2018年12月09日

クリフトン年代記(3)裁きの鐘は(上)(下)

裁きの鐘は(上): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫) 裁きの鐘は(下): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫)
裁きの鐘は(上): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫) 裁きの鐘は(下): クリフトン年代記 第3部 (新潮文庫)

ジェフリー・アーチャー、戸田裕之/訳 『裁きの鐘は〔上〕―クリフトン年代記 第3部―』 | 新潮社
ジェフリー・アーチャー、戸田裕之/訳 『裁きの鐘は〔下〕―クリフトン年代記 第3部―』 | 新潮社

今回も進行が速い。ハリー・クリフトンの少年時代から大学入学まもなくくらいまでを描いた第一部のように、この第三部もその息子セバスティアン・クリフトンの少年時代から大学入学くらいまでの年代を上下巻の二冊で駆けぬける。

その見どころはいろいろあるにはありましたが、個人的にはやはりバリントン家がらみのあれこれ。バリントン家のろくでなしについては第二部でほとんど幕が引かれ、唯一引き延ばされた案件(邦題はこれについてでしょう)に関しても今回の冒頭ですんなり、とはいえないまでも決が下されて。これにてあの忌まわしい記憶ともども別れを告げられる……かと思っていたんですけど、まだ未解決の事案があったじゃないかと思い出させられる展開。そうですよ。あのろくでなし、最後の最後に愛人との間に子どもなんて残していきやがりましたね。しかもその娘を残して実の両親はどちらも死んでしまっているから本当にどうしようもない。残された不義の子がどうなろうが、クリフトン一家にもバリントン家にも関係ないといえば関係ないんだけれど、それでも彼女を引き取るのがよいと思われる事情が持ち上がるのは一族の縁がつながるようで不思議の思いにかられるところであり。まあでも、ハリーとエマの夫妻にとっても同じ父から生まれた妹にあたるわけで、その子を引き取って面倒を見るのは父の業の罪滅ぼしのようでもあり、これもひとつの因縁でしょうか。善行も悪行も歴史に連ねられていく名門一族らしさを感じさせる事柄ではありましたね。当時まだ幼く事情も知らないセバスティアンとの相性がどうなるかというところは気がかりではありましたが、出会った当初からびっくりするぐらいの良好な関係を目にできるのは感慨深くもあり。というか、セバスティアン、なかなかやんちゃぶりを発揮するエピソードも多く、どんな男の子になっていくんだろうかと期待半分心配半分なところもありましたが、ことこの女の子、新たな妹となったジェシカに対してであれば妹思いのいいお兄さんぶりを随所で見せてくれるんですよね。妹も兄を慕っているようで良好な仲を見るたびにほほえましい気持ちにさせてくれること。ただ、上述の事情がいまだ明かされないままになっているのは、将来に対する小さいながらも不安のもとではあり。原題はその辺の機微を表した感じでしょうか。

ふりかえってみてもやっぱり、ハリーよりもセバスティアンに焦点が当たることの多かった回でしたね。あと、ジャイルズ・バリントン。議員のどぶ板選挙ぶりはイギリスも大変そうだなあと思わされるところもありましたが、彼も順調にキャリアを歩んでいるようで。どこまでその道がつづいていくのかと楽しみなところでもあり。

今回もまたラストはクリフハンガーではありましたが、前回に比べればまだ心おだやかに次の巻を迎えられそうですね。いやまあ、事によっては事態の深刻さはより洒落にならん感じではあるんですけれども。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:23| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月06日

星系出雲の兵站(1)

星系出雲の兵站 1 (ハヤカワ文庫JA)
星系出雲の兵站 1 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站 1 | 種類,ハヤカワ文庫JA | ハヤカワ・オンライン

異星人と思われる勢力の接近が探知されて、ここに人類の存亡をかけた戦いがはじまるかと思いきや、その前にまずまとまりきれない内部事情を抱えつつも緊急時の体制を構築するところからはじめなけらばならないのであったという。

やりました、内部対立ですよ! 中央と辺境の対立関係、独立志向の高まりと介入必至の情勢において、嫌でも生じる政治的な摩擦に対して真剣に頭を悩ます軍人や政務官なんかのお偉方の姿はいいもので。

これ、なによりも異星人の発見された場所が独立志向の高まっている辺境・壱岐星系だったというのがいちばん厄介なところですよね。中央としては自分たちが主導して統一的な体制のもとで対応したい。けれど、現地からしてみればそれは独自に育んできた社会体制の解体につながりかねないもので。それどころか、これを機会に自治から統合へなんて介入をされた日には、悲願である独立の芽を摘まれてしまうことにもなりかねない。そんな背景から、壱岐星系の人々はこの事態をあくまで自分たちの管轄であると主張するし、中央には後方支援的な立場を期待する。中央の人間としては、トップダウンで統一的な指揮を執るのが効果的だとは思いながらも、そんな現地の情勢を無視できずにいくらかの配慮をし、けれど譲れない部分は自分たちの主張を押し通す。この辺の対立と妥協点の探り合いがですね、いいんですよね。対立はあるんだけど、それらはすべて我欲ではなくて社会をよりよくするための自分たちの職分においてであって。そうであるからこそ、強く出る部分には信念が感じられて。

キャラとしても、まじめ一辺倒の堅物がいるかと思えば、あれこれ気を回す裏に個人的な期待をさしはさむ茶目っ気を感じさせる者がいたり、政治的な配慮に頭を悩ませる者がいるかと思えばそんなこと知るかとばかりに効率一辺倒で物事を進めたがる者もいる。それぞれの行動の裏にはそれぞれの思惑が感じられて、統一的なリーダー不在のままに物事が推移していってるようにも見えるんだけど、人類の総体として見れば対異星人のための一個の体制ができあがってはいくのであり。この辺のあんばいの描写がいいですよね。

さて、そうしてとにもかくにも進展の見られる内部事情とは裏腹に、肝心の敵に関しては、戦闘まで行われたもののまだその正体が見えないのであり。果たしてこの接触がどんな結果をもたらすのか。タイトル見てるとそこまで派手な展開にはならないんだろうかと思えたりもしますが、どうなることやら。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:50| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月05日

親がうるさいので後輩(♀)と偽装結婚してみた。

親がうるさいので後輩(♀)と偽装結婚してみた。 (百合姫コミックス)
親がうるさいので後輩(♀)と偽装結婚してみた。 (百合姫コミックス)

出だしだけどこかで見かけたような記憶のある表題作目当てに読んでみたマンガ作品集。

収録作品としては表題作が4分の3に独立した読切が4分の1といったところ。

個人的には読切の話のほうが好みだったでしょうか。表題作の社会人百合のほうは、先輩の顔がいいいう感想にほぼ落ち着いてしまうところがあるというか。あと、クールに見えて押されると弱い先輩がかわいいとか、そんなところでしょうか。それはともかく。

読切のほう、ざっくりとした内容としては、ケガで陸上部を引退した女の子とその部活で全国で戦いつづけている女の子の話。

ふたりの関係はもともと薄いつながりでしかなかったようだし、最後まで読んでもこれは恋心なのかなあ、でもほかになんて呼んだらいいかわからないし……というくらいの微妙な感じではある。けれど、主人公がもう一方の女の子を見つめる視線。まるで敵わなかった才能の高みから見下ろしてくるような相手に辟易と憧憬という矛盾した気持ちを抱きつづけ、なにかあると放っておけなくてちょっかいを出さずにはいられない。そうした言動の背景にある感情は、いいものなんですよね。ひと言で言い表せるほどにははっきりとしていなくて、けれど引き寄せられる自分を自覚するには十分なほどの感情が存在していることを感じさせられて。

同じ部活をやれていたころにはただ届かないだけの存在だった。それが、部活をやめることになったことで初めてひとりの人間として意識するようになる。その姿はかつて思っていたような孤高の天才というには頼りなくて、けれど競技者として彼女が知るかぎり誰よりも理想に近い人で。だからこそ彼女には強くあってほしいし、その一方で自分しか知らないだろう弱い部分を見つけるとほんのりとしたうれしさを感じてしまう。ちょっかいを出してみれば意外にもかわいい反応を返してくれるものだから余計に楽しさもあるけれど、だからといってそれ以上ふたりの関係をどうしたいのかもわからない。

そんな感じの関係。当人にもよくわからず、けれどその相手とだからこそ生じる悪くはない関係、その時間を当て所も見えずに過ごしている感じが、とても学生っぽくてよかったですね。

そういえば、あとがきで初めて気づきましたけど、アニメ化も経験されてる作家さんなんですね。そちらのほうは興味がありつつもそのままになってる感じでしたが、ともあれこちら、なかなかいい一冊ではありました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:30| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月04日

腹黒従者の恋の策略

腹黒従者の恋の策略 (ソーニャ文庫)
腹黒従者の恋の策略 (ソーニャ文庫)

腹黒従者の恋の策略|ソ−ニャ文庫

辺境送りが決まって捨て鉢な気分の王女さまミルドレッドと、彼女に一心に忠誠を誓う騎士ライアンの恋物語であった。表向きは。

というのも、王女さまのほうから身分をかさにきて結ばれたような関係でありながら、その実の従者の偏執ぶりにゾッとさせられる話でもあったので。なんというか、ヤンデレルート的というか。

王女さまからしてみれば、幼いころからのつきあいのある相手で、昔に起きた事故から負い目を持っている相手に押しきられるままに、自身も心の奥底に押しこめようとしていた想いと素直に向き合って、幸せで祝福される結末を迎えるお話。

そのはずだけど、ライアン側から見ればまったく違う意味を持つ。不遇な生い立ちをしてきた王女さまをその不幸から解き放つお話。焦がれるほどの想いを抱くミルドレッドのことがただただほしくて、地位や名声なんてものよりもなにより彼女を手に入れたくて、真綿でくるむようにして鳥籠に入れて一心に愛情をそそぐ。真実を知ればその異常性にゾッとさせられるとともに、けれどそこまでの執着心を抱えるキャラだからこそほかのだれよりこのヒロインにふさわしい存在であるといやでも認めさせられる。

まるで呪いの上に虚構を築きあげて、その上にやっと成り立たされた幸せの形。いかにもいびつであり、けれどそのいびつさが際立つほどに目を奪われるような美しさを持つにいたった話でもあり。なかなかよいものではありました。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:32| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

予言の経済学(1)巫女姫と転生商人の異世界災害対策

予言の経済学 1 巫女姫と転生商人の異世界災害対策 (レジェンドノベルス)
予言の経済学 1 巫女姫と転生商人の異世界災害対策 (レジェンドノベルス)

レジェンドノベルス|シリーズ別一覧|予言の経済学

面白い。

予言とは、超常的に知りえた未来を伝える言葉であり、理屈を超えた経緯で直接的に未来を捉えた者の述べるところであるが、それゆえに知覚した話者の主観に左右されるものでもあり、信じられるか否かは話者の信用性に依存せざるをえない。真実を言い表しているのかもしれないし、虚言を弄しているのかもしれない。真実も含まれているのかもしれないが、あくまで一面的なものにすぎないのかもしれない。いつ・どこで・なにが起こるのか。だれが・どのようにしてその影響を被るのか。予言は超常的であるかゆえにそれらを明確にはしてくれない。対応は、ただ話者を信じるか否かに左右されるばかりである。

しかしこの話の主人公は、そこに別の側面からアプローチをかける。それは近現代の科学が用いる手法。課題に対して仮説を設定し、それを検証することで結論にいたる一連のプロセス。それをしてみせるリカルドという人物は、なるほど転生者であるわけで。

この、予言に科学的なアプローチでの検証を試みるという組み合わせ。これだけでもうわくわくさせてくれますよね。予見されたという災害に対してだれもが無関心にふるまうなか、ただひとり可能性を検討し、思いがけない援助も得ながら調査を進め、その末にこれしかないというもっとも起こりうる可能性の高い事態についての結論を導きだす。謎解きのような面白さですよ。結論が出た瞬間というのは、それだけでひとつのクライマックスであったことでしょう。

とはいえ、その結論はあくまで予言の話者を一から十まで信用するという前提に立つものであり、それへの対応にかかるコストを考えれば、主人公としても完全に無視することはできないまでも消極的な対応で済ませることも可能ではあったでしょう(まあさすがに予想される被害規模的にそれは言いすぎかもしれませんが、それはともかく)。それを、この陰険なまでに爪を隠し隠してきた猛禽にそれを明かさしめてみせたのは、その予言の話者であるところのヒロイン・アルフィーナの存在であったというのもまたポイントであって。

このアルフィーナというヒロイン、身分としては王族であるものの、反逆者の血を引くことから腫れ物に触れるような扱いをされる厄介者でもあり、そしてそれが理由で王族にしては政治的な感覚にうとい箱入りの王女さまであり。平民であるリカルドがアルフィーナとの交流を持つにいたったのもその感覚の欠如ゆえともいえるでしょうか。言ってしまえば、善くも悪くも純粋な性格なんですよね。いさかいを目にすれば心を痛めるし、打算をこめたやりとりにも心からの喜びを表すし。あまりにも裏表がないからこそ放っておけなくなるタイプというか。

リカルドが彼女の予言と真正面から向き合っていくことになったのも、その純粋さがもとだったでしょうか。院生経験のある転生者として、根拠のない予言を真剣に取り合う理由はない。けれど、いくつかの経緯があったとはいえ、これほどに根のいい少女が困り果てているのを見て、まっすぐな気持ちで頼られてしまって、断ることができようかというもの。災厄のもたらされるという地がどうも主人公と無関係ではなさそうだというのが大きかったように見せかけてますけど、これ絶対違いますよね。箱入りゆえの無防備さで頼られて、勘違いせんばかりの距離感でまっすぐな好感を示されて、よからぬ感情がちらとでも首をもたげなかったとは、とてもとても言えませんよねえ……。これはミーアの目も三角になろうというもの。ええ。たいへんいいものでした。

そんな感じの、予言を予測に変えて対策を練る物語、とてもおもしろかったです。2巻も来年4月に刊行予定ということで、楽しみにしたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:11| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月02日

微熱空間(1)

微熱空間 1 (楽園コミックス)
微熱空間 1 (楽園コミックス)

微熱空間 1|白泉社

親の再婚によって義理の姉弟になったふたりが家族になっていく話……だろうか? 帯の文句を見てると恋愛方面への含みを残してそうな印象も受けるけれどそれはさておき。

高校生の男女がいきなりいっしょに暮らすことになって(もちろん親はいる)、姉弟として仲良くやっていくことを期待されても、それまで存在しなかった他人が生活空間の中に紛れこんでくる居心地の悪さは避けがたく、また適切な距離感をつかみかねてぎこちないやりとりをくりかえしてしまいがちにもなってしまう。ふたりともに女の子と男の子のひとりっ子であっただけに、なおさら突然できた同い年のきょうだい(それも異性)との生活にどう折り合いをつけていけばいいのかにとまどいを抱かずにはいられない。

けれどそれでも、生活上の必要性だったりちょっとしたできごとをきっかけにして、家族としてのあり方を少しずつ築きあげていっている様子がほほえましくあり。家族という関係性って一朝一夕にできあがるものじゃないですからね。まして高校生という年のころの男女。理解できないことにもやもやしたり、いろいろ耐えられない気持ちになることもある。それでも一歩進んで、一歩下がったら次には二歩進むようにして、他人同士が同じ家で暮らしてる状態からひとつの家族へと、間に広がる溝を少しずつ埋めていく日々の様子はとてもよいものであり。

まあもともと互いに姉弟ができると聞いてよく似たイメージを思い描いてがっかりさせられるという体験を第一にした者同士、通じあえる部分はあったと思うのですよね。

姉弟になっていく関係性というのは、姉弟であることが当たり前の関係性とはまた違って、姉弟らしさとはなにかというのを意識させてくれるのがいいですよね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:00| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月29日

金色のマビノギオン アーサー王の妹姫(1)

金色のマビノギオン ─アーサー王の妹姫─ 1 (花とゆめCOMICSスペシャル)
金色のマビノギオン ─アーサー王の妹姫─ 1 (花とゆめCOMICSスペシャル)

金色のマビノギオン ─アーサー王の妹姫─ 1|白泉社

キャラといい話の雰囲気といい、読んでてめっちゃワクワクしてくる。すごくいい感じ。

ざっくりとした内容としては、現代の高校生である、たまき・真・広則の三人が、修学旅行先のイギリスから魔術によってアーサー王伝説の世界へと呼び出されることになる話。

まずもってキャラがいい。アーサー王伝説に現代の高校生たちか巻きこまれることになる話だけど、この三人組のキャラがとてもしっかりしてるんですよね。ウーサリアンの真、武道の心得のある男子一点の広則、アーサー王子と瓜二つのたまき。流血沙汰のある世界にも呑みこまれることなく、かといって主張しすぎて伝説そのものの雰囲気を壊してしまうこともなく、絶妙なバランスのうえでしっかりと印象に残るキャラを見せてくれる。それは伝承の登場人物たちが彼女たちを重要人物として遇しているというのが大きいのだけど、彼女たちとしても元いた場所とは違う世界におびえとまどうばかりではなく積極的に交流を深めていき、別世界の人であるからといって壁を隔てるようなことのない関係を築いていることにもよるのであり。

時系列的にはまだアーサーによる王位継承前ということもあり、血なまぐさい陰謀の雰囲気は当然底流に流れてはいる。けれど、いまのところはまだ安全地帯ともいえるアヴァロンにいることもあってか、三人組は伝承の中の世界で驚くほどに現代人らしさを保っているんですよ。真はアーサー王伝説の世界に興奮してツッコミをもらい、広則は湖の乙女に心惹かれたり、たまきは子どもっぽいまでの無邪気さを発揮して周囲を和ませたり。驚くほどに現代世界にいたときと変わらないキャラクター。幼なじみらしく、いろいろな体験を共有してるからこその掛け合いもそのままに、行動力あふれる真と広則が悪いやつらからたまきを守るという関係性は不穏な情勢のこの世界ではよりいっそう強化されている感もある。こういうの、いいてすよね。現代人としての背景とアーサー王伝説の背景とが、食い合うことなく混ざりあってこの作品らしさを出してるというか。

そしてそうであるからには、伝承の側の人物たちもしっかりと存在感を発揮しているのであり。筆頭はやはりマーリンでしょうか。現アーサー王子陣営の参謀格といった感じだけど、どうにも食えないところのあるキャラであり。妖しげな魔術を使い、皮肉げな表情で場を主導する。異界らしさ代表といえばこの人。冗談を言わせれば愉快なキャラではあるけれど、その一方で口にする言葉を信用しきっていいのか不安を抱かせる人物でもある。真が持つ伝承知識の優位を相対化させたのもこのキャラであり。底の知れなさは頼もしさと油断ならなさの紙一重といった趣。

また、ガウェインもアーサー王子とのつなかりの深さからたまきとの交流が進んでいく様子がほほえましくもあり。

まだ物語が本格的に動きだすのはこれからといった感じでもありますが、この段階でとてもいい感じなだけに期待は高まります。アーサー王伝説についてはあちらこちらの作品でつまみ食いした程度のあやふやな知識しかないので、まっさらな気持ちで次の巻も読んでみたいところ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:26| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月25日

なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 異世界で、王太子妃はじめました。(1)

なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 異世界で、王太子妃はじめました。1 (B's-LOG COMICS)
なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 異世界で、王太子妃はじめました。1 (B's-LOG COMICS)

BOOKWALKER→https://bookwalker.jp/ded7686cfc-2f87-4266-8b0e-61bd0163dd26/


原作書籍のこの部分は既読。そちらの挿絵担当の方がこのマンガを描いてることもあって絵柄への違和感はなし。

あらためてこのシリーズ最初の部分に接してみると、元の世界での主人公もいいキャラだったよなあと思わされますね。料理の腕を活かして仕事に生き、仕事を楽しみ、身内のいない孤独な身ではあるけれど仕事を通して居場所を築き、忙しさに大変そうではあるものの充実感を感じさせる。小説のほうを読んでたときも思ったけど、死んでしまう直前のひと言に本当に実感がこもってるんですよね。少ないページ数でもそれはしっかり伝わってきて。いいですよね。こういう人生。……まあ、そんな彼女が、異世界でいかにもなかわいらしい幼王太子妃になることになるんだけど。

この転生先の(というより憑依みたいなものなんですけど)王太子妃、小説版だと媒体の制約的に言動の描写が中心になるんですけど、マンガだと必然的にビジュアル付きで話が進んでいくものだから、あの場面もこの場面もしっかりイラスト化されて、ただ登場して動き回ってるだけでかわいらしさを感じさせてくれるからコミカライズありがとうございますとも言いたくなってくるところ。特に異世界に行った直後は、それまでとそこからのギャップでとてもかわいく感じられること。

お話の描き方としては、どうしても小説のほうが紙幅をとって描写できる分、丁寧さでは違いが出てくるかというところはありますが、その分ビジュアル付きで舞台やキャラの解説をすることができるので、そうした面ではわかりやすさもあり。そしてなによりアルティリエさんのかわいらしさ要素ましましな描写がとてもいい。

2巻ももう出てましたっけ。このペースだとそちらで小説書籍の1巻目は終わりそうな(うろ覚えな記憶で書いてるのでテキトー)。またそちらも楽しみにしたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:50| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

小説 魔法使いの嫁 金糸篇

小説 魔法使いの嫁 金糸篇 (マッグガーデンノベルズ)
小説 魔法使いの嫁 金糸篇 (マッグガーデンノベルズ)

原作自体は未読なんですが、「真理の織り手」シリーズの佐藤さくらさんが参加されてるという情報を目にして購入。

実際に読んでみた感じ、原作知識はなくても問題なく楽しめました。そして、一番おもしろかったのは、なんといっても佐藤さくらさんの「守護者とトネリコ」。

この作者さんの書く物語はとてもやさしさにあふれてるんですよね。情けないところもある、傷つけられたりもする。けれど、それでも一生懸命になれるキャラクターだからこそ、助けの手が伸ばされる。必死なほどの思いは見捨てられずに届けられる。これがとれほど有り難いことであるか。

この話におけるアシュレイも、妹に対して複雑な感情を抱える少女ではありました。家族に疎まれながらもいっしょに魔法の勉強をした無二の仲間であり、けれど自分を置いてひとりだけ正式な魔法使いの弟子に収まった相手であり。幼いころからの絆と嫉妬心から、ある日アシュレイは取り返しのつかない過ちを犯してしまう。それでも、だからこそ償いを果たさずにはいられないし、妹にしてしまったことを思えば自分の命と引き換えにしても必ずやり遂げなければならないと悲壮な決意を固めることにもなる。

そんなところに、お節介者が現れる。出会いは間の悪いもので、それだから忘れてしまおうとするんだけど、身の丈に合わない無茶をしようとしているアシュレイのことがどうにも気になってしまい、口ではあれこれ言いながらも手助けせずにはいられなくなっていく。この絶妙なキャラクター配置がとてもいいんですよね。

そして最後のアシュレイの決意。これもそれまでの経緯を経てくることでとても心に響いてくるものがあって。もう少しだけでもいいからこのキャラクターのその後も見てみたいなあと思わされたり。

でも、このキャラ、検索してもヒットしてこないんてすよね。本編に出てきてるキャラの前日譚かと思ってたんてすけど、もしかしてこの話だけのオリジナルなキャラクターだったとか……?

その他、三田誠さんの「吸血鬼の恋人」のふたりはいい雰囲気でしたし、桜井光さんの「虹の掛かる日、ごちそうの日」は妖精の見えない女主人と家事妖精との、それでも長い年月を通した絆が感じられるのがいいものだったり。いろんなキャラクターがいてそれぞれの物語がつむがれていく感じがよかったです。 それを許容できるだけの世界観の奥行きがあるということでしょうか。

ともかくも、原作未読でも十分に楽しめる、魔法使いや魔の世界の者たちによる小話集。いい雰囲気の一冊でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:24| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月15日

The Girl with the Dragon Heart

The Girl With the Dragon Heart
The Girl With the Dragon Heart
(画像はUS版の表紙っぽくて、自分の購入したUK版のイラスト調の表紙とは違ってやや違和感がありますが)

The Girl with the Dragon Heart - Stephanie Burgis(作者サイト)

前作『The Dragon with a Chocolate Heart』感想


魔法で人間の姿に変えられてしまったドラゴンの女の子アベンチュリンがチョコレート作りにその情熱を見いだす話であった『The Dragon with a Chocolate Heart』の続編にあたる話。今回は主役が入れ替わって、前作でアベンチュリンが出会った少女シルケが主人公をつとめることに。

今回の話の内容としては、ふたりが住む都市の宮廷に突然妖精の国の女王一家が訪れてくることになって、国の実権を握る世継ぎの王女からその目的を探ることを任されたシルケが奮闘する話。または、かつての戦災難民としてのシルケの家族の物語。

今回も、終盤のシルケの活躍ぶりは見せてくれるものがありました。どんどん事態が悪化していって、死人が出るレペルの争いにまでなろうかというところから、持ち前の知恵と語りの才覚によって危機を乗りきってみせる。すっかり親友のアベンチュリンや、王女さまたちによる支えもあったとはいえ、強力な魔法の力を持つ妖精の女王夫妻に身一つで対峙し、口先ひとつで引き下がらせる。これこそ語りの力の極致でしょう。なにせ途中までは、これはもう武力行使不可避ではとまで思えるぐらいに事態がこじれにこじれてましたから。今回のシルケの見せ場はまさに魔法のようだったというか。そういえば、前作でもいちばんの見どころと感じたのはそうした場面なのでした。

前作では主役としてパワフルな行動力を見せてくれたアベンチュリンは、今回はやや存在感うすし。考えるよりも先に動きまわるタイプのキャラが物語をひっぱる役どころからはずれるとこうなってしまうのかなとも思いますが、それでもシルケから見たアベンチュリンの姿というのは、彼女自身の視点から見た姿とはまた違った印象を与えてくれて新鮮でした。具体的には、とても頼もしい親友としての感があったというか。行動力に偏りがちでそのせいで失敗もしてしまうアベンチュリンの性格は、その一方で内面にぶれない明確な芯を有しているのであって、事態の解決への道筋をつけてくれるわけではないのだけど、自分を見失ってしまいそうになったときに現れてくれるとこんなにどっしりとして頼もしさを感じさせてくれるキャラもいないもので。前作における印象とのギャップは大きいですが、これもまた情熱のドラゴン、アベンチュリンだなあと思わせてくれる姿ではありました。

ただ……というところなんですけど、今回は前作に比べてやや評価しにくいんですよね。終盤はよかったんですけど、そこにいたるまでが……。悪化した事態を見事に納めてみせたシルケはすごかったけど、その一方で事態を悪化させた元凶もほとんど全部シルケなので。自分が出した火を自分で消しただけというか。最後になんとかなったからよかったものの、なんとかならなかったらと思うとおそろしくなってくるものがある。

まあ、結局なんとかなったのだし、ふたたびあたたかな家族を得たシルケの幸せそうな様子は心あたたまるものではありました、というところで?
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:04| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする