2016年06月11日

魔法の使徒(下)

魔法の使徒下 (最後の魔法使者第1部) (創元推理文庫) -
魔法の使徒下 (最後の魔法使者第1部) (創元推理文庫) -

なんとか手に入った〈最後の魔法使者〉シリーズ第1部の下巻。 

〈生涯の絆〉で結ばれたタイレンデルを喪ったヴァニエルの嘆きと失意の底に沈んだ様子がとてもじっくり描かれててよかったです。彼の師や〈共に歩むもの〉がどれだけ彼を励ましても、どれだけ彼に生きていてほしいと伝えても、魂の半分を失ったも同然のヴァニエルにはもうそれ以前に感じられた喜びが二度と得られないことはいやでも理解できてしまって。生きることに期待を見出だせない苦しみというのはいかばかりのものか。そしてそれが生涯にわたって続くことがわかってしまう心境というのは。しかも、大切な人を亡くしてしまったその場に自分自身もいて、させたいようにさせなければ最愛の人の心の一部が死んだようになってしまうと理解できてしまっていたがゆえに、止めることさえできなかったとしたら。どれだけ慰められようと自責の念に駆られつづけるヴァニエルの心理が痛切なほどに伝わってきてつらい展開でしたね。読んでいて心地のよい文章を書く作者がこれでもかとばかりに悲しみに嘆き暮らす人物を描くものだから、頭のてっぺんまでどっぷりとおちこんだ気持ちに沈みこんでしまうことといったら。けど、そういうひたすらにうしろ向きな思考をなぞっていくのって、それはそれで快さがあるんですよね。やっぱり自分、こういうのにシンパシーを感じるタイプなんでしょうか。それはともかく、悲しみを胸に抱えながら、それでも〈使者〉としての天性に目覚めたヴァニエルが、今後どのような生きざまを見せてくれるのかというのは気になるところですね。同一世界の後代の話では英雄物語の主人公として語られるほどの人物。いまはまだその片鱗がようやく感じ取れだしたものの線の細さが目立つ少年にしかすぎなくて。三部作の残りの二作ではまたどれ程の苦難に陥ることになるのでしょうね。今回は、それほど理由らしい理由もないまま失意の底から気持ちが上向いていってしまった印象でしたが、それはともあれ、残りの人生に大いなる喜びは残されていなくても小さな喜びはまだ無数に存在するんだとか、なにより生きていてほしいと心から願う人にとって世を儚む行為は自分と同じような悲しみを他者にもたらすことになるんだと、そんな感じの説得の言葉は、ちょっとおちこみぎみなこちらの心にもじんわりと響く言葉ではありました。そしてそれを実感させてくれたのは、他のだれでもない、このシリーズで特徴的な〈共に歩むもの〉の存在でしたね。絆で結ばれた相手と心を通わせて、どこまでも優しく寄り添ってくれる、幻想的な存在である馬。今回も、ヴァニエルに拒絶されれば距離を置きながらも、それでも誰よりも彼のことを案じつづけたイファンデスの健気なまでの献身ぶりはなによりの癒しでした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:52| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月10日

天冥の標(7)新世界ハーブC

天冥の標VII 新世界ハーブC (ハヤカワ文庫JA) -
天冥の標VII 新世界ハーブC (ハヤカワ文庫JA) -

え!? ちょっと、これ、マジですか? 最後まで読んで、シリーズ第一巻以来の驚きに撃たれましたよ。だって、これまでの展開的に、〇〇は××だから、この巻では△△が〜〜するって予想するじゃないですか。それなのに、※※は――だったなんて……って、もうこれ、ネタバレなしになんにも感想書けない感じじゃないですかー!

とはいえこのショックを、なにも書かずにはいられないというもの。まあ発売から二年以上たってますし、それほど気にすることもないでしょう。


ということで、前の巻、《救世群》過激派の主導で太陽系には地獄絵図のような構図が顕現してましたよね。一度罹患してしまえば高確率での死か、運よく助かっても実社会での成功の希望はすべて断たれ、狭い隔離居住地で一生浮かばれない生活を送らなければならなくなってしまう冥王斑。その患者たちというのは、合理的な理由はあるとはいっても被差別者集団そのものであることには違いがなくて。長年積もりに積もった“未染者”、つまり健常者社会への恨みが膨れ上がっていく流れというのは、彼らの視点からも物語が描き出されたことで、同情できる部分もあるだけに難しいものがあって。けれど、その切実な思いすらも、影からいいように利用されているだけにすぎないとわかってしまうあの絶望感。にもかかわらず、一度動き出してしまった事態はもう後戻りがきかず、ここからこの太陽系の人類は一体どうなってしまうんだろうかと、押し潰されそうな不安と捨てきれない希望を持ちながら、そんな感じで始まったシリーズ第7巻でした。

まあとはいえ、希望が潰えきってしまわないことは、一巻の話からも明らかではありました。少なくとも、そこより先の未来に、生きている人々はいましたから。その時点での主要な登場人物たちと血縁的なりの関係を持っているだろう人物その他が存在していることも。

ただ、それならと、普通はこう考えると思うんですよ。状況はかなり厳しいけれども、ジニ号計画がその希望を形にしてくれるんだって。まずは生き延びることが大事だからといっても、あまり計画に関係なさそうに思える人たちと協力してどう繋がっていくか予想もつかない事業を始めていっても、最終的には惑星ハーブCに向かうことになるんだろうって、思うじゃないですか。それなのに、読み進めていったらまさかの展開ですよ。ハーブCってそういうことだったんですか!? この衝撃は、ちょっと言葉では言い表しがたいものがありますよ。遠い未来、人類がはるか遠くの星系にまで進出するようになって、そこで突然に正体不明の星系外の生命体に襲われて、そこからどう生き延びていくのかという話だと思っていたものが、それほどの時間を経てもまだ狭い太陽系内の話でしかなかったとなれば、それはもうその停滞を生み出してしまった争いの不毛さにただただ悲しくなるばかりですよ。この先まだまだどんでん返しは起こりうると思いますけど、一巻の展開から、少なくとも健常者人類と旧《救世群》である咀嚼者の敵対関係は解消されてはいないようですし、なんというか、未来に対する明るい希望よりも暗い展望が見えてくるような展開ですよ。明るい結末を期待したいけど、でも、どうだろう? 難しいかなあ?

できれば希望のある終わりかたを期待したいですが、そうでなかったとしても、ここまで読んできて最後まで読まないなんて選択肢はありえませんから。この傑作シリーズ、まだまだ気張って読んでいきたいです。

上記のことが明示される以前の部分で、ハンの苦悩とか、サンドラの思想とか、ほかにも感想はいろいろあったはずなんですが、もう全部吹っ飛ばされっちゃったんで、ひとまずこのあたりで。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:11| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする