2018年03月28日

狼と香辛料(8)対立の町(上)

狼と香辛料VIII 対立の町<上> (電撃文庫) -
狼と香辛料VIII 対立の町<上> (電撃文庫) -

狼と香辛料VIII 対立の町|電撃文庫公式サイト
狼と香辛料VIII対立の町(上) 支倉 凍砂:ライトノベル | KADOKAWA

いい感じの読み味。面白いなあ。こんなに面白かったっけ? 

アニメが放送してたころに何冊か読んでて、そのときにもそれなりに面白さは感じていたものの、展開だったりホロとロレンスの会話だったりが多少なりと頭を働かせることを要求してくるものであったせいか、読みつづけるのにエネルギーを必要とするところがありまして。なにかの拍子でストップしてしまってそのままになっていたのですが、昨今のシリーズ新刊発売の動きなどをみているうちにまたちょっと読んでみたい気持ちになってきまして。

そんなこんなで10年ぶりくらいにつづきを読んでみたんですけど、これが面白かったんですね。話については覚えてない部分も多々あるものの、それでもなんとなく思い出しながら読んでいくことができて。そしてなにより、ホロとロレンスの会話の空気がとてもいい。額面通りに受け取るのではなく裏の意味を読み解いてやる必要があるのはやっぱりその通りなんですけど、ふたりの距離感が縮まってるせいか、地の文でロレンスが理解しやすい補助線を引いてくれるので、すらすらと読み進めながらもするすると会話の流れを読み取ることができること。くわえてその内容の多くが、気心の知れたカップルによる機転を利かせたじゃれあいであるとなれば、言葉の裏にこもった甘い空気にあてられてこちらまでにやけてきてしまうことといったら。ああ、このシリーズこんなにも面白かったんだなあと、10年ぶりくらいに「新発見」した思いです。

再読とはまた違うんですが、昔読んでたシリーズを、時間をおいてからまた読んでみるというのも、いいものなのかもしれませんね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:09| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月19日

オネエ男子、はじめます。(1)

オネエ男子、はじめます。 1 (花とゆめCOMICS) -
オネエ男子、はじめます。 1 (花とゆめCOMICS) -

オネエ男子、はじめます。 1|白泉社
オネエ男子、はじめます。(1巻) | 白泉社e-net! 電子書籍

好きな女の子に男が苦手だからとフラれた主人公・高橋竜が、クラスメイトのオネエ男子・相良寅之輔に弟子入りしてオネエ修行をする話。4コママンガ。

めっちゃ笑った。好きな子にフラれて、でもあきらめきれなくて、なんとかお近づきになりたい。そこまではわかる。けど、どうしてそこからオネエの道を歩みだしてしまったのか。一歩目から方向性を間違えてしまった気がしてならない。でもおもしろいからいいか的な。

口調からはじまって、しぐさに気を付けてみたり、パンケーキを食べに行ってみたり、がさつな男子高校生がどんどん女子力高くなっていくのがおもしろい。そして、そんな兄貴にときおり女子として敗北感に打ちのめされてる妹のリアクションに笑う。

この巻の後半では女装にまで踏みこんで、順調に(?)がさつな男っぽさが消えてオネエ男子らしくなっている高橋だけど、肝心な目的である音鐘さんは空きスペースでのキャラ紹介で「あまり登場しない」と書かれる始末だったりして、完全に道を間違えてしまってる感がまた笑える。(終盤でおやっという展開があったりするけど、それがまたおもしろ……ややこしそうで、つづきが気になるところであり)

高橋の幼馴染の友だちである、燿市と伊織もそれぞれに個性的でおもしろくて。期待の新シリーズですね。

同作者の『水玉ハニーボーイ』のほうも読んでると、あちらのキャラに似た雰囲気のキャラを楽しむことができたり、あちらにも出てくるキャラの登場ににやりとできるかも。というか、あちらはあちらで、自分の美しさに自信ありなこちらの師匠とはまた違ったオネエキャラの登場するラブコメ模様が面白い作品ではあるので、片方が気に入ったらもう片方も読んでみるといいんじゃないかなと思います!
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:30| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月14日

動物になって生きてみた

動物になって生きてみた -
動物になって生きてみた -

動物になって生きてみた :チャールズ・フォスター,西田 美緒子|河出書房新社

この作者は変態ですわ。まぎれもない変態。

野生の動物の生態を描きだすために、その動物を観察する。それはわかる。けどそれにとどまらず、その観察や調査をもとにしたうえで、実際にその動物の野生の生活を実体験してみる。誰がそこまでやろうと思うか。

たとえば森に棲むアナグマのように地面を掘って穴ぐらをねぐらにしてみたり、また都会に棲むキツネのようにゴミ捨て場で食べ物を漁ったり、動物にとっての毛皮の代わりである人間の衣服については基本的にそのままではあるものの、それも時には人目がないのを確認して脱ぎさって世界を体感してみたり。こうして一貫した趣旨でまとまった文章にされないと頭のおかしい人としか思えないような行動をとりながら、いや、わかっててもやっぱり変態と思ってしまう体験をくりかえしながら、人間の目線からではない、その動物の感覚を通した世界の情景を再現しようと試みる。これが抜群に面白いんですよ。擬人化された動物の物語や、映像を通して見る動物紀行などは、それはそれで面白さがある。けれども、「動物になってみて」そこから見えてくる世界というのは、それらとはまた違った、おおいなる驚きに満ちている。

人間と動物は、まず目線の高さが違う。試しに自分のひざくらいの高さで周りの景色を写真に撮ってみると、それだけでも普段見るものとは違う風景が現れる。なんでもない障害物が大きな壁に見えたり、距離が縮まることで地面の存在がより意識されるようになるかもしれない。

また、人間は感覚器官のなかでも視覚からもっとも多くの情報を得ているが、動物の場合は必ずしもそうとは限らない。嗅覚が発達している動物もいれば、聴覚が発達している動物もいる。それらを完全に再現するのは不可能であるけれども、普段それほど意識していないだけで、人間自身の嗅覚や聴覚、触覚などでも、彼らの世界をある程度体感することは可能であるらしい。たとえば、地面から立ちのぼる熱気や吹き抜けていく風などから森の空気の流れを感じ、それに乗って漂ってくる匂いから周りの風景を脳内に構築したり。それはあくまで人間の感覚の範囲内ではあるものの、まさしく異なる感覚の持ち主になってみようとする試みで、未知の世界をのぞかせてくれるようなぞくぞくとした喜びを感じさせてくれるものがあって。

それらすべてが動物になってみたからこそわかる、というわけではないとしても、それらを動物の感覚を通して描くこと、描こうとすることは、それ自体がひとつの叙述の挑戦であり、人間にとってのひとつの新たな世界観の提示にほかならないと思うんですよね。そしてなにより、それらの描写が面白おかしくて、読んでいてとても楽しい。これはすごい本だと思いますよ。

動物になって生きてみるということと、人間社会の一員として生きることは根本的にあいいれないし、作者の体験は一見すると頭のおかしい人のようにしか思えないかもしれない。でも、動物の生態についての理解を深めること、それらをつきはなした描写によってではなくより内側から感覚的に理解するために、おおいに価値のある一冊だと思います。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:18| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月02日

彼女になる日(3)

彼女になる日 3 (花とゆめCOMICS) -
彼女になる日 3 (花とゆめCOMICS) -

彼女になる日 3|白泉社
彼女になる日(3巻) | 白泉社e-net! 電子書籍

どの話も三芳と間宮がいちゃいちゃしすぎててたいへんにやにやしかったです。ありがとうございました。

「羽化」にともなう体の変化があり、心の変化があり、それらにとまどいながらも関係を深めていったふたりが、満を持してラブラブムード全開な生活をお見せしてくれました。それぞれの両親に挨拶したり、旅行先ではやくも夫婦として扱われてうれしさを感じたり、誕生日プレゼントを渡すのもきずなを深める話になったりと、裏表紙の「結婚間近」な雰囲気をこれでもかと感じさせてくれる仲睦まじさでございました。

思えば、これまでの巻はふたりの関係がまだどうなるか、未知数なところが多分に含まれていたこともあり、ほかのキャラクターが間に入ってきたりといった展開もありましたが、この巻ではそんな展開もほぼなく、ほとんどまるまる一冊、三芳と間宮の話だったといってもよさそうな。なにより、上にもあげたようなイベントをこなしながらも、互いに対してドキドキする気持ちを抱いたり、安心を感じたり、互いの一番であることを求めあったり、そうした感情を通しての結びつきを深めていく様子がとてもいいものでありまして。そうして心からの幸せを表情にあらわす様子はこちらまであてられてしまいそうになるものがありまして。いいですよね。

そしてラスト、三芳と間宮の関係は、単に互いを好き合う男と女だからというだけのものではなく、小さいころからのつきあいを通して築かれてきた絆のうえになりたつ、このふたりだからこその関係なんだなあと思わせてくれる話がノスタルジックですごくよくて。一冊通してふたりへの祝福の気持ちがこれでもかと強められる話ばかりでしたね。

とはいえ次回予告によるとまだひと波乱あるようで……? どうなっているのか、楽しみにしたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:37| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月01日

エルフ皇帝の後継者(上)(下)

エルフ皇帝の後継者〈上〉 (創元推理文庫) -  エルフ皇帝の後継者〈下〉 (創元推理文庫) -
エルフ皇帝の後継者〈上〉 (創元推理文庫) -
エルフ皇帝の後継者〈下〉 (創元推理文庫) -

エルフ皇帝の後継者〈上〉 - キャサリン・アディスン/和爾桃子 訳|東京創元社
エルフ皇帝の後継者〈下〉 - キャサリン・アディスン/和爾桃子 訳|東京創元社

ゴブリンの王女との子という出自によって父帝からうとまれ、片田舎に追いやられていたエルフ帝国の第四皇子マヤ。そんな彼のもとにいきなり継承のお鉢が回ってきて、帝王教育もなにも受けていない状態から皇帝としての歩みをはじめていくことになる話。

これ好きなタイプの話ですね。新帝となる主人公マヤの視点にただよう自信のなさ。政治において儀礼的な面においても知識がなく、皇帝という立場は荷が勝ちすぎているのではないかと痛感させられる力不足感。ただ目の前で決められていく物事に唯々諾々と従っているのがいちばんではないかという思考がよぎる卑屈さ。けれど、それでも位に就いたからにはいい皇帝になりたいと願う気持ちはたしかに持っているのであり。自信のなさと前向きな気持ちの間でたびたび揺れ動くマヤの視点でつづられる、期待度ゼロの新皇帝の物語。すごく好きな感じの描写の調子でした。

それというのもマヤの育ちがいかにも不遇で。皇子として生まれていながら、主となるべく乗りこんだ宮廷において、まずそもそもその宮廷に不慣れであることが露呈するレベル。誰かと密談するならどこか、誰が権力を握っているのか、人間関係は等等、これから帝位に就こうというのにそれらの知識もなく、かといって信頼できる相談相手もいないところからはじまる宮廷生活。政治的な会議に出席してもなされる話はさっぱりわからないことばかりで、かといって質問しようにも初歩的な質問で話を遮るのは時間を無駄にすることでしかなく、また誰かに相談しようにも、親密な態度の者ならともかく、そのたび無知に呆れられるのはたまらなく恥ずかしい。劣等感を抱きながらも頼れる相手はろくにいない。臣下が皇帝を立てるのはあくまで帝位に対する敬意があるからであり、個人としてのマヤを見てくれる人はほとんどいない。いたとしても、個人としての信頼を寄せるよりもまず帝位に対する畏敬から一歩距離を取ってしまう。無能で、孤独で、どうしようもなくて、けれどそれでも自分が皇帝になってしまった。なってしまったからには、失敗しながらもすこしずつ皇帝としての歩みを進めていくしかない。ときには成果をあげて、すこし自信をつけて、けれどすぐにまた自信を失ってしまうような事態が起きて。全体的に自信のなさは変わりがない。それでも、そうして手探りしながらもすこしずつ進められる歩みはちらほらと認められだしていくもので。苦しい時期が長いほどにそのありがたさはじんと胸を打つものがあって。今はまだごく一部の近しい人たちだけであっても、いつかだれの目からもはっきりと立派な皇帝として認められる日がくるのではないか。そう思わせてくれるラストもあり、のちの名君による治世初期の苦労の日々を描いた話のようで、とても心地のよい物語でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:06| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする