2017年05月24日

風呂場女神

風呂場女神 (レジーナ文庫) -
風呂場女神 (レジーナ文庫) -

風呂場の窓が異世界のそこかしこにつながって、そこで困っている人を助けていくうちにわらしべ長者的に転がっていく物語。そんなものもらってどうするんだと思うものもありましたが、あれよあれよと人助けの連鎖がつづいていくのが面白くもあり。また、それをなせるほどに窓から色んな場所に開いていたのが最後にはひとつにつながる展開も、ややできすぎな感はありましたがなるほどと思わせてくれるところもあって。

それを可能にしたのは、窓からつながった先で主人公の泉が出会ったのが、王族の人物が多かったことでしょうか。これから国を継ごうとしている王子、よこしまな一族に狙われる王女、幽閉された王子など、国の大局にかかわる王族やその周辺の人物につながることが多かったのもポイント。個人的にはジェバスのアクア姫がいちばんよかったですね。まだまだ10歳にもならない齢ながら、自身も当事者としてかかわる悲恋譚に心動かされて自らばっさりと身を引く思いきりのよさ。さすがに思いきりがよすぎてなんともったいないことをと思ってもしまいましたが、その竹を割ったようなまっすぐさはとても好感の持てるものだったのですよ。あと、未熟な弟をかばうためにあえて火中の栗を拾いにいったオットコ・ユ族のお姫さまも。そして、そんな各地の重要人物たちを助けていくうちに、女神だの妖術師だのと色んなところに進行形で伝説を残していったっぽい泉の事績がその後どう語られていったのだろうかとか、そんなことを考えてみるのも面白そうな。そんな一冊。
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2017年05月18日

おとぎの森の幼女姫

おとぎの森の幼女姫 (ホワイトブックス) -
おとぎの森の幼女姫 (ホワイトブックス) -

これはよかった。タイトルにもあるおとぎの国の話のようで、それでいてライトノベルのテイストもあって。むかしむかしあるところに国を奪われた小さなお姫さまがいて、彼女にはひとりの騎士だけが残されて、けれどそこで一頭のドラゴンに出会って……。そんな感じで展開していく話なんですけど、どこまでも姫のためにと活躍する騎士とドラゴンの組み合わせがよくって。

けれどなによりこの話を楽しませてくれたのは、文章のリズム感。すべてがすべてではないんですが、気づけばテンポよくつづられる節回しに乗るようにしてさくさくと読み進ませてくれること。暗い場面、熱い場面、楽しい場面、その他諸々の場面を描きだす歌うような語り口に、詩人や語り部の物語に耳を傾けるようなひとときを楽しませてもらいました。

話の筋としても、本来は敵対しあう者同士という騎士とドラゴンの間に、姫のためにという理由のみで休戦協定が結ばれて、それが最後には姫のためにと命を預けられる心からの信頼関係になり、姫のためにと戦い抜く姿を見せてくれる、とてもいいお話で。お姫さまがタイトルにもあるように小さな姫で、騎士とドラゴンはまあまあおっさんという感じの年長者なこともあって、子供を守りその幸せのために戦う保護者という感じの雰囲気もいいもので。めでたしめでたしという言葉こそ使われていませんが、そんな言葉も似合うラストまで含めて、とてもいい話でした。

出版社が正直なところ初めて名前を聞いた会社ということもあって、あまり広くは知られていないのではないかという気もしているところ。もっと評価されるべき一冊だと思います。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 17:04| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月14日

なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編  なんちゃってシンデレラ、はじめました。

なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 なんちゃってシンデレラ、はじめました。 (ビーズログ文庫) -
なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 なんちゃってシンデレラ、はじめました。 (ビーズログ文庫) -

国のためを思う人であるかと思えば消えない恨みを持て余していたり、誰より大事にしている人がいながらそれと同時に捨て鉢な気持ちがのぞけてきたり。愛憎が複雑にからみあい不可分なまでに一体化して育ちあがった感情の様相。矛盾した感情とそれを取り巻く魍魎たちによる宮廷事情が明らかになるにつれてうなじの毛が逆立つ思いがする王宮陰謀編の解決巻。これもまた人の物語ですね。完全に読んだ記憶がないので、全編未読分だったと思います。人の気持ちが、行動が、周りに影響を及ぼしていく流れというのは、シリーズのヒロインであるアルティリエを中心とした明るい希望を抱かせてくれるものをこそ、これまで楽しんできたわけですけど、今回明らかになった黒幕においてはその逆パターン。恨みや憎しみの感情が、周りに少しずつ暗い影響を与え、時がたつにつれて広い範囲に影をもたらすことになったということで。いわれてみれば前者もあれば後者もあるよなあというところなんですけど、黒幕がわかったところで広く深く根付いた悪意は取り除くのにどれほどの時間がかかるのかと、一件落着とばかりにすっきりとはしない気持ちにさせてくれる結末でありました。うん。こういうのもありですね。

ただ……長いよ! 真相説明編長いよ! 一冊ほとんどまるまるそれで終わっちゃったじゃないですかあ。ナディル殿下の出番が……アルティリエとのやりとりの雰囲気がいい感じだったのに……。いや、ちゃんとありましたけど。今回もなかったわけではないんですけど。侍女がそばにいるのがデフォルトな身分ゆえに彼女らの見守る中でラブラブなやりとりをするシチュエーションに心中もだえまくってるアルティリエさんはかわいかったけど。夫婦だから恥ずかしくないもんとか言い聞かせてるのとかすごくよかったけど。でも、やっぱりイチャイチャ分が足りない……と思ってしまうんですよ。こればかりはもう、次からの新章に期待するほかありませんね。

とはいえそんな感じで、たぶん2巻からつづけて読んだほうが楽しめたかなーとは思いますが、逆に考えて、王宮陰謀編完結巻まで発売になったいまこそご新規さんもどうぞどうぞと勧めてみるのはどうかと考えてみたり。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 22:20| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月11日

左遷も悪くない(2)

左遷も悪くない〈2〉 (アルファライト文庫) -
左遷も悪くない〈2〉 (アルファライト文庫) -

ひとり身の時は何気なく過ごしていた季節も、結婚したことで特別な意味を持つようになってくる。いいですね、こういうの。結婚したからこそ、意味の見いだせなかったできごとに特別な意味が見えてくる。これもそれぞれの背景を持つ者同士がひとつ屋根の下で暮らすからこそでしょうね。特にウリセスのジャンナへの接し方を見ていると、真っ向からの互いに譲らない言葉のぶつけあいだったろうやりとりに、相手の気持ちへの共感が少しずつ見えてくるようになっていて。それをもたらしたのが結婚したヴァレーリアと過ごしてきた日々の記憶だとわかる描写が素晴らしくて。それに限らず、ウリセスのジャンナ見る視線とレーアを見る視線のかげに、嫁に対する信頼がうかがえるのもとてもいい夫婦の雰囲気ではあります。わりとひとつの節でひとつの話としてオチまでついてることも多く、ラストの一文から伝わってくる熱い雰囲気にやられることもしばしば。

とはいえ、荒くれ者たちとともに荒事に対処する軍人と、同じく軍人の娘とはいえ荒事とは縁もなく大切に育てられてきた女性とでは、担いきれる互いの苦難の幅にも限度があるように思えるものでして。今回、ウリセスの元部下から語られた左遷の顛末を聞いていると、ウリセス同様、レーアには危機に際してただ逃げてほしいと思えてくるところもあり。けれど、そのときがやってきた場合にどれだけ役に立てるかわからないとしても、夫婦になったからには訪れうる危険を知りたいと願い、ともに乗り越えていかせてほしいと願う彼女の気持ちは、なによりも心を打つのです。それほどに、互いの視点で描かれる、レーアを大切に思うウリセスの心と、ウリセスを愛するレーアの心は、とてもいいものなのです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 13:58| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月09日

ソードアート・オンライン プログレッシブ(1)

ソードアート・オンライン プログレッシブ1 (電撃文庫) -
ソードアート・オンライン プログレッシブ1 (電撃文庫) -

SAOだなあ。まさにあのアインクラッド編の雰囲気。ゲームの世界に閉じ込められて、その世界の中で得られるものは食事の味や傷の痛みも含めてほとんどのものがまがい物の情報でしかないんだけど、それでもそれらの虚構のゲームの世界を通じてわきあがる感情、人と人との間に築かれる関係性はまぎれもない本物なんだという、くるおしいまでの感覚が痛いほどに伝わってくるキャラクターの姿。これがSAOの大好きなところなんですよ。

今回、それをいちばん感じさせてくれたのはアスナ。それまでゲームとは縁のない生活を送ってきて、現実世界での競争の日々がすべてだったのが、たまたま手を出したゲーム・SAOによって取り返しがつかないほどに人生をくるわされてしまうことになって。けれど、悲劇的な境遇に嘆くことをやめた彼女がデスゲームと化したSAOの世界と対峙することを決めたとき、彼女はどこまでもまっすぐな信念で突き進んでいった。クリアか死かとでもいうような悲壮な決意は、いくらか理不尽な状況への憤りも含まれていただろうとはいえ、命を懸けてでもこの現実に立ち向かい、打ち倒してやると言わんばかりの気迫が伝わってきて。死んでしまったらそれまででも、それまでにもうこれ以上逃げていたくないとでもいうかのような、今この時を胸を張って生き抜くんだと叫ぶかのような。その姿に、のちの時間軸でのがむしゃらな活躍が思い出されて、アスナは最初からこんなまっすぐなキャラだったんだなあと感慨深く思ったり。

とはいえ、何物をも貫き通してしまいそうなほどに鋭い信念はその一方でひどくもろいものでもあって。キリトと交流する中で適度に肩の力が抜けた感があるのは、多少残念な気持ちがありながらも、彼の面目躍如と感じる部分もあり。彼、アリシゼーション編のほうでもそうですけど、デスゲームと化してはいても、ゲームであるならシステムの利点も短所も活かしたプレイングしますからね。命がかかっていてもその辺の考えは忘れないというか、命がかかっているからこそその勘所をつかんでいるところがあって。気を抜くところ、気を張るところをこの時点ですでに無意識に使いわけれてる印象。それもあってか、あとがきにもあるように、本編のアインクラッド編との矛盾もあるとかないとかですけれど、正直1巻の話はあらすじ程度にしか覚えてないので、気にせず楽しめてるところであり。たしかに、1巻時点ではあんまりふたりの仲もよくなかったような気がしますが、途中での決別はありえることなんじゃないかとも思うので。アスナさん、この巻の当初がそうであったように、根はかなり潔癖な性格のようですから。“悪のビーター”であるところのキリトとは本来的に相性がよくないはずなので。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 14:09| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月08日

2017年4月の読書まとめ

4月は15冊。さらに減った……。謎の読書時間の取れなさが謎すぎて、本当にどうしていいか謎。これではいつまでたっても時間に余裕なんてできないからと、時間ができるまでのつもりで中断してた洋書の読書を再開したりもしたんだけど、その影響もあるか。マンガ等を含めても31冊と、確実に減少傾向が見て取れるのが……。

4月読了からのおすすめは以下。

[☆☆☆☆☆]左遷も悪くない(1)  感想
左遷も悪くない〈1〉 (アルファライト文庫) -
ライトノベルより。それぞれの家族にそれぞれの家族らしさがあって、結婚によってそのうちのひとりずつがいっしょに暮すようになって、家族との交流を通してそれらの家族らしさが混然としてまざりあっていく。素晴らしい。

[☆☆☆☆]後宮饗華伝 包丁愛づる花嫁の謎多き食譜  感想
後宮饗華伝 包丁愛づる花嫁の謎多き食譜 後宮シリーズ (集英社コバルト文庫) -
ライトノベルより。偽りの花嫁として、互いのことをよく見ていたからこそ相手のいいところがしっかりとわかり、この上ない似合いの夫婦になっていく。とてもいい。

[☆☆☆☆]魔導の福音  感想
魔導の福音 (創元推理文庫) -
国内ファンタジーより。無視され虐げられる人たちがいて、それでも不満を抱えながら生きる人たちがいて、そんな人たちとの交流を通して分かちがたい絆をはぐくみ、未来へとつづく道を切り開いていく流れ。希望を感じさせてくれる。

次点として、『本好きの下剋上(3)領主の養女(2)』(感想)も。一見して自明な問題でありながら、当事者の双方で果断な支配者と横暴な貴族と認識がはっきりわかれてしまう。そんな構図が予期せず現れる面白さ。

それと、今年になってから、Twitterのほうに月次まとめを紹介しがてたら、ファンタジー枠とイチオシ作品もあげてるんですが、こちらでもやってみようかと。それぞれ趣旨としては、ファンタジー枠はその月に読んだものの中で自分基準のファンタジー的な面白さをもっとも感じさせてくれた作品で、イチオシは他人にひとつオススメするならこれという感じ。まとめ記事ではいつも☆つきで紹介してはいるんですが、それはあくまで自分のお気に入り度であって、面白さとは少し違うし、他人にオススメするならまたちょっと変わってくるかなーということで。ファンタジー的な面白さについては、自分の中でファンタジーとは何かと考えていくと、いちばん近い考え方としては、「ファンタジーとは異世界のことであり、異世界を感じるのは異文化との接触であり、異なる文化が発生するのは異なる背景を持つからである」という感じになるのかなというところで、最後までくるともう異世界である必要性がなくなってる感すらありますが、まあそんな感じで。

そんなこんなで、4月読了作品としては、ファンタジー枠は『左遷も悪くない(1)』『本好きの下剋上(3)領主の養女(2)』『魔導の福音』の三作で、イチオシは『左遷も悪くない(1)』かなーと。いやほんと、この三作どれも甲乙つけがたい面白さなんですよ。それぞれ違った方向からファンタジーとしての面白さを感じさせてくれて。

以下、読書メーター貼り付け。

4月の読書メーター
読んだ本の数:15読んだページ数:4988ナイス数:4
魔導の系譜 (創元推理文庫)魔導の系譜 (創元推理文庫)読了日:04月03日 著者:佐藤 さくら
ソードアート・オンライン11 アリシゼーション・ターニング (電撃文庫)ソードアート・オンライン11 アリシゼーション・ターニング (電撃文庫)読了日:04月04日 著者:川原 礫
左遷も悪くない〈1〉 (アルファライト文庫)左遷も悪くない〈1〉 (アルファライト文庫)読了日:04月05日 著者:霧島 まるは
ケダモノと王女の不本意なキス (ビーズログ文庫)ケダモノと王女の不本意なキス (ビーズログ文庫)読了日:04月07日 著者:松村 亜紀
燦然のソウルスピナ 1 (プライムノベルス)燦然のソウルスピナ 1 (プライムノベルス)読了日:04月10日 著者:蕗字 歩
レッド・クイーン (ハーパーBOOKS)レッド・クイーン (ハーパーBOOKS)読了日:04月14日 著者:ヴィクトリア・エイヴヤード
よるのふくらみ (新潮文庫)よるのふくらみ (新潮文庫)読了日:04月17日 著者:窪 美澄
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第三部「領主の養女II」本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第三部「領主の養女II」読了日:04月18日 著者:香月美夜
風の名前 1 (キングキラー・クロニクル第1部)風の名前 1 (キングキラー・クロニクル第1部)読了日:04月21日 著者:パトリック ロスファス
後宮饗華伝 包丁愛づる花嫁の謎多き食譜 (コバルト文庫)後宮饗華伝 包丁愛づる花嫁の謎多き食譜 (コバルト文庫)読了日:04月23日 著者:はるおか りの
竜王は新妻を蜜夜に堕とす(ガブリエラ文庫)竜王は新妻を蜜夜に堕とす(ガブリエラ文庫)読了日:04月24日 著者:すずね凜
蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ一: 諸王の誉れ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ一: 諸王の誉れ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)読了日:04月27日 著者:ケン リュウ
The Serpent KingThe Serpent King読了日:04月28日 著者:Jeff Zentner
黒鷹公の姉上 (レジーナブックス)黒鷹公の姉上 (レジーナブックス)読了日:04月28日 著者:青蔵 千草
魔導の福音 (創元推理文庫)魔導の福音 (創元推理文庫)読了日:04月30日 著者:佐藤 さくら
読書メーター
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2017年05月06日

とりかえ・ばや(1)

とりかえ・ばや 1 (フラワーコミックスアルファ) -
とりかえ・ばや 1 (フラワーコミックスアルファ) -

なよやかに育った弟よりも男がするとされることを好んで育ったゆえに、男として元服を迎えた沙羅双樹の君。ではあるものの性自認は女のままであり、男社会で生きることになって持ち前の明るさから周りからはちやほやされながらも心のうちで孤独をかこつ描写がいい感じ。睡蓮の君とふたりでしかわかちあえない感情を吐露する様子も先行きの不安を思わせてくれて。そのうえ実は女なのではないかと疑われては身を引いたはずの女性社会のやっかみも受けることになるからなかなか大変な立場。特異な存在とはいえ、男と女で生き方がはっきり峻別された社会で、その境を超えて生きることの難しさが伝わってくる。先の展開が気になる話。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 16:34| Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月05日

魔導の福音

魔導の福音 (創元推理文庫) -
魔導の福音 (創元推理文庫) -

「わたしは受け入れてほしいとはいわない、ましてや理解してほしいなんていわないよ。でも、わたしたちもここにいるのだと知ってほしい。存在をなかったことにしてほしくないだけだ」(作中より引用)

アニエスの自由さがとてもまぶしく、すがすがしい。

前作『魔導の系譜』の続編と銘打たれた今作の舞台は、ラバルタ王国のとなりのエルミーヌ王国。主人公も今回初登場となった人物になっているものの、通底する物語の舞台の雰囲気は似通ったもの。すなわち、魔導士とその素質がある者たちへの差別意識の存在する社会。けれど、ラバルタでは人をも傷つけうる能力への忌避感が強く感じられたのとは異なり、エルミーヌではそれ以上にその素養が悪とされ、生きることすら認められない価値観が伝統的だという。魔導の素養そのものが倫理的な悪であるかのようであり、そのような人間は神の御許に返してやるのが善であるとでもいうかのような。魔導の素養が発現することがあたかも悪い魔物に憑かれるようであり、それは不可逆な変化であるかのような。そのため魔導の素養がある者すなわち魔物棲みが活躍できる場所はエルミーヌに存在せず、それどころか人としての生を全うできるところすら存在しないのが実情で。

そんな社会だからこそ、妹のリーンベルに訪れた悲劇について癒えない後悔を抱える主人公・カレンスの悩みは心に訴えかけてくるものがあって。前作でラバルタの魔導士たちについて知っていればこそ、エルミーヌ社会のむごさを指摘することもできたでしょう。でも、魔物棲みを悪とし、死を与えることを救いとする価値観が共有される社会で、発覚してしまった魔物棲みをどうすればかばいだてることができただろうか。魔物棲みが存在することに動揺する人々の中で、存在を知られてしまった魔物棲みを見捨てない選択をすることがどんな影響をもたらすか。考えるほどに身動きがとれなくなってしまい、のちに後悔を抱えることになる描写に、とてもよくその社会の様子が伝わってきて。

つまるところ、魔物棲みとわかればまるで最初からいなかったかのように存在を許されなくなるのがエルミーヌであり、そんな魔物棲みの存在をなかったことにした過去を抱えるのがカレンスであり。そしてそれをカレンスにつきつけたのがいちばんの友人であったサイとの断絶であり、たびたびそれを思い出させたのがアニエスとの学院生活であったということで。

とはいえこのアニエス、べつだん魔物棲みであるわけではなくて。男しかいなかった学院で初の女子生徒にして学業でも武術でも男顔負けな腕前だったりしたことから、なにかそういう裏付けがあったりするのかとも思いましたが、特にそんな事実はなく。単純にすごい人なのであったという。まあ魔導にそんな効用があるとの記述もなかったと思いますが。では、彼女の何がカレンスの過去の後悔を思い出させるのかというと、彼女がまた別の意味でマイノリティーであったという点。彼女は女性でありながら女性しか愛せない同性愛者であり、そのことがもとで実家の公爵家から勘当された問題児でもあるという。彼女のほかにもそういう人たちは存在しているらしいものの、魔物棲み同様に社会に存在を認められてはいない人たちであり。アニエスにしても、ことあるごとに間違った性向であると指摘されたり、誤解に基づくイメージを持たれたり、マイノリティーである一面をはれものを扱うようにされることにうんざりしていると何度も口にしてはいる。カレンスもときおり無理解な発言をしてしまったりするものの、ことさら嫌悪感を抱くことなくそんなものかという感じで受け入れていけたのは、初対面からしてアニエスという少女にひかれるものがあったからか。ともあれ、そんな彼女との交流を深めるうちに過去の後悔を深めるカレンスの様子はいいものでして。この辺、自分のことを隠さず堂々としていられるアニエスはかなり特異な人物だと思いますが、それを可能にしていたのはやはり彼女の学業・武術両面での優秀さゆえだったろうと思います。学院としても仕官先の主にしても彼女の才能は惜しいものがあるので積極的に放逐するのはためらわれるし、その一方で武器を持った男に襲われたところで返り討ちにできるだけの腕前があるので実力行使はさして脅しにならないという。くわえてカレンス含めた彼女の存在を認めた友人のおかげもあったのかなと思いますが、ともあれそんなアニエスとの学院生活は刺激的で、カレンスの出自として、村の監督官を務める貴族の嫡男として王都の学院に進学してきたという背景もあって、順調にエリートコースを進みながら見分を広げていることに対するいいようない高揚感があって。実に楽しい学院パートではありました。アニエスのおかげで騒動にも事欠きませんでしたし。

そんなアニエスの本領が発揮されたと思うのが、学院の卒業後。友であるカレンスの窮地に身一つで駆けつける場面。そして持ち前の優秀さでカレンスの助けになる流れ。友諠に厚い心も気持ちのいいものではあったんですけど、それ以上にそのために色々なげうってくる決断を悩むことなくすんなりとできてしまう点がすごくアニエスらしいなあと思ってしまって。周りから見たら彼女、明らかに出世街道に乗ってましたから。そのことに未練も後悔もなく、そんなことよりも自分の大切なもののために行動する。もともとこのエルミーヌでの社会的な成功にあこがれているところのない人物ではありましたが、それでもほかでもない彼女であってこその展開だったと思います。とてもすがすがしい人でした。

けれど、アニエス自身が彼女自身が差別解消の契機になることは難しいと思えてもいて。何度も書いているように、彼女自身はマイノリティーであるものの、その中でも別格な出自と際立った優秀さを持つ特異な存在なので。あくまでそれらの要素ゆえに目をつぶられているのであり、ほかに彼女ほどの人物を期待するわけにはいきませんから。その点でいちばん力になれるのは、サイやアニエスとの交流を通して彼らに対するわかちがたい思いを確かなものにした地方貴族階層のカレンスであり、そしてそれを体現するのがあのラストなのだと思うのです。シリーズタイトルも決まって、おそらくまだ今後もつづくのではないかと思うのですが、願わくば一作目・二作目のさらにその先の世界の様子が見れることを願って。(あ、でも、レオンは今度こそ死にそうになってないといいなあ……)

文章のほうでも、ぶつぎりのエピソードの集まりのように思えた前回からは見違えるように読みやすさが増しててよかったです。

ただ気になったのは、女性キャラの美醜を文中で相対化するように、このキャラは美しい、このキャラは美しくないみたいにいちいち記述することにはどういう意味があったんだろうかというところ。ほとんどがカレンス視点でのことだったような記憶があるので、カレンス君ってもしかして面食いなんだろうかとかとぼけたことを思ってみたり。
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2017年05月03日

黒鷹公の姉上

黒鷹公の姉上 (レジーナブックス) -
黒鷹公の姉上 (レジーナブックス) -

トリップ先での事情により、保護してもらった王子の姉のふりをすることになる話。これ、ある種の変則的な姉弟ものといってもいいのでは? 育ちもあって王子のほうがしっかりしてる印象はあったものの、そんな「弟」の姉としてふさわしい人にならなければとはりきるヒロインの姿は悪くないところであり。ちょっと時間の経過が短すぎるきらいはあるように思いましたがそれはそれ。そんな「姉」の姿にだんだんと姉弟であると公言したことに後悔をのぞかせだすオーベルを見ていると、先の展開がなかなか楽しみになってくること。話としてはあんまり決着ついてるわけではなく、まだつづく感じなようで。次の巻も楽しみにしたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:08| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月02日

蒲公英王朝記(1)諸王の誉れ

蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ一: 諸王の誉れ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) -
蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ一: 諸王の誉れ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) -

「楚漢戦争を題材に」というよりも、ケン・リュウ版項羽と劉邦という感じ。劉邦にあたるクニ・ガルの懐の深い好漢ぶりが爽やか。貴族の生まれでないために教養には乏しいけれど、その出自ゆえの気取らない態度と過酷な法の世に見せる思いやりで幾多の人々の心をつかむ人望の人ぶりがいかんなく発揮されるエピソードの数々が面白い。自分が人より優れてるなんて思っていないから間違いを指摘されれば改める素直さもあり、これは下々から推戴される君主の器。それに加えて、無視されがちな女性たちへの配慮も持ち合わされてるのが今風と感じさせるところでもあり。ガル大人と接することになれば、呂氏にあたるジアとのやりとりはとてもいい雰囲気でしたし(邦題のもとにしただろう場面なんて特に)、項羽にあたるマタとの意気投合ぶりも気持ちのいいもので、あれもこれもとワクワクとさせてくれるできごとばかり。本当に、のちの展開を楽しみにさせてくれる人ではあります。ただその一方で、下敷きにしている物語世界が広大なこともあってか、結構なスロースターターと感じられるところもあり。キャラクターに躍動感が出てきたと思ったときにはすでに200ページくらい経過してた記憶。荊軻(ではなくて張良と考えるのが自然か)による始皇帝暗殺未遂から始まって、陳勝・呉広の乱から各地で蜂起がつづくもまだ秦軍が優勢でありと、話の進行度的にも次の巻でどこまで話が進むのかわかりませんが、古今名のある作家が挑んできた題材ではあるので、それらにどこまで追随してくれるのか、楽しみにしたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:04| Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする