譲渡できる世界を舞台にした読切短編マンガ集。いろんな愛の物語。

こういうの好き! っていう話がいくつもあって、かなり満足度の高い一冊。

もともと名前は聞いたことのある作家さんで、少なからず気にはなってたんですが、なかなか機会がなく。そんなときに新刊情報をチェックしてたらちょうどこの本を見かけまして。どんな話なんだろうかと試し読みを読んでみたら、もう即座に購入決定させてくれる話の雰囲気でひきこんでくれることといったら。

そんな、いきなりこちらの好みを打ち抜いてくれたのが「episode01」、大学生の男の子とその大学で働く年上のおねえさんの話。アザミさんが激烈にかわいかったです。観覧車のなかでの言葉が、もう、とんでもない殺し文句でした。お互い好き合ってて、付き合ってもいるふたりだけど、男の子のほうは自分の気持ちに自信がない。そんな男の子があんなこと言われたら、そりゃもうゴールイン直行ですわ。相当なものですよあれは。ひとつめの話ということで、舞台となる世界の紹介もかねた短めの話という感じもありますが、それもあって一直線に好みな展開を描いてくれてる感じがよかったですね。

そんな感じのピュアなひとつめの話から、ふたつめは都合のいい女の子の、傷つきながらもどうしようもない気持ちの話になったりして、けっこう雰囲気の温度差がすごかったんですが、青年コミックだとこんな感じにもなるのかなという偏った印象で納得してたりするところで。

一話読み終わったときの満足感がいちばんだったのは、次の「episode3」かもしれません。小さなころからかわいくてトップアイドルにまでなった妹と、そんな妹と比べたらどこまでも普通で平凡な兄の話。そんなふたりの許されない気持ちと、その行く末の話。重たいですね。タイトルにも含まれているようなメガトン級の気持ち。でも、だからこそ、最後の1ページにすごみがありますよね。あとがきを読むと、作者の目にはアイドルってこんなにもまぶしく映るものなんだなあと、そういう意味での新鮮な驚きもあったり。あと、そういうキャラとして造形されているだけあって、妹、かわいいんですよね。単純に顔がいい。そして、回想シーンでの、お兄ちゃんへの一心な想いがあふれ出る妹はかわいかったですね。バカだったあのころの自分みたいな思い出し方をしてるせいか、それが妙な隙を感じさせるというか。

けれどなにより、いちばん好きなのは、最後の話、「episode4」。キャバクラの嬢から漫画家のアシスタントになった女性と、その師匠にあたる漫画家の女性の話。つまりは百合なのでした。椎名さんがかわいい。ひとめぼれした心愛視点で描かれてるものだから、最初からすごくかわいい。同じ女性どうしだからどこか無防備だったりして、とにかくかわいい。偶然の出会いから、仕事仲間になって、関係性を深めていって……と、もう完全にお幸せにという雰囲気で、まさかこんなところで百合分が補充できるとはと意外な出会いに感謝の念を抱いたくらいでしたね。ただ、冒頭やら途中の挿入やらから、不穏な前フリされてたんで、結末としてはわりとお察しくださいというか。思えば最後のほう以外、全部、椎名さんがかわいさがいとおしくて、椎名さんの漫画の才能を尊敬する心愛視点での描写でしたからね。椎名さんを追いかけるように漫画を描きはじめて、無邪気に椎名さんを慕いつづける心愛に対して、椎名さんがどう思ってたかは、決定的な瞬間が訪れるまで気づけないでいたんですよね。見て見ぬふりをしていたというか。大好きな椎名さんといっしょに暮らしながら、大好きな椎名さんが教えてくれた漫画家としての道を進んでいくという、なによりも幸せで満たされていた時間が、一転して地獄のような苦しみにもがく日々へと転落する。その苦悩の隘路からふりかえるからこそ、過去の幸福な日々がどれだけあたたかで満ち足りた時間だったかを痛感させられることといったら。けれど、それでも、椎名さんが示してくれた道を進みつづけるしかない。進みつづけなければならない。なぜなら、その結末は自分自身の愚かさが原因なのだから……。そんな泥沼のような苦しみのなか、それでも椎名さんとの縁(よすが)にすがって生きあがく心愛の姿は、それゆえになによりも尊い想いの発露であると思うのです。重たいですよね。けれど、だからこそ素晴らしいと思うのです。とてもよい百合でした。

そんな感じで、内容的に読み応えのある話もいくつかあり、満足度がかなり高い一冊でした。こういうの好きなんですよねえ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:09| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする