2017年02月01日

ヒロインな妹、悪役令嬢な私(2)

ヒロインな妹、悪役令嬢な私2 (PASH! ブックス) -
ヒロインな妹、悪役令嬢な私2 (PASH! ブックス) -

クリスティーナって実はバカだったんだろうか。そんなことを思ったり。いや、前の巻ですでにマリーワからつっこまれてはいたけど、でもまだクリスの自称天才ぶりを否定できるほどの要素はなかったと思うんですよ。そりゃあときに抜けてる部分もあってマリーワに怒られたりもしてましたけど、勘所はしっかり押さえて年齢不相応なまでの礼儀と教養を身に付けてたはずだし、びしっとすべき場面ではシャルル命名:第二形態で見事にそれをこなしてみせることもできましたし。なので、涼しい顔でそれをやってのけてたわけではないにしても、自画自賛もこめての天才という自称には、ほほ笑ましい気分になりながらもクリスらしいと首肯させられるものがあったはずなんですよ。

けど、この巻の前半を読んでると、なんかもうやっぱりただの自称天才なんじゃないかというか。実は頭悪いんじゃないかというか……。ほほ笑ましい気分で擁護するにはさすがに隙が多すぎやしませんかね、このクリスティーナさんは。人目につくところではないから周りからの評価はそれほど傷つかないとはいえ、サファニアにいやがらせするつもりで自身のうっかりから自爆したり、王太子と低レベル極まる煽りあいをしたりと、読んでいてだんだんとアホの子を見るような目になっていくのを禁じえなかったというか。まあ、偉そうな王太子殿下相手に一切の遠慮なくさらに偉そうな態度でやりこめるところとかは最高にクリスティーナらしかったけど! 「めっちゃ我がままで自分がいちばん偉いと思ってるお貴族様」そのままで、否定できるところなんて少しもないんだけど! というか、それを作中でもつっこまれてて笑っちゃったんだけど、それでもそこに嫌みが少しもなくてむしろミシュリーの言うようなかっこいい印象を与えてくれるのがクリスティーナだけど! 

いやもう、笑った笑った。

でも、この巻の終盤になって、そうしてバカをやっていられる時間は終わってしまったと、そういうわけなんですね。小説家になろうにおけるいわゆる「悪役令嬢もの」の流れを汲むこの話はいよいよ本格的な幕開けを迎えると、そういうことなるようで。

この急展開はとにかく衝撃的でした。「悪役令嬢もの」の型となるゲーム世界に当てはめると、本来の主人公は妹のミシュリーで、彼女に立ちふさがる悪役令嬢の役に当たるのがクリスティーナという構図。このシリーズでは始まった当初からクリスティーナはミシュリーのことを世界でいちばん可愛く思ってて、ミシュリーもクリスティーナ以外のことはわりとどうでもよく思ってるくらいにお姉様中心に世界ができててと、決まりきった枠なんて知ったことかとばかりにシスコン姉妹ぶりを発揮しまくって、ここまでほほ笑ましい気分にさせてくれる関係を見せつけてくれてはいたんですけど……。将来的にも、仲がよすぎて独り立ちが心配ではあったけれど、そのままなら仲のいい姉妹としての幸せを見つけていってくれそうな、そんな関係だったはずなんですよね。

それなのに、そうなる未来は決して許されないとばかりの急展開。クリスが憎むところの運命によるものか、それとも血のつながらない妹であるミシュリーの出自が持つ因縁によるものか、どちらかが不幸にならなければならないとでもいうかのような転機を用意してくるのは、クリスならずとも呪詛の一つや二つを吐きたくなるような展開ですよ。二人がいっしょで幸せで、それでいいじゃないですかと言いたくなってしまう。シャルルも交えてわーわーきゃーきゃーやってるのって実に可愛らしくて、それだけで満ち足りた空間みたいな感覚さえ覚えさせてくれるものがあったんですから。

けど……なんですよね。どうしてと思うと同時に、この非情な展開を心の底から「いい」と思っている自分もいるんですよね。どうすればいいのかと正解のない苦悩に陥ることになったクリスティーナが下した決断。それがめちゃくちゃ自分好みの展開で。

そうなんですよ。クリスティーナは物語開幕当初からどこまでもぶれることなく妹第一のシスコンだったんですよ。そこにミシュリー自身の意思の介在があったとかどうとか言われてもいましたが、そんなことは抜きにしても、ミシュリーを世界で一番かわいいと思っていたのはまぎれもない事実で、シャルルのことを好きになっても、将来あとを継ぐことになる父親に逆らうことになっても、ミシュリーのことをなにより優先するのがクリスティーナという存在だったんですよ。それを妹ぐるいと呼ぶ者がいたとしても言わば言え。可愛がるに値する者をそれに値するだけ可愛がることになんのおかしなことがあるというのか。ましてミシュリーはお姉様大好きで甘えたがりな妹なのだから。

だから、二人のうちどちらかが未来を奪われることになるというのなら、自分から奈落の底に落ちていく。ミシュリーには真意など知ってもらう必要もなく、彼女が幸せをつかむための踏み台になれるならと、そのことに慰めさえ見出してみせる。これこそはクリスティーナというキャラクターの真骨頂でしょう。心を鬼にして悪役令嬢としての道を歩み始める彼女の心情が痛いほどに伝わってくる、なんとも胸に迫る展開。

けれど、素晴らしいのはそれだけではなくて。姉の突然の変化に不審を感じたミシュリーが、同じくシャルルが、サファニアが、レオンが、これまで彼女が心許してきたキャラクターたちが、いきなりそんなことになってしまったのには訳があるはずだと、そんな運命からクリスを救い出さなければと、それぞれ手を組んで動き出そうとする。これほど盛り上がる展開がありますか。願望交じりで期待せずにはいられないじゃないですか。

次回、最終巻。動き出す悪役令嬢の物語。その行く末が楽しみでなりません。


そうそう、それと、昔話で出てきたマリーワとイヴリアの関係性もとてもよかったんですよね。クリスティーナにとっては頭の上がらないマリーワが、イヴリア相手だと飄々とからかわれるのに感情を乱されて、淑女らしくない舌打ちまでしたりして。後年のマリーワがイヴリアを嫌いだったと思い返すことには間違いはないんでしょうけど、それでも気を許したような会話ができている場面を見るにつけ、嫌い以外のなんらかの感情を見出したくなってしまいます。その場面のイラストにただよう色っぽさのせいかもしれませんが。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:11| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする