2018年06月20日

革命前夜

革命前夜 (文春文庫)
革命前夜 (文春文庫)

共産圏を中心に世界中の才能ある若者が集まる東ドイツの音楽大学に留学する夢が叶ったピアニストの主人公。ところがそこで待っていたのは、音楽家の技量としても覚悟としても主人公よりはるかに勝る俊英たちとの出会いで……。透き通るように澄んだ音、圧倒的な叙情感、主人公が望みつつも得られずに苦悩する音楽性をこれでもかと豊かに見せつけてくるライバルたちの演奏の様子。才能の違いを感じさせられながらも本のページ越しに肌にびりびりと響くような音の迫力ある描写が素晴らしかったですね。プロを目指す世界ならではの、上にはどこまでも上がいるのを痛感させられる感じ。けれど、劣等感にさいなまれているばかりでは留学してきた意味がなくなってしまうからと、負けてばかりではいられないと、天才たちに必死に食らいつくようにがむしゃらにピアノを弾く主人公の打ち込みぶりは、遠い東ドイツの地に留学まで果たしたピアニストの執念を感じさせる青春の一ページとして、さわやかな印象を抱かせてくれるものがありました。

ただ、後半になるにつれて、若きピアニストが主人公の音楽小説というよりも、東ドイツが舞台の政治情勢を描いた小説という感じになっていってしまって。それまで東ドイツという舞台性は背景程度に音楽小説として楽しんでいた自分としては、楽しむための身構えができないでいるうちに置いていかれた感じになってしまったところがあるというか。あとから帯を見ても、たぶんこの話の売りはベルリンの壁崩壊直前の東ドイツにおける政治的な機微のほうだったのかなと。あまり予断を入れないようにと手に取ってぱっとすぐに読みだした感じでしたが、ややもったいないことをしたかなという気もしたり。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 16:04| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月18日

透明な薄い水色に

透明な薄い水色に (百合姫コミックス)
透明な薄い水色に (百合姫コミックス)

やった、百合だー!

……いや、百合姫コミックなのになにを言ってるのという感じなんだけど、話的にはふつうに男の子も出てくるタイプのものなんですよね。さらにいうと、ふつうに男の子と付き合ってたり、男の子との関係が深まっていったりと、一見すると女の子同士のカップルが成立するみこみなんてなさそうで、それほど百合ものを読みなれてるわけではない自分としては、これは百合なのどうなのとある意味はらはらしながら読み進めざるをえない流れだったわけで。だからこそ、終盤の百合エンドな展開に喜びの声をあげてしまうものがあるのでして。なかなか意外な展開でしたが、こういうのもいいものですね……。

とかなんとかいう書き出しではじめてみましたが、この本に収録されている話は大きくわけて二つ。

ひとつめは、幼なじみの女の子に好意を抱く女の子が、けれど相手は別の幼なじみの男の子と恋人関係になってしまったために、言い出せず抑えきることもできない恋心を苦しく思う感じの話。

ふたつめは、アルバイト先の先輩の女の子に好意を抱く女の子が、けれどその先輩に想いは告げられず、それを知られてしまった後輩で満たされない心の隙間を埋めようとする話。

ストレートに女の子同士が好き合ってくっついて……という話ではない以上、紆余曲折あったりするんですけど、だからこそ女の子の泣き顔がとてもいいんですよね。言い出せない想いに悩んで、報われない想いに苦しんで。そんな抑えられない感情が涙となってあふれ出た瞬間を描いた表情。前段としてのもどかしい想いをしっかり描いてくれているから、胸をしめつけられるほどの気持ちがこれでもかと伝わってくるものがあって。特に、律からの否応もない「告白」を受けた一花と、失意の感情を傷のなめあい的な関係になってしまった中条にぶつける茜と。悲しさを激情でむりやり上書きするかのように怒りに染めあげられた表情が息を呑むほどに綺麗で、射すくめられるほどにまっすぐな心情として伝わってくることといったら。百合作品の登場人物に望む表情といえば、第一には作者もあとがきで書いているような「恋人に向けた笑顔」のはずなんですけど、この本の場合はもっと泣いてる顔を見せてほしいなんて、なんだかひどい人のようなことも思ってしまったり。それくらい、表情豊かでイキイキとした泣き顔を描いてくれてるんですよね。そして、だからこそハッピーエンドの感慨もひとしおだったり。

言い出せない想いをゆがんだ形で表現する不器用さがあったり、けれどその気持ちがあふれ出すとはっとさせられるぐらいにまっすぐだったり。こういうの大好物ですということで。とてもいい一冊でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:57| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月25日

2018年1〜4月の読書まとめ

1月は11冊。2月は9冊。3月が11冊で、4月が4冊。

久しぶりの読書まとめです。ちょっと感想がたまりすぎてたんで、一冊分の感想を書くより時間のかかるまとめを書くのは、読書メーターの貼り付けができる時期に書ける場合にかぎると条件をつけてみたところ、ある程度のところまで追いつくのに4か月もかかってしまったという次第。その間の読書量が伸び悩んでいるのはどうにかせんといかんところですが、去年の暮れぐらいから、小説を読むペースをやや落としてマンガやその他の本を読む時間を増やすようにした記憶があるので、たぶんその影響だと思われます。ほかの変化としましては、小説を読む順番を買った順からダイスふって決める形式に変えましたというどうでもいい情報もあったり。あと、4月だけなんだか読了数がやけに鈍ってますが、750ページもある角川の某選書を読むのに半月くらいかかった影響かと。あれはあれで面白かったんですけどね。

それと、3月下旬くらいからですが、それまで小説の読了分としてカウントしてた本の一部をカウント除外することにしました。ジャンルの区分としてはエロです。男性向けの。以前はたまに読んではまれに感想をあげてたりもしましたが、今後はおそらく、こちらに感想をあげることはなくなるかと。この辺はひとえに感覚の変化というか、女性向けの作品の感想もあげてる場所で、あからさまなエロ感想はあまりふさわしくないなと思えるようになってきたところがありまして。それまでも、個人的な脳内基準でアウトにならない文章にするべく、適宜修正を施したうえでアップしてはいたんですが、今年になってから、とうとう修正しきれない感想ができあがってしまいまして。それならそれでひっそりと供養するのもひとつの手ではあったんですが、困ったことにその本はあまりにも他人に勧めたくなるようなすごい一冊だったもので(エロだけど)。悩んだ末に、別ブログを作ってそちらにあげることにしました(探さないでください)。で、そちらはそちらでその本の感想だけあげるのもなんなので、男性向けのエロ作品の感想は今後全部、そちらにあげることにしようと考えた次第。そちらもいちおうそれなりの頻度で更新できたらと考えた結果、エロ作品の読書ペースが大幅に上がってたりして、こんなはずでは……という気にもなってるんですけど。


そんなこんなで、1月から4月に読んだ中からのお気に入りの本はこちら。

[☆☆☆☆☆]アリスマ王の愛した魔物  感想
アリスマ王の愛した魔物 (ハヤカワ文庫JA)
国内SFより。どこまで真実かわからない、けれどそんな与太者めいた語り口が真に迫って聞こえてくる、人を人とも思わぬ王の覇道の昔語りがすさまじい表題作を含む、傑作短編集。一つひとつの作品はどれをとっても満足度が高く、とてもいい読後感の一冊。

[☆☆☆☆☆]めがはーと  感想
めがはーと (ビッグコミックススペシャル)
マンガより。今年になってから読んだ中で最高の百合マンガはこれ。いえまあ百合なのはラストの一話だけなんですけど。それはともかく、ひとめ惚れした主人公の視点から見る憧れの人はとてもとてもかわいい。そして、呪いとして残された絆が唯一の縁となる。この関係性が素晴らしい。そのほかにもかわいいキャラが出てくる短編がいくつもある、とてもいい一冊。

[☆☆☆☆]弱キャラ友崎くん(1)  感想
弱キャラ友崎くん Lv.1 (ガガガ文庫)
ライトノベルより。経験値を積みながらより高いハードルを目指していく、ゲーマーによるゲーマーのための学生生活攻略ストーリー。やればできると思わせてくれる描写がうまく、そしてそのメソッドのたどり着く先、師匠であるところのヒロインがとてもかっこいい。この後の展開を期待させてくれるシリーズ第1巻。

[☆☆☆☆]エルフ皇帝の後継者(上)(下)  感想
エルフ皇帝の後継者〈上〉 (創元推理文庫) エルフ皇帝の後継者〈下〉 (創元推理文庫)
海外ファンタジーより。不遇な育ちのせいで自己評価が低い皇子が、心の底から頼れる友人なんて一人もいない宮廷で、降って湧いたような新皇帝の座につくことになる話。皇帝としてのふるまいなんて学んでないからうまくいかなくて、おちこんで、なんとかうまくいきそうになることもあって、かと思いきやてんでダメで、おちこんで、なんとかもち直して、またおちこんで、そうしていながらもまじめな取り組みが徐々に経験となって身についていく、未来への確かな予感を感じさせる。とてもいい感じの読み味と明るい読後感を抱かせてくれる作品。

[☆☆☆☆]魔導の矜持  感想
魔導の矜持 (創元推理文庫)
国内ファンタジーより。まわりの誰にも理解されず、有用性も見いだせない感覚をもって生まれてしまうこと。どれだけ異質だ無価値だと言われようと、その人にとってはまぎれもない「普通」の感覚を、大事にしていっていいんだと思わせてくれること。シリーズ第三作も、弱い者によりそう暖かな物語が胸を打つ一冊でした。

[☆☆☆☆]動物になって生きてみた  感想
動物になって生きてみた
非小説より。人間の感覚に置き換えることなく、動物そのものの持つ視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚を通して感じとれる世界の視点を再現しようと試みるネイチャーライティングの本。人間のものとは異なる、けれどなんとなく理解できなくもない世界の情景が浮かび上がってくるのが面白い一冊。


以上。今月もペースがあんまり伸びてないんでもうすこし頑張りたいんですが、どうなるか。ともあれそんなところで。

読書メーター貼り付けは4月分のみ。

4月の読書メーター
読んだ本の数:4
読んだページ数:1355
ナイス数:3

狼と香辛料〈9〉対立の町(下) (電撃文庫)狼と香辛料〈9〉対立の町(下) (電撃文庫)
読了日:04月02日 著者:支倉 凍砂
榮国物語 春華とりかえ抄 (富士見L文庫)榮国物語 春華とりかえ抄 (富士見L文庫)
読了日:04月04日 著者:一石月下
弱キャラ友崎くん Lv.1 (ガガガ文庫)弱キャラ友崎くん Lv.1 (ガガガ文庫)
読了日:04月06日 著者:屋久 ユウキ
(P[む]1-16)はるかな空の東 (ポプラ文庫ピュアフル)(P[む]1-16)はるかな空の東 (ポプラ文庫ピュアフル)
読了日:04月25日 著者:村山 早紀

読書メーター
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:08| Comment(0) | 読書まとめ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

悪舌のモルフォ(1)

悪舌のモルフォ(1) (シリウスKC)
悪舌のモルフォ(1) (シリウスKC)

『悪舌のモルフォ(1)』(青辺 マヒト)|講談社コミックプラス

美少年の下僕になってひたすら罵倒されながら興の向くままにあれこれつきあわされる話。いいよね。美少年。かわいくて。何言われても許せちゃう感じ。それを理解したうえで上から目線で罵倒してくる感じ。けど、そんな美少年になんだかんだ振り回されつつも離れられない元美少年作家の主人公もいいもので。書けなくなった作家の末路で自己評価が落ちこむところまで落ちこみきってるものだから、ストレートな美少年ご主人様のなにげないひと言に救われてる表情がとてもグッドだったり。ええ、ええ。つまり、自己評価の低いうじうじ系主人公と、そんな彼を戯れであれこれ振り回してくれる美少年ご主人様はいいものですということで。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 00:56| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月15日

弱キャラ友崎くん(1)

弱キャラ友崎くん Lv.1 (ガガガ文庫)
弱キャラ友崎くん Lv.1 (ガガガ文庫)

小学館::ガガガ文庫:既刊情報
弱キャラ友崎くん Lv.1 | 小学館

なにこれめちゃくちゃ面白いじゃん。

なにを隠そう、1巻発売時に試し読みで切った記憶がはっきりとあります。序章が、こう……スクールカーストものをよく出してたイメージのある一時期のガガガ文庫とか講談社BOXあたりの作品を思い起こさせるところがあったというか。ああいうのを苦手にしてた自分にとって、この序章はそれだけで回れ右させるのに十分なものがあったんですよね。けど、いつのまにかだんだんと人気が出てきて、気づけばガガガ文庫の次期主力級の人気になってるっぽいのを目にするにつけ、しだいに気になってくるものがありまして。そうしてものは試しにと読んでみた結果が冒頭の感想でございます。いやー、これは、自分の直感もまだまだだなと思わされるところ。こんな面白い作品を見切っていたとは。反省しきり。

というところで、今年になってから読んだ中で思い返してみるとわりとベスト級だったのではとも思える本作。内容としてはやっぱりスクールカーストものではありまして。ただ、そのジャンルの中ではやや変則的な印象を受けるというか、スクールカーストの存在は前提にしながらも、それをネタにして、それを土台にすえつつ、カースト底辺のゲーマーがまさにゲームのごとくそれを攻略していくことになる話。平たくいってしまえば、スクールカーストものにビジネス書的なノウハウ論をくわえた学生生活攻略指南小説とでもなるでしょうか。

これがくりかえしますけどめちゃくちゃ面白かったんですよね。リアルでスクールカースト底辺の陰気なキャラになるにはそれなりの理由があって、どこがダメで、それをどう直していくべきかが具体的に描かれてて、ちょっとした失敗を重ねながらも、すこしずつ成果があがっていき、底辺のままでは縁のなかっただろうクラスメイトたちとの思いがけない交流が生まれるようになっていく。振り返ってみればわりととんとん拍子ではあるんですけど、そこがまたよくって、読んでる人に成功にいたる明るいビジョンを示してくれるのがうまいんですよね。やればできるんだと思わせてくれるというか。

でも、読んでる最中にはとんとん拍子でうまくいってるとは思わせなくて。それどころか、失敗しながらでも挑戦すればするほど効果が出る感じというか、まさに経験値を積んでレベルを上げていく感じがとても楽しいんですよね。これがゲーマーから見た人生の進め方なのかと、また別の種族である本読みとしては目からうろこが落ちるような世界観の提示に目を見張らされるものがあって。最初はちょっとした用事を作って声をかけるにもうじうじ考えてしりごみしそうになりながらやっとのことだったのが、そのうち身構えることなく会話ができるようになっていき、後半には二人きりでのイベントなんかが生じる相手もできてくる。やった分だけ着実に成果が出てるのが目に見えてわかるこの感じ、ダイレクトに手ごたえのつかめる挑戦をしている感じがとても楽しいんですよね。

しかも、階層上昇のお供にはとびきりの美少女つきとくるんですよ。(ライトノベルの体裁としては)最高ですよね。まあお供というか、師匠というか、コーチというか、そんな感じですけど。ともあれ、本来はスクールカースト底辺であるはずの主人公がそんな挑戦できわめて効率的に成果をあげられている理由としては、同じメソッドの先達として役割づけられている彼女の指導とフォローの存在が大きくて。メンターなしでまねするのはやや危険がつきまとうのではという気もするのですが、それはさておき、カーストのトップ層に位置する彼女のバックアップがあるからこそ、同じく上層に位置する人たち(かわいい子もたくさんいる(ここ大事))とも風当たりなくお近づきになれるし、挑戦して失敗してもトラウマ級の傷を抱えることなく円く収めてくれるしで、めちゃくちゃ頼りになること。

そしてなにより、メンターであるところのその日南さん、とてもかっこいいんですよね。勉強も運動もできる完璧な美少女として認識されていても、普段の言動はクール系とまではいかずに愛嬌のある美少女で、どちらかというとかわいいという形容詞が似合いそうなキャラであって。でも、ちょっとした経緯で師弟関係っぽくなった主人公にだけ見せる同じ「ゲーマー」としての彼女の姿は、尊敬の念すら覚えるほどのトッププレイヤーぶりであって。これはもう本当に仰ぎ見たくなるレベルであって。だからこそ、主人公が目標に据えるのにもわかるものがあるというか。ラストのふたりのやりとりは、なんというかもう、主人公ならずとも高揚感に襲われるものがありますよね。1巻でここなら、2巻では、さらにその先では……と、期待させてくれるシリーズですね。次の巻を読むのも楽しみです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:51| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

とりかえ・ばや(4)

とりかえ・ばや(4) (フラワーコミックスα)
とりかえ・ばや(4) (フラワーコミックスα)

とりかえ・ばや 4 | さいとうちほ | 【試し読みあり】 – 小学館コミック
とりかえ・ばや 4 | 小学館

ちょっと石蕗さんすごすぎませんかね……。まだ確定ではないですけど、もし本当ならこれはもうおそるべしですよ。

ただ、そうして後戻りのきかない事態への発展においてはとんでもなさを見せつけてくれる石蕗さんだけど、手が早いという印象では特にないところがあって。本当に好きになった人としかそういう関係になってはいないように感じるんですよね。沙羅とのやりとりはどこまでも焦がれるような想いに満ちた愛情の発露ですし、四の姫とのやりとりを見てても気持ちが通じ合っているところは十分にうかがえる。喜怒哀楽の感情が激しいからこそ見ていておもしろい人ではあるし、他人の感情への共感力も高いからその場その場で見れば好ましい人物に思えてしまうこともあるのはわからなくないというか。けど問題は、その情熱の対象がひとりには限られないということですよね。あちらへの恋情も本物。こちらへの感情も本物というわけで。そして心を通わせることと体を重ねることがわりと境目なくつながっていくタイプなものだから、結果として沙羅があてこするような人物像ができあがるというもので。まあそうはいっても、ラストの展開はすごすぎですけど。

これいったいどうなっちゃうんでしょうね。ものすごく気になってきましたよ。めちゃくちゃ下世話な興味心ですけど。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:31| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月09日

アリスマ王の愛した魔物

アリスマ王の愛した魔物 (ハヤカワ文庫JA)
アリスマ王の愛した魔物 (ハヤカワ文庫JA)

アリスマ王の愛した魔物 | 種類,ハヤカワ文庫JA | ハヤカワ・オンライン

傑作。表題作「アリスマ王の愛した魔物」は東京創元社から出ている年刊SF傑作選にて既読の作品で、いまあらためて読んでもやっぱりとんでもない。そのほかの話は、「アリスマ王〜」に比べればSF色が強めの話が多いけれど、人と人、人と物、物と物が心を通わせあう交流を描いた話がやさしくも心に訴えかけてくるものばかりで。ベテラン作家の確かな手腕を感じさせてくれる一冊でした。

以下、各話感想。


「ろーどそうるず」

バイクの統合制御ユニットと、そこから送られてくるリポートを受信する担当ユニットとのやりとりという、人が登場せず物と物の話をいちばん最初に持ってくるこの飛ばしよう、嫌いじゃないです。人ではないにもかかわらず人間らしい思考をする彼らがどこかおかしく、けれど読み進めていくうちにだんだんと感情移入させられて、統合制御ユニットに待ち受ける苦難についつい読み入らされてしまう。うまいですよね。ラストが希望を持たせてくれる終わりかたで、これひとつでもある程度の満足感を得られてしまうくらいで。短編小説のよさですね。


「ゴールデンブレッド」

「タタミ・マット」なんていう、サイバーパンクな世界をイメージしてしまいそうな出だしからはじまって、けれど話としては、農村っぽい和風異星界に不時着した欧米風主人公が、その星から旅立っていこうとして果たせないでいるうちにそこの人たちと交流を深めていくという、人と人との文化の話。というか、これは姉さん女房との馴れ初め話ですかね。けんかっぽいやりとりをくりかえしながらも、なんだかんだでお互いのことを受け入れていく。ええ話やね……(しみじみ)。知識はともかく食の好みはそうそう短期間では変わらないだろうから、苦労しそうだけど。


「アリスマ王の愛した魔物」

森羅万象ありとあらゆる数を数えあげる性癖を有した小国の末王子が、戦乱の中から途方もない犠牲の上に覇業を築きあげる、ひとりの人の話。あるいは、異常な執着を持つ人と、その望みを叶える術を知る魔物の話。人を人と思わぬ人の話。くりかえしになりますが、傑作。幼いころから物事の数を数えることに取り憑かれてきた王子が、その数字を駆使し、数字と数字を組み合わせ、数字と数字を掛け合わせることで頭角を現していく物語。ファンタジー風の外見のなか、骨子にあるのは数学で、物語世界中では異常な領域にまで到達した数学力によって、ありとあらゆる可能性の中からあり得べからざる結果を引き出していく覇業ぶりができすぎなくらいに爽快で。けれどその過程において多大な犠牲ももたらされるんだけど、そんなことには無頓着に、ただただ数字を数えあげ、数字から数字を導き出し、数字をもとに覇道を突き進むことしか眼中にない王子(とその従者)がめちゃくちゃクールに狂ってて。敵も味方も情け容赦なく死屍累々にして、その上に築かれる国家の盛衰はすさまじく、凄絶の一語に尽きる。読んでてにやにやと気持ちの悪い笑みが収まらなかったことといったら。己の欲求に従い楽しみを追うがまま地獄のような覇業を成し遂げる王子、決定的な知識をもたらして王子をそそのかした魔物のような従者の物語、最高に面白かったです。読後呆然とした虚脱感に襲われてしまうようなすさまじい話。けれどきわめつけは、これだけとんでもない話を描いておきながら、ページ数としてはこの本のうちの40ページくらいの分量でしかないということで。こんな話を読まされたら、短編小説というものに魅了されずにはおられませんわ。文章の語り口としては、語り手が聞き手に昔ばなしとして語って聞かせるという体であって。ところどころに下卑た冗談が混じったりして、そのせいで話自体も猥雑とした印象になってしまうんだけど、そうであるからこそ荒唐無稽なまでのアリスマ王の覇業のすさまじさがいやまして感じられるところがあって。もうなにからなにまで、とんでもない一作でした。


「星のみなとのオペレーター」

小惑星の宇宙港で管制官を務める人と、彼女になついた謎の生き物と、ときどき彼女の気になる人の話。主人公の女性が彼らと交流を深め、お近づきになったりなられたりする話。読みながら「ウニと和解せよ」なんてフレーズが思い浮かんだり……というのはともかく、居住圏の拡大を求める地球外生命体とのコンタクトがあったりして、読みかけの同作者の別作品を思い浮かべたりもしましたが、こちらはどこまでもほのぼのとした雰囲気の話で。いくつかの話が最後の展開につながっていくつくりでありながら、それでいてこれも100ページなくすらすら読めてしまうというのが、やはり短編小説のおもしろさであり。


「リグ・ライト――機械が愛する権利について」

亡くなった祖父の遺産として自動車を相続した女性と、その車に必須の付属物として付随してきた女性型AIの話。あるいはタイトルにあるとおりの話。収録話中では最長で、100ページをわずかに超える長さ。とはいえこれもすらすらと読ませてくれるものがある話で。というか、主人公が同じ職場の女性と付き合ってる女の人という百合設定のおかげで、ふたりの関係と、そこにいわく主人公の好みのタイプな外見の女性型AIがくわわって、どんな関係模様になっていくんでしょうねとか、いろいろ気になってどんどんページをめくっていってしまうという、とてもわかりやすい百合好き読者の図と化していたという。とはいえ、話としてはもっとSF寄りな部分に焦点が当たるもので。機械が心を持つということ、機械が誰かを愛するということについて、現実世界以上の技術水準ではありながらそれでもなお発展途上の子どものようなAIを通して、それがどんな感じのことなのか、雰囲気をうかがわせてくれる話でありまして。この辺、もう少し詳しく描いた話も読んでみたいかなーと思わせてくれるものがあり。地味に関係が進んでるシキミと朔夜のふたりのやりとりももっと見ていたい気分にさせられるものがありましたし、長編化もぜひどうでしょうか。


という感じで、「アリスマ王〜」がとにかくすごくて、この話ひとつのためだけにもオススメしたいくらいですが、ほかにもしっかりまとまっておもしろい話がいくつもある短編賞作品集なので、気になる人には全部ひっくるめてぜひぜひと勧めてみたいところです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:24| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月02日

境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神

境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 (MF文庫J)
境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 (MF文庫J)

境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 | 境域のアルスマグナ | 書籍 | MF文庫J オフィシャルウェブサイト
境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 - パルプピロシ/絵戸太郎(MF文庫J):電子書籍ストア - BOOK☆WALKER -

小さなころから懐いてくれてた妖魔の蛇が、契約主である主人公の命の危機に際して半人半蛇の姿を得て、主人公LOVEの暴走ぎみな妖魔妻として愛を叫びまくる話。ではなく、おじさまLOVEな養父一家の双子の問題児妹たちにからかわれふりまわされたり、かつての幼なじみと再会したりして、かわいい女の子たちに囲まれてどたばたとした交流を深めていく話。でもなく、亡き両親から受け継いだ力によって、情け容赦のない切った張ったの闘争社会に巻き込まれていく話。でもなく、その辺を全部まぜこぜにして勢いのままに読ませてくれる、近未来異能アクション。

最近あんまり読んでなかったタイプの話ですけど、異能バトルはやっぱりこういうゴテゴテとした設定がバンバン出てくるのがいいですね。ワクワクしてきます。たしか3巻まで出ているということで、次の巻を読むのも楽しみにしたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 18:43| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月27日

不器用愛の侯爵とあどけない若奥様

不器用愛の侯爵とあどけない若奥様(ガブリエラ文庫)
不器用愛の侯爵とあどけない若奥様(ガブリエラ文庫)

ガブリエラ文庫|不器用愛の侯爵とあどけない若奥様

父の死後、経済的に困窮したエリスのもとに、伯父の紹介によって社交嫌いで知られる侯爵オーガストが現れ、援助と引き換えに後継ぎをもうけるための結婚をすることになる話。

エリスがいじらしくてかわいかったですね。愛のない結婚だと頭ではわかっていても、オーガストのことを好きになってしまって。嫌われたくないからこそ、初めての夜の営みで恥ずかしいことを求められたり口にさせられたりしても応じずにはいられない。それどころか、好きになった人にそんなことを求められているのだと思うと、羞恥がよりいっそう体を敏感にさせて、オーガストにそんな姿をさらしているという感覚にさらなる快感の扉を開いていく。純真であどけないエリスであるからこそ、羞恥と快感にもだえる姿はたまらないものがあって、オーガストのほうではとある事情から彼女に必要以上に心を許さないようにしているのだけど、それでももっとエリスのことを可愛がりたくなる気持ちを抑えきれなくなってくるのもわかるというか。

それにからんで、その辺りのオーガストの事情に関しては、読者のほうにはなんとなく察せられるところがあるように描かれてはいるものの、エリスからしてみれば交換条件として結ばれた婚姻であるからこそ、オーガストから愛されてはいないんだと思ってしまって、そのことをしかたないと感じながらも同時にさびしさを抱え、それでも愛すべき妻としてふりむいてもらいたいと葛藤する心情がいじらしくもよいもので。報われてほしいと思ってしまうからこそ、最後にはすれ違いも解消されて、幸せな姿がみられたことに、満足のいく読後感でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 19:27| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月22日

社内恋愛禁止 〜あなたと秘密のランジェリー〜

社内恋愛禁止 ~あなたと秘密のランジェリー~ (蜜夢文庫)
社内恋愛禁止 ~あなたと秘密のランジェリー~ (蜜夢文庫)

蜜夢文庫編集部ブログ

表紙ではタイトルの後半部分のほうが明らかに大きく表示されてるんですけど、正式のタイトル表記を見てるとそっちはサブタイトルっぽくも思えたり。

それはともかく、ティーンズラブ作品です。下着メーカーに勤めるOLで、人には秘密でセクシーな下着をつけるのが趣味の主人公・愛花と、下着のデザイナーで彼女の会社の社長になったお相手・高瀬のお話です。

初対面からしてセクシーな下着を買おうとしていたところにそのデザイナーの男性と出会ってという、人には見せられないような一面を知られてしまったことによるもので、そんな地点からスタートすれば、いろいろさらけだして大胆な関係になるのも早かろうという感じのふたりの話。女性向けとしてはかなりえっち度高めというか、前半はとくに気持ちの交歓よりも行為を楽しむタイプのえっちが多く、このペースだとほかのTL作品の倍くらいそんな場面があるのかと思ったりもしましたが、中盤以降は恋のライバルとなるキャラの登場で気持ちのすれ違いからきずなの深まりが描かれていってと、恋愛面もしっかりしてて。えろとらぶの二側面をそれぞれの要素を打ち消すことなく描きわけつつ最終的にひとつにまとまる感じはいかにも、ではないですがTLらしさをつきつめたひとつの形のようで印象的だったり。

……というところなんですけど、感想としてはどうしてもえろかったというところになってしまうという。大胆な下着をつけて、好きな人のことを思っていたら、それだけで体が疼いてきてしまったり。そんな状態なものだから、彼女を見かけたお相手のほうもすっかりその気にさせられてしまって、会社にいるのに周りからみたら明らかに不自然なスケジュールの空白を作ってまで行為に突入して興じあったりとか、ちょっと女性向けにしてはえっちすぎませんかね。個人的には大歓迎ですが。

そして、前半のえっちな場面はそういうところもあるのに、最後のえっちはちゃんと気持ちが深まる幸福感を感じさせてくれる描写になってるからまたいいんですよね。波乱があったことで心情の整理がついて、自分にはこの人しかいない、この人だからどんなことでも許せるという、何物にも代えがたい安心感に包まれる感じがあるというか。

以上、えっち度高めで手堅いお話ということで、男性のTL作品入門としてもすすめられるのではないかと思ってみたり……いやどうなんでしょうね?
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:41| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする