2020年03月28日

The Wizards of Once

The Wizards of Once (The Wizards of Once (1)) - Cowell, Cressida
The Wizards of Once (The Wizards of Once (1)) - Cowell, Cressida

邦題『マジックウッズ戦記』シリーズの第一作。そちらも読みたいと思いながら書店で見かけられずにいるうちに原語のほうを読んでいたの図。(以下、特に邦訳版の訳語を確認せずに書いてるので、まちがいが多々あるかもしれません)。

魔法使いたちの頭領の息子でありながら魔法の使えない男の子ザールと、魔法を忌み嫌う戦士たちの女王の娘でありながら華奢で魔法に興味津々な女の子ウィッシュ。ふたりが出会うことからはじまるファンタジー。

ザールのとんでもない利かん気ぶりにはハラハラさせられたけれど、手の焼ける子ならではの抜け目のなさでピンチを乗り越えてみせる後半の展開は見事だった。まあそれで成長したかというと、そうでもなさそうなのがまたお目付け役に同情したくなるところではあるけれど。一方のウィッシュは、そんな悪ガキ的なザールに翻弄される役回りかと思いきや、こちらも一族の伝統破りの魔法好きに関しては護衛が頭を悩ますほどのマイペースぶりなのでどっちもどっちというか。

親の目から見ればどちらも悩ましい子どもではあるけれど、敵対する相手の世界に触れて感情豊かに動き回る様子は見ていてとても楽しいものがあるんですよね。一触即発な出会いを果たしたふたりが、なりゆきとはいえふたりそれぞれの活躍でピンチを乗り越える。それも、大人たちの知らないところで、自分たちだけの力で危機を乗りきってみせたという展開がおもしかったですね。

いちおうこの一冊で話に区切りはついているといえばついてるけど、シリーズ一作めということもありまだまだいろんな謎が残されてる状態。とても気になるシリーズですね。

特にウィッシュのほう。今回のできごとを通して成長した様子が最後の母王との対面で感じられて。母王から心配な子どもというだけでない、まるで油断のならない子どもとでもいうかのような表情を引き出した瞬間。あれは熱かったですね。ザールとウィッシュの出会いは、魔法使いと戦士というふたつのクランに、確実に変化をもたらしてますね。いまはまだすこし。でもこれがどこまで広がっていくか……。とても楽しみなシリーズになりそうです。


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2020年03月16日

レコンキスタの実像 中世後期カスティーリャ・グラナダ間における戦争と平和

何年も積んでたんですが、やっと読めました。
レコンキスタの実像: 中世後期カスティーリャ・グラナダ間における戦争と平和 - 黒田 祐我
レコンキスタの実像: 中世後期カスティーリャ・グラナダ間における戦争と平和 - 黒田 祐我

タイトルが実に簡潔にテーマを説明してくれてますね。中世後期のカスティーリャ・グラナダ間における戦争と平和をめぐる諸活動からレコンキスタの実像を描きだす一冊。たいへんに面白い本でした。

著者も述べているように、そもそもレコンキスタを扱いながら中世後期をメインにした日本語の文献自体が貴重なんですよね。学術誌まではあまり手が出せていないものの、書籍として一般に刊行されているものとしては中世盛期までの記述がメインなものが大半を占めるのが現状でして。というのも、中世後期におけるレコンキスタはどうしてもそれ以前までのダイナミックな展開に欠けるところが否めない。大国と化したカスティーリャ王国に対して、風前の灯火のような小国グラナダ王国が対峙するのみの情勢では、消化試合のように扱われたとしてもしかたのないところ。個人的にも、この時期はいまいち地味で魅力を感じられないなと思っていました。

しかし、本書はそんな中世後期におけるレコンキスタにも興味深い側面があったことを豊富な史料をもとに伝えてくれるたいへん面白い一冊でした。

1246年のハエン協定から1492年のグラナダ陥落までおおよそ250年にもわたる期間、その一見して停滞しているかのようなカスティーリャ・グラナダ間の関係をつぶさに見つめることで浮かび上がってくるものは、キリスト教国家とイスラーム国家が境を接する地域で織り成される、ときに両住民間の宗教的な相違をも超える協力と対立、まさに異教の接する前線地帯で生じる現実なのでして。それが妥協的な産物であれ、必要に応じて生み出されたものであれ、そうした社会のありようこそがレコンキスタの時代の面白さのひとつなのだと思うのですよね。
そしてそれを象徴するのが、本書のテーマのうちのひとつである、カスティーリャとグラナダそれぞれの王宮廷の意向にときに背きながらも最前線地帯で独自に構築される外交関係や相互の協力を前提とした社会慣習などの存在なんですよね。

戦争が起これば真っ先にその影響を被ることを免れない前線地帯においては、戦争を見据えた社会が構築されていかざるをえない。しかし両国間の国境は広大で、そのすべてをカバーしうるリソースはどちらにもない。となれば、不足する資源を確保しようとして略奪は頻繁に発生し、誘拐や殺人などといった暴力的な事件もたびたび起こり、前線地帯では危険と隣り合わせな日常が過ごされることになる。これがエスカレートしていけば、国家間の戦争にも発展していきかねない。

ただし、そうなるともっとも被害を受けるのは前線地帯に生きる人々自身になってしまうのであり。そうした暴力の応酬には一定程度のところで歯止めをかけてやらねばならない。そこで、互いに落としどころを探ったり、ときには独自に休戦協定を締結することさえあったというから驚きで。

キリスト教徒とムスリム、両者、互いに聖戦を行っている敵同士なわけですよ。そうした宗教の相違さえ超えて、前線地帯では協力関係が成立するという。しかも、それを為さしめたのは、宗教対立の時代にあって稀有な寛容の精神であったという学説も提起されているけれど、著者によればそうではなく。むしろそれは、過酷な現実が迫る必要に応じた妥協の精神であったというのであって。現実的というかプラグマティックというか、とにもかくにもこうした社会像はとても面白く映るのですよね。そうした社会像を、豊富な事例をもとに存分に堪能することができて、とても楽しい読書でした。

また、辺境の地グラナダに追いやられたムスリム勢力を、レコンキスタ初期にアストゥリアスの地に追いやられたキリスト教勢力と対比させる記述はなかなかに興味深かったですね。当時のアストゥリアス・後ウマイヤ間も、征服するのはコストにリターンが見合わないからと略奪遠征主体で済ませてよしとされてたんだったかと思いますが、本書のカスティーリャ・グラナダ間も同様のものだったのかなと思うとイメージしやすいものがあって。王国間休戦協定もその略奪的な経済関係の延長線上と言われると納得できるものありましたね。

ただそうなると、それじゃあカトリック両王による「グラナダ戦争」はどうして生じたのかという疑問が浮上してくるところであり。本書では終章にて西欧世界で醸成された反異教の空気感がカスティーリャ王宮廷にまで広まったことによる不寛容な対決姿勢によるものとしていましたが、この点に関してはまだ根拠があいまいでやや疑問が残るように感じました。

ともあれ、異宗教国家が接しあう前線地帯における現実的な戦争と平和の実像を描きだした論説として、たいへんに面白い一冊だったと思います。レコンキスタに興味がある方はぜひ……と言いたいところですが、さすがにレコンキスタの中でも一部のテーマに特化しすぎているかなという気もするので、まず概説的なスペイン史の本でレコンキスタの流れを押さえて、さらに詳しく知りたくなったところで読んでみるのがいいと思います。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:08| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月01日

私の従僕(1)

私の従僕 1 (アース・スターノベル) - トール, La-na
私の従僕 1 (アース・スターノベル) - トール, La-na

わがままお嬢様と気苦労絶えない従僕の主従関係、素晴らしい。めちゃくちゃ好きなやつだこれ。

好奇心旺盛で、自分のやりたいことをしないと気がすまない気性のお嬢様。大貴族である父親に溺愛されているがゆえに突っぱねれば泣かせてとがめられ、かといってさせたいようにさせていてもなにか粗相があれば罰を下される。とんでもない悪魔のようなお嬢様なのだけど、そんな彼女の願いを(表面上は)すずしい顔で叶えてしまうがゆえに絶大な信頼を寄せられて、次から次へとくり出される無茶ぶりに心中で愚痴りまくってる主人公との関係性がめちゃくちゃおいしい。こういう主従関係の話大好きなんですよ。まあ主人公からすれば「主従関係」というところから勘弁してもらいたい事実になるんでしょうけど。

基本的に主人公視点で語られる話なので、わがままなお嬢様に振り回される苦労性な従僕という構図がベースになってはいるんですよね。でもそれはあくまで一方的な見方であって。同じ視点でもお嬢様のほうから従僕に向けられるキラキラとした信頼を目にしていると、お嬢様側からは、どんな願いだろうと鮮やかな手回しで叶えてくれる、この上なく頼りになる自分だけの従僕という感じで見えているんでしょうね。

この「自分だけの」というところがポイントで。大貴族のお嬢様なので、四六時中だれか従者やお付きの者に囲まれている子ではあるんだけど、それらはすべて、あくまで父や母に仕える人たちなんですよね。基本的にはお嬢様の望みに沿おうとするけれど、危険からは積極的に遠ざけようとするし、家の体面を考えるようやんわりと拒絶されたりもする。いってみれば父と母の管理下に置かれつづけている環境なんですよね。

そんななかで、主人公はどんな願いであれ、お嬢様の願いを拒否したりはしない。それどころか、万難を排して叶えてくれさえする。それが父親の不興を買い、むち打ちの罰を与えられることになろうとも。そうまでして自分ために働いてくれる従僕を、自分だけに仕える忠臣と信じて無邪気な信頼を寄せるようになるのはまったくもって自然な流れでしょう。なんという素晴らしい主従関係か。なんという抱腹もののすれ違いであることか。

いや、うん、主人公視点で語られる物語と、それを通しつつも見えてくるお嬢様から見た主人公と、それらを組み合わせることで浮かび上がってくる客観的なふたりの関係性がいかにもニマニマとほおをゆるませながらながめずにはいられないことといったら。

「『お嬢様、そこは人が乗るような場所ではございません』
『よし、ゴー』
 ゴーじゃないんだよゴーじゃ。
 ハーピーと煙は高い所がお好きというが、貴き方もそうなんだろうか。」(129ページ)

このふたり本当に大好きすぎる。主人公がお嬢様関係で降りかかる危難を思ってドキドキする気持ちは、恋でいいと思います。はい。お嬢様から賜る「栄誉」と書いて「むちうち」と読みます。当然ですね。はい。

この一冊を通して第一章ということで、まだまだつづいていってくれるシリーズだと思います。このふたりの完全にずれていながらも表面上は美しい主従関係ではある関係性を楽しませてもらいたいですね。ふたりいっしょにいろんなできごとを経験していくうちに、表面上だけでなく信頼関係が深まっていっている部分もありますし。そういった展開にも期待を寄せたいですね。1巻発売からやや時間はたっていますが、コミカライズも決定しているようですし、そちらも含めて、2巻を心待ちにしたいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:43| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月22日

Unnamed Memory(4)白紙よりもう一度

めちゃくちゃ好き。仕切り直しのAct.2、どんな話になるかと思ってみれば、めちゃくちゃ好みな話になってるじゃないですか。

実はこの第二幕、期待よりも不安が先行してたんですよ。ティナーシャとオスカーの物語としては第一幕の中ですでに見たいものは見きった感があったので。その後もつづいてはいましたけど、正直蛇足になってしまうのではと思ってました。けど、そんなものは要らぬ心配でした。第二幕、第一幕の展開を踏まえることでさらに好みの展開になってますよ。

好きあっているのに結ばれることが許されない関係のふたり。そんなもの、大好きに決まってるじゃないですかという。前の時間軸では結ばれたふたりが、今回は間に立ちはだかる障害によって自ら気持ちに蓋をしようとする。そのあまりのものわかりのよさが腹立たしくて。けれどそれでもときにどうしようもなくもれ出てしまう慕情があまりにも切なくて涙を誘われそうで。どうしてお前らはそうなんだと叫びだしたい気持ちにさせられる展開なんですよ。つらい……はー好き。

というのもこの第二幕の世界、3巻ラストを読めばわかる通り、第一幕とは似て非なる世界なんですよね。同じ国は存在する。同じキャラクターも存在する。けれどそれら/彼らが過ごしてきた時間は微妙に、あるいは決定的に違いがある。となれば、同じ魂を有しているキャラクターであってもあちこち差異は生じてくるもので。ティナーシャとオスカーの間でいちばん物語に大きく影響してきているものとしては、ふたりの立場、そしてそこからくるふたりの関係性ですね。歴史が変わった世界で、ティナーシャは明確に王であった。オスカーも、実質的に王であった。王としての立場がふたりの結婚を遠ざけるとなれば、過去のティナーシャを助けたオスカーの行動にはなんの意味があったのかという気もするけれど、あれはもうあの場にいあわせてしまえば後悔のない選択だったはずですからね。なにも言えぬ。そしてこのもどかしい状況である。やったぜ。

Act.1の1冊めである1巻と比べると、ラブコメのコメ分がうすまってラブ分が増量されてる雰囲気でしょうか。とても好み。ちょくちょくAct.1の展開を想起させられる文章が入ってきたりするのがまた攻撃力高いんですよね。「殺し文句」とか、前の時間軸の記憶は一切ないオスカーの口から出てくるともうやばい。出会いは違うし、ティナーシャの立場もすっかり変わってしまったけれど、それでもオスカーは彼女に心奪われる。そのことに例えようのない運命を感じずにはいられなくって。ほんと好き。

まあ今回はティナーシャさんのほうからだいぶアタックしてた感がありますけども。まあなんせ3巻ラストがラストでしたからね。ティナーシャがオスカーという人物に特別な感情を抱くことは自然なことでしょう。とはいえ今回のティナーシャさん、そのタイミングで幸せな時間を過ごしてて、その後が女王としての現実の政治との格闘で無味乾燥に消費された影響か、第一幕のときより精神的に幼い気がするんですよね。オスカーにいじわるされて頬をふくらませているのがとても似合って見えるようなというか。オスカーと関わってることが多いから、自然とその当時の記憶に引きずられてるのかもしれませんが。なんというか、今回のティナーシャは誰かがうまく誘導してあげないと勝手に不幸せな道を突き進んでいきそうな生きるの下手さを感じるというか。でも、それに関していちばん適任なオスカーが穏当に自制してしまってるままなんですよね。どうしようもなくティナーシャに惹かれてるにもかかわらず。こっちも下手すると生涯独身コースを歩んでしまいそうというか。どうしようもなく不器用な王ふたりの話ですよね。好き。

そんなわけで、ふたりのまたすこし違った関係を楽しませてもらえる話ではありましたが、第一幕で謎のままに終わったできごとの真相が明らかになる第二幕としては、まだあまり進展をみせていないように感じられるのでもあり。その意味では、巻末の次回予告で次の巻がとても気になってくるところではありますね。そしてそのとなりにも驚きの発表があり。そちらともども楽しみにしたいところです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 15:29| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月18日

春と恋と君のこと(2)

春と恋と君のこと 2 (マーガレットコミックス) - 綾瀬 羽美
春と恋と君のこと 2 (マーガレットコミックス) - 綾瀬 羽美

恋する気持ちを初めて経験していく女の子のかわいらしさよ。

自分の気持ちの正体に気づくことにすらてまどって、ひとりぐるぐる悩みこんだり周りから指摘されて混乱してる様子がいとおしいほどにかわいらしいこと。なにかにつけて反応が幼いので、周りもあれこれ世話を焼きたがるのがよくわかるというか。でもお相手の男子も恋愛経験値はとぼしいので、ふたり並んで進んでいってる感じで雰囲気は悪くないんですよね。

気持ちは通じてたり通じてなかったりだけど、相手のことが大切で自分と過ごす時間をなにより好ましいものに思っていてほしい。だからこそ相手の様子がおかしければ放っておけないし、踏みこんでみたりもする。そうしたやりとりを通しての進展はいかにも手探りなもので、スマートさとは無縁のものではあるけれど、それゆえのいとけなさすら感じさせる恋模様がとてもかわいらしいと思うのです。

あと、残念イケメンな藍里にジト目を送る絋果という構図のやりとりもとてもコメディチックでおもしろくて。絋果さんじゃないですが、こちらとしても助かりますというところ(何が、とはいいませんが)。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 11:33| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月14日

The Girl Who Speaks Bear

The Girl Who Speaks Bear - Anderson, Sophie
The Girl Who Speaks Bear - Anderson, Sophie

主人公の年齢が12歳なので、対象年齢もその前後くらいでしょうか? イギリスの児童書ファンタジー作品。

"Yanka the Bear"――熊のヤンカーー、それは村の誰よりも体の大きな少女ヤンカのあだ名であり、それとともに実は森で拾われた子であるヤンカ自身にとっては、皆と同じ「村の子」ではなく「森の子」なのであるという疎外感を覚えさせるあだ名でもあり。そんな彼女の疎外感が臨界点を超えたとき、ヤンカの足が熊の足のようなものに変化してしまう。自分はいったい何者なのか。自分の居場所はどこにあるのか。そんな葛藤を抱えたヤンカは森へと逃げだし、そこでまるでおとぎ話のような冒険をすることになる。これは、人とは違うところのある少女が自分のルーツと向き合う物語。

おもしろい一冊でした。ストーリーは児童小説的に王道の展開。なにより、合間合間にはさまる作中作的な挿話がいい雰囲気を出してまして。全体的にロシア系の民話などをモチーフにしてるんでしょうか、そっち系の単語がぽつぽつ出てくる世界観で。雪国であり、深い森と隣り合う村に住まうヤンカがいくつも聞かされることになるのは、森を舞台にしたおとぎ話。木こりの話、熊の話、狼の話……そうした物語がほとんど毎章のようにはさまれる。それが、おとぎ話が身近に存在する村という雰囲気を感じさせてくれていいものなのでして。

そして、それらの物語は、それ自体はおもしろいおとぎ話なのだけれど、ヤンカが森に入っていくことになったとき、それらのおとぎ話が大きな意味を持ってくるのが作りとしてうまいなと思わされるのであって。ただのおとぎ話、作り話だと思えていたものがヤンカの生きる現実に入りこんでくる。それは森という異界と村という現実が混ざり合うようなできごとであり。けれどその生い立ちから、ヤンカにはそのどちらにも引き寄せられるものがあるのであり。つまり異界と現実とがすっぱりと区別されえないのがヤンカという少女なのであったという。そんなヤンカの森での冒険は、児童書的なファンタジーとして、おとぎ話的な雰囲気のもと、次々と展開する話を楽しませてもらえる、おもしろい物語ではありました。

タイトルは、「熊と話した少女」でしょうか、それとも「熊の言葉を話す少女」でしょうか? ともあれ、人とは違うことは不安になることもあるけれど、それこそがありのままの自分なのだと、そんな自分を受け容れてくれる人は思っている以上にたくさんいるのだと、そんなことを気づかせてくれる話だと思いました。

作者さんが以前に書いたという本のキャラクター(?)も登場してるっぽいので、次はそっちを読んでみるのもおもしろそうですね。まあどうするかわかりませんが。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:33| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月13日

エクレア orange あなたに響く百合アンソロジー

エクレア orange あなたに響く百合アンソロジー - 仲谷 鳰, あらた 伊里, 缶乃, 平尾アウリ, ほか
エクレア orange あなたに響く百合アンソロジー - 仲谷 鳰, あらた 伊里, 缶乃, 平尾アウリ, ほか

同名アンソロジーシリーズの5冊目。今回もいい百合短編がたくさんでたいへんいい一冊でした。

個人的にいちばん好きなのはカボちゃさんの「私たちの交点」。委員会とか部活とか、そうした学生ならではの環境のなかで、人間関係のことや将来のことで悩みがあったり。いつかの学生時代の空気感を思い出させてくれるあれこれを背景に、文学少女と部活少女のふたりの交流が描かれる。表面的には接点がなさそうで、序盤を読んでいてもあまり気が合いそうにないふたりではあったんだけど、何度か接していればなんとなく伝わってくるものはある。第一印象からすれば意外な一面だったり、なにか抱えこんでいる問題がありそうなことだったり。けれど相手の内心に踏みこんでみるほどには思いきれず、かといって放っておけるほどには冷淡にもなれず。適切な距離感を探るようにしてすこしずつ交流を深めていく様子が、とても繊細でいいものだと思ったのです。これぞ学生百合の一コマと感じさせる空気感でした。

同じく学生百合だと竹葉久美子さんの「陽炎のうた」もよかったですね。ちょっとホラーっぽい設定からのえっちな展開にドキドキさせられたりもするんだけど、設定が設定だけにふたりの関係性はとても感情に訴えかけてくるものがあって。ここから先に続いていかない、短編ならではの読後感を与えてくれる話ですね。

そこをいくと、同じ学生百合でも宮原都さんの「切れない距離」は、この先の展開が気になる話でしたね。設定的に三角関係ではあるようですし。なかなかにシリアスな展開になってくれそうというか。

あらた伊里さんの「ティアドロップス」は、学生百合になるんでしょうかね? 小学生って学生……? そんな疑問もわいてきますがそれはともかく。最近読んでる作者さんのほかの作品でも感じるキャラクターの勢いはこちらでもバンバン伝わってきて。この、女の子たちがにぎやかにわちゃわちゃしてる感じ、すごく好きなんですよね。ピアノの先生のツッコミとか、独特なノリがもう大好き。けれどなによりも、いちばん最初に出てきた年の差という伏線をきれいに回収してストレートに濃度の高い百合に落としこんでみせる展開がみごとすぎて。甘々疑似姉妹百合、とてもいい……。コメディとしても、百合としても、短編としても、とても好みな話ですね。

学生百合もいいですが、社会人百合もいいものではありまして。桐山はるかさんの「不器用たちに幸あれ」はそのなかでもいちばんの好み。すごい人だと思ってるんだけども叱られてばかりで苦手に感じていた主任が実は自分のことを評価して気にかけてくれていたということをプライベートな場で伝えてくれるのは、それだけでもうありがたい気持ちにさせてくれる展開ではありまして。ましてやそこで、自分にしか見せてないであろう親しみやすい一面を見せてくれるとなれば、これはもうギャップでドキドキが止まらなくなってしまおうというもの。こんなところを見せられたら、しばらく別の意味で同じ空間にいづらくなってしまいそうなんですが、神田さん、帰りの車で事故ってないといいですね……。主任の笑顔のかわいさにやられた。

川浪いずみさんの「帰ってきたクソ女」も好みな話で。この本のラインナップとしてはタイトルが強烈だけど、話はまっすぐな百合の話。警戒心を抱きながらも好きなものは好きだからどうしようもないという、そんな大人な関係がドキドキさせてくれることで。ふたりのやりとり、猫のくだりでは声に出して笑ってしまいました。そして、そんなこんなを含みながらも、短編の分量でこの話をきれいにまとめてくれるラストがとてもいい雰囲気なのでして。読後感もとてもいい。いい短編マンガだと思います。

その他、むっしゅさんの「ちゃんと見てって話」は高校生の女の子と大学生の女の子の年の差百合。年上のおねえさんを慕う高校生とそんな彼女につきあってあげるおねえさんという様子がどこか姉妹っぽさも感じさせていいものではありまして。くわえて、構ってほしいのにぞんざいにあしらわれたり、かと思えばちょっといじわるにからかってきたりする、そんなおねえさんの態度にずるいずるいと内心で怒ってみせたりする女の子の様子がたまらなくかわいく思える話なのでした。いいですよね、こういうの。

ずるいといえば、古鉢るかさんの「たゆたうくちびる」のラストも、態度としてはアレなんだけども、それを感じさせないずるい表情がなんだかちょっとかわいいかもと思えたり。

とりあえずはそんなところで。今回もいい一冊でした。百合好きな方はぜひぜひ。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 23:30| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月09日

運命の相手がややこしい!

運命の相手がややこしい!【電子限定漫画付き】 (ラブコフレMコミックス) - 柚木ゆー
運命の相手がややこしい!【電子限定漫画付き】 (ラブコフレMコミックス) - 柚木ゆー

Twitterの広告で流れてきた(数か月前からなぜかRenta!の英語圏向け広告が流れてくるようになった)のを見て気になって購入。

これはとてもかわいい。片方が周期的に体の性別が入れ替わる体質ということで、男と女として互いに惹かれあっていくうちに男の体同士でもいい雰囲気になっていく様子はとてもいいもの。

というか、女体時のかわいさが印象づけられていくうちに男体時の言動もだんだんかわいく思えるようになってくるという。なんという巧妙な手口か。当初は女性の体で交流を深めていった影響で、気づけば男の体のときでも接するしぐさが女の子っぽくなってきてたりしてて、とてもかわいいこと。というかむしろえろい。女体時よりも男の体のときのほうがえろい気がするのはなんでなんでしょうかねえ。

終盤のほうではすっかり男女どちらの体でもいい感じの雰囲気になれていて、さすがの相性抜群ぶりですね。とてもお似合いのふたりではないでしょうか。描き下ろしの話とか、すごくお約束感のあるカレカノの雰囲気になっていてとてもほほ笑ましいことで。

ぜひ幸せになってほしい……というところだったんですけど、ラストで次の巻に続く展開。いや、1巻表記がなかったからすっかり一冊で完結するものと思ってました。まあその分このふたりの話をもっと楽しめるということでもありますので。次の巻も楽しみにしたいですね。


そういえば、女体化レーベル(男×女も男×男もある)って、ジャンル的にTLなんだろうか、BLなんだろうか。買った本屋ではTLコーナーにあったような記憶。個人的にもこの内容ならTLかという気がするけれど、TLだけを期待しているとびっくりしてしまうと思うので難しい。まあ帯を見れば女体化が強調されてるので不幸な事故は避けられるか? そもそもTLかBLかという枠組みが不適という話かもしれない。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:39| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月05日

ゆびさきと恋々(1)

ゆびさきと恋々(1) (KC デザート) - 森下 suu
ゆびさきと恋々(1) (KC デザート) - 森下 suu

すごくいい感じの雰囲気だった。

耳が聴こえない女の子がヒロインで、手話や口の動き、文字を通してのコミュニケーションが中心になってるからか、読んでて感じる雰囲気が静かなんですよね。音のない、静謐な世界で、その中でキャラクターたちの会話や動きが展開されていっているような。なんだか不思議な感覚。これがとてもいい感じで。

音がないから、どこか少しキャラクターたちのことを遠くに感じるような部分もあるんだけど、そのぶん、文字として伝わってくるコミュニケーションが存在感を強めに感じさせる。これが聴覚に障害のある人から見た世界、なのかはわかりませんが、こうした世界の感触は悪くない。というよりとても面白いものだと思います。

そしてなにより、静謐な世界だからこそ、ヒロインが抱き育んでいく恋する気持ちがとてもあざやかに響いてくるんですよ。まるでそこから世界に彩りが与えられていくかのような、鮮烈な感覚。そうした感覚を体験しているヒロインの姿もふくめて、とてもかわいらしい、恋の話ですね。

楽しみなシリーズになりそうです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:57| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月30日

世界でいちばんかわいい!

世界でいちばんかわいい! (BABYコミックス) - ふるや ちるこ
世界でいちばんかわいい! (BABYコミックス) - ふるや ちるこ

女装BLだー! しかも女装攻め! これはやばいかった。より男らしい受けが自分にだけ見せるかわいい顔に興奮して気分を高ぶらせる攻めのSっ気を感じさせる表情がたまらなかった。身長が同じくらいだから、体格差がある場合ほどではないけれどそれでも上になったときの迫力が結構なものなんですよね。女装姿そのものもめちゃくちゃ色気にあふれてて、そんな姿からの攻めっぷりなのでたいへんにやばい。そんな攻めをまっすぐに受け入れる受けも好感が持てて、それでいて攻めにとろかされちゃう表情はとてもいい受けっぷりであって。とてもかわいいふたりの話でありました。

本編とは別の読切の短編も、こちらはまた別ベクトルではありながら女装BL。かわいいを追求していく女装男子の姿が本当にかわいくて、その過程でのふたりの関係性も物語としてとてもいいもので。すごく応援したくなる関係のふたりでした。かわいい男の子たちの女装姿はとてもかわいい。そんなふたりのBLは最高にかわいい。そんな話。

とてもいい一冊であった。オススメしたい。どの方面に向けたらいいかわからないけど。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:22| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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