2019年04月20日

オレ様御曹司の溺愛宣言

オレ様御曹司の溺愛宣言 (エタニティブックスRouge)
オレ様御曹司の溺愛宣言 (エタニティブックスRouge)

オレ様御曹司の溺愛宣言 : 冬野まゆ | エタニティブックス〜大人のための恋愛小説レーベル〜

人間関係が不得意で仕事に生きてきた営業職のヒロインが、その仕事の腕を認められるとともに、仕事を通して本人でさえも自覚できていなかった人づきあいにおける美点を見出だされて恋愛に前向きになっていく展開がとてもやさしい雰囲気のラブストーリーであった。

人づきあいの苦手さは身に染みているヒロインなので、ハイスペックなお相手に恋愛対象として興味を持たれても、なんで自分なんかにと疑問に思ってしまうし、なにかの冗談ではとも思ってしまう。けれどそれは、相手と恋愛関係になるということについてほとんど考慮すらしていないということであって。それをくりかえし、冗談ではなく本気であるという気持ちを伝えられることで、人づきあいが苦手だとか、釣り合わないとか、そういうったことを抜きにして、お相手のことをどう思っているのか、恋愛関係になりたいと思えるほどの好意を抱いているのかという自分の気持ちと向き合うことになる。うまいですよね。この辺は、仕事だけでなく恋でもハイスペックさを感じさせるヒーローの魅力であって。いくら真剣に自分の気持ちと向き合っても、人間関係の不器用さはすぐには変えられないヒロインなんだけど、その不器用なところも含めて愛してくれるのであって。この人の言うことなら信じられると思える人に支えられて、ぴりぴりと肩肘張ったような雰囲気だったのも自然とやわらいでいくほどの愛情に包まれる。とても幸せな気分にさせてくれるやさしさですよね。

そして、そんなふたりをつなぐきっかけとなったのは、人づきあいの苦手意識からかなりひとすじに打ち込んでいた仕事であって。仕事のペースの合う者同士として、仕事ぶりはなによりその人を知れるツールであって。表面的な部分に隠れたヒロインらしさを見出したのが仕事からなら、自分自身と向き合いそうしたヒロインらしさを自分のものとしていくことにヒーローがうれしさを現わしたり周囲への警戒感を高めたりするのも仕事がらみのことであって。仕事上の関係からはじまって、公私ともに支えあうようにして歩調を合わせていくカップルの話。とても素敵な作品でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 00:52| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月18日

One True Love

(記事カテゴリは悩んだんですが、雑誌収録の一作品ということもあり、本のカテゴリではなくWeb小説のほうにすることに)

http://www.lightspeedmagazine.com/fiction/one-true-love/

「この子が真実の愛を見つけたとき、それは王の破滅のはじまりとなるだろう」と予言され、怒った父王によって塔に押し籠められ、男から隔離されて育てられた王女が、真実の愛(同性)に目覚める短編?中編?小説。百合ファンタジー的な区分にでも分類できる作品だろうか。何をどうしようと、人は愛する人を見つけてしまうものなのだという感じの話がグッドであった。

女性と女性の話であるということは読む前にすでに知ってたんですが(たまたま検索で引っかかったブログの紹介記事経由で見つけた作品なので)、そうとわかっていただけに、父王以外の男との接触を断たれた環境で育った王女という説明の時点で、あっ(察し)となるものがあって楽しかったです。けれどそのお相手が、父王が見初めて婚儀を交わすべく連れ帰ってきた女性になるというのは、ヒロインの王女を恋や愛との関わりを持たせてはならないと窮屈な環境を強いてきた父王にとってはなかなかに皮肉な展開ではあったでしょうか。そこから生じる父娘の対立は、たしかに「破滅のはじまり」となるにふさわしいものだったと思います。

短編ということもありヒロイン同士の心の交流は期待したほどではなかったようにも思いますが、設定の時点で思い描けるお約束的な展開をはずすことなく最後まで美しい女性同士の愛のおとぎ話としてまとめてくれてたのが好印象でした。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 20:01| Comment(0) | Web小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月15日

エーゲ海を渡る花たち(1)

エーゲ海を渡る花たち(1) (メテオCOMICS)
エーゲ海を渡る花たち(1) (メテオCOMICS)

エーゲ海を渡る花たち | COMICメテオ

15世紀半ばのイタリアはフェラーラで、遠い世界を見てまわることを夢見る商家の娘・リーザが、タウリカ(クリミア半島)からやって来た少女・オリハと出会うことからはじまる地中海旅行記。これはすこくおもしろかった。

まずなにより、作中の随所で紹介される15世紀半ばの地中海地域の豆知識がかなりの量があって、それらを読んでるだけでもとても面白いんですよね。ストーリーに合わせてちょっとずつ提示されていくから、むりに詰め込まれていると感じない程度でするする頭に入ってきて、それでいてあくまで周辺知識だから読み飛ばしても問題ない、けれどそこも楽しめればおもしろさが倍になる。そんな感じの絶妙な塩梅になっていて。個人的にも、大きなストーリーラインの合間合間にはさまれるそれらの豆知識のおかげで、作中世界がさらに奥行きを持って感じられてよかったと思います。

ストーリーのほうでは、ガール・ミーツ・ガールな話として、物語が動き出すきっかけとなったふたりの女の子の和気あいあいとした関係が見ていて楽しいものではありました。特に、好奇心先行で、女性ながら当時の情勢で観光的な旅に出ようなんて決意するリーザの行動力が好印象。゛跳ねる嬢(インベンナータ)゛の通り名のとおりに(?)行く先々で長い髪を跳ねさせながらあっちこっちに興味を引かれて目を輝かせている様子がたいへんにかわいらしかったです。けれどその旺盛な好奇心は向こう見ずさと表裏一体でもあって、いつしか彼女の姉のマリアだけでなくオリハまでもが目の離せない妹のようにリーザに注意を促すようになっているのはとてもほほえましいものがありますね。

そんな少女ふたりの地中海旅行。この1巻ではリーザの出身地フェラーラからはじまって、海運都市ヴェツィアから出港して、アドリア海を陸伝いに南下中。目的地はオリハの目指すエーゲ海上のクレタ島となっていますが、そこまでにまだあとどれだけの当時の地中海地域の様子を見せてくれるのか、目的地に着いた後ではまたどんな展開が待っているのかと、いまから期待が高まってしかたないですね。これはぜひいろんな人に読まれてほしいですね。イタリア好きの人、中(近)世ヨーロッパ・地中海地域に興味のある歴史好きな人、はたまたガール・ミーツ・ガールの好きな百合好きの人にも? ともあれ、すこしでも興味を持った人は読んでみるべきマンガだと思います。2巻がいまから待ち遠しいですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 21:02| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月10日

ヒーリングサロンシエル ひなちゃんのすっきりコース

ひなちゃんのすっきりコースーヒーリングサロンシエルー
ひなちゃんのすっきりコースーヒーリングサロンシエルー



このシリーズ(ヒーリングサロンシエル)は、しろなさんのものをひとつふたつほど聴いてはいましたが、ひなちゃんは今回が初めて。声もさるものながら、音としてもとてもいい音を聴かせてくれるサークルさんなので聴きはじめる前から期待は大。

実際に聴いてみても、期待に違わずとても気持ちのいいマッサージ音の数々で、心ゆくまで癒される時間を堪能することができました。安定して快い音を楽しめるシリーズ。すごくよかったです。

最初の施術はヘッドマッサージ。このヘッドマッサージ用のオイルの音、いいですよね。ぬるぬるとして、それだけで気持ちよさに期待を抱かせてくれること。そして、実際にさらさらごしごしと塗りつけられている音が心地よくて。音に身をゆだねているうちに頭がぽかぽかしてくるような感覚がいいですね。しあげのぽくぽくとした軽い叩打のマッサージの音も小気味よくていい感じ。あ、そこ、もうちょっと……

などという戯言はさておき、つづけての炭酸水を使ったマッサージ(ムースデコ)も、準備の段階から、泡立ちを作るために容器でかたかたとかき混ぜる音が、施術の合間にも耳に快い音で癒されること。そしてこちらもまた実際にその泡を頭に広げられていくときのあわあわとした音もとても気持ちよかったですね。あたたかい泡に包まれるようになりながら、店員さんの話し声に耳を傾けている時間がとても心地よい時間であることで。そして最後にはシャワーで泡が流されるんですけど、このシャワーの音もいい感じで。強すぎない勢いの水で頭を流される感覚と、その余波としての流水音が癒し。

つづいての施術はハンドマッサージ。爪切りでぱちぱちと爪を切られる音、とても気持ちいいですよね。店員さんに手を取られながら、丁寧に切ってもらっているという感覚がたまりません。先にお湯で手を温めてからという順序もあってか、あたたかく包まれているような感じが癒されますね。切った後でやすりで削って整えていく音も、硬質な摩擦音が心地よくて。もう少しこの音を聴いていたかった気もしてしまいますね。処理できる爪に現実的な限りがあるのが惜しまれるところです。

次にはジェルで手へのマッサージが行われるんですが、これも手に塗り広げられるすべすべ感、ざらざら感がいい感じで。洗い流す水のちゃぷちゃぷとした音がいいアクセントにもなってましたね。店員さんによるおしゃべりで、お店の女の子と繋がれる手と意識させられるのは、面映ゆいながらも今まさに繋がれていることを意識されられて快い心地にさせてもくれます。なんとも巧みな接客。しあげのクリームを塗りつける場面は以下同文的な感じで。手へのマッサージだけのはずが、手から体全体がぽかぽかとあたたかくなってくるような施術がたいへんいいものでした。

つづいての施術はシャンプー。水音がとても心地いいパートでしたね。濡らした髪にシャンプーが広げられていく音、頭のあちこちをごしごし洗われていく音もいい音で。特にいまどの辺りを洗っているのか具体的に告げてもらえると、気持ちよさがより想像できていいですよね。シャンプーを流すときも、流し残しがないようにしっかり洗い落とされていく感じが、目を細めたくなるような心地にさせてくれること。

しかもそれが、トリートメントになると、さらに丁寧な動作でしてくれてるような音声になるんですよね。トリートメントを髪一本一本にまで広げていく音、より浸透させるためにフィルムを巻いていく音、それがはがされていく音。これらがどれも、ぞわっとする感覚がして、けれどまたそれが気持ちよさを覚えさせてくれること。洗い流されたあとの、タオルでごしごしとんとんと髪をふかれる音も快く、ドライヤーで髪を乾かしてもらえばさっぱりとした気分になれる。これまたすっきり癒しのパートでした。

つづく耳かきパートがコースのしあげ。かりかりとした軽いひっかく音ら耳の奥のほうをとんとんと叩く音が小気味よくていい感じでした。

これが最後かと思っていると、その後に肩のマッサージもありました。定番ではありますが、そうであるだけにいいものですよね。とんとんと軽快に肩を叩かれる音、すりすりとさするように肩を揉まれる音、これらが交互にくわえられて、すっかり気持ちもリフレッシュされた気になれます。

どこを取ってもいいコースで、期待に違わずすっきり癒されるいい音声作品でした。やっぱりいいシリーズてすよね。

……と、聴いててこれで終わりと思いかけてたんですが、実はまだおまけトラックも残ってました。

おまけの番外編は店長さんによる簡易サービス。しろなさんやひなちゃんとはまた違った熟練の腕で、短い時間ながらもばっちり癒してくれること。

コースとしては、肩揉みと頭部のマッサージとシャンプーに洗顔という比較的簡易なもの。けれどこれが、店長さんの落ち着いた声と、ゆっくり丁寧な手つきによって、シチュエーションとしての仕事帰りの気だるい疲れをじんわりと癒してくれる感じがすごくいいんですよね。ついつい帰ってきたくなる店であり、そうしてやってきたお客さんをやさしくおおらかに迎えてくれる店長さんという雰囲気というか。店員さんたち相手よりもより体の力を抜いてマッサージに身をあずけられるような気分にさせてくれるんですよね(あちらはあちらでよさがあるので、どちらがよりいいという話ではないんですけど)。

それにマッサージの音もまたばっちり気持ちよくて。体の芯まで快さが沁み通っていくような音声に聴き入ることができる時間がとても心地のよいものでした。うーん、こうしてみると店長さんのコースもほしくなってきますね。

ともあれそんな感じで、本編・番外編ともに、すっきりさっぱり癒されるいい作品でした。値段もお安いので、癒し系音声作品のファンはもちろん、興味がある人にもぜひにと勧めたい一作ですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:20| Comment(0) | 音声作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月08日

不本意ですが、竜騎士団が過保護です

不本意ですが、竜騎士団が過保護です (ビーズログ文庫)
不本意ですが、竜騎士団が過保護です (ビーズログ文庫)

妹バカのシスコン王女ヒロインだと思ってたら、妹のほうもお姉様大好きな似たもの姉妹だった。いいですよこれ。

かたや妹第一主義をこじらせすぎて結婚のあてのない姉王女・リオノーラ、かたやそんな姉より先に結婚が決まって隣国に旅立っていった妹王女・シャーロット。序章から第一章の冒頭まで、シスコンぶりを発揮しまくって手遅れ感を覚えさせてくれるリオノーラを見ていれば、妹のほうはまともな王女なのかと思いきや、登場するやいなやそんなことはなかったと知らされるからもう笑うしかない。この姉妹大丈夫かな。お母上はさぞ頭痛めてそうな……いや、でも、ふたりまとめて送り出したようなものだし、これはうまいこと難題を片付けた形か。そう考えるとなかなかにキレ者なお母様ではなかろうか。

それはともかく、ヒロイン姉妹のキャラがかなり立っているので、ともすればコメディな話かと思ってしまいそうにもなりますけど、実のところはタイトル的にもラブコメな話でしたね。特に団長さんが、リオノーラの隠していた素性を知ってしまったことやほかにも理由があったりして、竜騎士団の紅一点なヒロインにとにかく過保護。それを逐一把握してる様子の妹王女が姉を取られることを心配してやきもきするのもわかる特別扱いぶり。いいぞ、もっとやれ。

けれど一方のリオノーラはそんな心配をよそにおもしろいくらいの恋知らずで。感情をしらないどころか恋のいろはもよく知らなさそうなレベルの純粋さを見せてくれるものだから、心配してる妹のほうがまるで過保護に思えてくるという。どちらがお姉さんなのかわからなくなってきそうな構図ですが、いいですよね。こういうの。

とはいえ妹王女の心配もあながち的外れではないのであって。ラブコメのラブの部分も芽生えかけている兆しはあり。姉妹の関係性ともども、今後の進展が楽しみになってくるところですね。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 13:56| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月06日

七姫物語 東和国秘抄 〜四季姫語り、言紡ぎの空〜

七姫物語 東和国秘抄 ~四季姫語り、言紡ぎの空~ (メディアワークス文庫)
七姫物語 東和国秘抄 ~四季姫語り、言紡ぎの空~ (メディアワークス文庫)

七姫物語 東和国秘抄 〜四季姫語り、言紡ぎの空〜 | メディアワークス文庫公式サイト

先王の隠し子として、群雄割拠する国の一勢力の姫君として担ぎ出された少女・カラスミ。偽りの出自のお姫様として彼女を見出だした悪い大人たちであるテン・フオウ将軍と軍師トエル・タウらとともに、にぎやかながらも穏やかな日々を過ごしていた彼女の七宮としての日常が、突如として戦乱の渦中へと巻き込まれていくとこになる出会いが鮮烈で、そこからの怒濤のような展開に一気に引き込まれた。

スロースターターながら、いったん話が動き出すとページをめくる手が止まらなくなる。そんなおもしろさの一冊だったように思います。

争い事とは無縁の日々を過ごしてきたカラスミの目を通して追体験するからこそ、後戻りのできない抗争の只中に立たされたことを、困惑や怒りや痛みや、はち切れそうなほどに膨れ上がる感情とともに理解することができる展開がすごくよかったです。争い事が起き、多くの血が流された。群雄が覇を競う情勢から、それはある程度予測される出来事ではあった。しかし作中で起こったことは、カラスミの手の届かないところで始まり、ひとまずの終息を迎えるまで彼女の出番はほとんどないままだった。どうして今回の争いは起きたのか。どのように戦いは推移したのか。あげられた成果は、流れた血に値する成果をもたらしたのか。それらはおおよそのところとして作中で語られてはいた。しかし、その距離感はカラスミからはどうしても遠い。まるで遠い国で起きた出来事のように。彼女を姫君として奉る人々は、自分のために戦に向かい血を流していったにも関わらず。

そのことを、カラスミの心情と重なるように、悔しいと思わされる。不甲斐ないと思わされる。本当の姫君であるならば、もっとよい行動が取れたはずなのにと思わされる。だからこそ、もっと多くのことを知りたいと思う。自分は自分を奉る人たちのためになにができるのか。仲間たちとともに、どんなことができるのか。そして、今回の争いを起こした張本人はなにを考えているのか。その人を止めることはできるのか。知りたいと思う。知るために成長していきたいと思わされる。これから先に起こる出来事にも立ち向かっていきたいと思わされる。強い感情の爪痕を残される。それが、どうしようもなく心地よく感じられる。そんな読書体験。読み終わったときには体の内にこもった熱を逃すように、はあーと、大きな吐息が漏れるような作品でした。

とてもいい一冊。期待の持てるファンタジーシリーズ。かつて電撃文庫で出ていた作品の新装版とのことですが、そちらは未読。次の巻も楽しみに待ちたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 01:03| Comment(0) | ライトノベル・本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月05日

世界歴史大系 アイルランド史

アイルランド史 (世界歴史大系)
アイルランド史 (世界歴史大系)

ブリテン島の隣に位置し、イギリスの歴史とも深いつながりのある地域・アイルランド。昨今のイギリスのEU離脱問題で話題に上がることも多い同地域。1,2年ほど前に一作読んだ<修道女フィデルマ・シリーズ>ではケルト文化の残滓が色濃く残る独特な古代から中世にかけて社会の様相が印象的だった舞台の地。その歴史が山川出版社の歴史大系シリーズから最近出ていると知って、興味津々読んでみた一冊。

なんとも不思議な読み心地であった。というのも、アイルランドというのは、独立したひとつのまとまった国としてのかたちをとったことがない地域なんですよね。ざっくりとした流れでは、中世においては部族の小王国が乱立して覇を競いあう状態がつづき、近世以降はイギリスに植民地のように支配され、第一次世界大戦前後で独立を果たすも北アイルランドはイギリス領として残存したまま現在にいたっている。そうした経緯もあり、支配者の王朝を主体としたものを個人的に想像してしまいがちな一国史としては、いまいち主役がはっきりしない記述が全体を通底していたように感じられた。英雄不在の物語というか。

とはいえそれはあくまで個人的で勝手な思い込みを前提にした感想であって。イギリスという強者に支配され搾取されながらもそれに屈することなく、それどころかあるときはしなやかに、またあるときは決然としてその支配を押し返してきたのがアイルランドの歴史であったようで。しかも、その立役者は一握りの英雄であるよりも名の知れない多くの人々を含んだ民衆であったのが、その特徴となるのでしょうか。中世においてはイングランド系の支配者が自分たちの持ち込んだやり方での支配を押し広げるはずがいつのまにか現地化していたりというのは、実に面白い現象ですよね。多数派のカトリックへの選挙権の拡大やアイルランドの地位向上、ひいては独立にいたる展開においても、目立って活躍する人物は決してひとりではなく、最終的な結果にいたる流れは決してひとつではない。複数の人物が相反するものも含めたさまざまな運動を展開するなかで、現在のアイルランドの状況が形作られていく。その様子は、わかりやすいとはいいづらいし、華やかなスターも不在ではあるものの、それにもかかわらず確かな面白さがあったんですよね。それは、これまで断片的にのみ知っていた知識がつながって、それらが今を形作っていくピースとして目の前に立ち現れてくる、そんな読書の楽しさであったように思います。


あと、この本を読んでいて、イギリスのEU離脱にともなう北アイルランドの問題の難しさがようやくわかったというか。全体的にカトリック人口が多数派なアイルランドの中で、そこだけプロテスタントが多数派な地域、それが北アイルランド。だから、帰属意識的にも大勢としては陸続きの南部アイルランドよりも海を隔てたイギリスのほうになるわけで。けれどそんな北アイルランドにも、どちらかというと少数派ながらかなりの数のカトリック人口が存在しているし、それどころか近いうちに人口比は逆転するとも予測されているらしい。ここで問題なのは、プロテスタントはアイルランドにおいてイギリス系による支配の頃からつづく伝統的な支配者であって、被支配者のカトリック住民を抑圧する側であったということ。これまでに起きた流血を伴う独立運動によって、カトリック側はもちろん、抑圧するプロテスタント側にも多数の犠牲者が出ており、報復の連鎖から互いへの恨みと不信感が世代を超えて積み重なってきた経緯がある。それでもEUの枠組みの内ならばイギリスに所属しつつ南部アイルランドとの自由な往来も可能になり、独立問題を喫緊の課題ではなくすことができていた。それだけに、イギリスのEU離脱がもたらす影響は簡単には無視できないものがある。にもかかわらず、EU離脱は有権者数的にイングランドの人々の意見だけでかなりの部分が決まってしまっており(全有権者のうち約83.9%がイングランド地域)、北アイルランド住民の声(離脱反対が約55.8%)はかき消されてしまった。この辺は、植民地時代はまだしもイギリスに統合されてすらあまり顧みられることなくイギリス本土の利益に翻弄されつづけてきたというアイルランドの歴史もあわせて悲哀を感じさせられる部分でもある(経済的にその恩恵を受けてきてもいるというけれどそれはまた別の話として)。まあそれでも同選挙区で最多の議席を持ってるDUPは離脱賛成側なんだよね。なんともややこしい。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 03:33| Comment(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月01日

あの人の胃には僕が足りない(1)

あの人の胃には僕が足りない(1) (モーニングコミックス)
あの人の胃には僕が足りない(1) (モーニングコミックス)

『あの人の胃には僕が足りない(1)』(チョモラン)|講談社コミックプラス

高等部の満腹先輩と中等部の舟次くんによるラブコメファンタジー。

おねショタと銘打たれているけど、年齢差は二歳なのでやや微妙なカテゴライズな気も。とはいえ、成長途上でまだまだ小さな舟次くんと、背とかいろいろ大きな満腹先輩が並び立っていると、外見的にはおねショタ的であって。どちらの印象が優先されるかというと、年齢差の数よりも年上彼女と年下彼氏という響きであり、絵によるイメージであり。つまりこれは、実質おねショタ。いいよね。うん。

このふたりの関係のなにがいいって、満腹先輩の距離感が基本的に近いんですよね。物理的に。いい匂いがするとかいいながら、ぐいぐい距離を近づけてくる。けれど舟次くんからしてみれば満腹先輩は憧れの先輩であって。無邪気なくらいに距離を詰められるとすぐに赤面してしまってこれがかわいらしいこと。この一冊の中で、舟次くんいったい何回赤面させられてたことか。

まあもともとが、先輩に精一杯のアピールをするだけでいっぱいいっぱいな純情少年。それなのに先輩のほうはそんな精一杯な恋心に頓着することなくするする懐に入りこんでくるものだから、舟次くんってばそのうちドキドキしすぎでどうにかなってしまうんじゃないかという展開に。とてもいいと思います。ええ。はい。

でも、満腹先輩からしてみれば、舟次くんのほうが「誘ってるから」ということになるらしいからたまらない。あこがれの先輩がいい匂いがするなんて言いながらくんくん近づいてきたりとか、いろんな意味でやばいと思います。

そうして、無意識誘惑少年と無意識距離詰めおねえさんという、無限に舟次くんがドキドキさせるループができあがるのだったという。いいぞ。もっとやれ。

というか、先輩もかわいい人ではあるんですよね。腹ぺこキャラなところとか。お腹の鳴る音の擬音がいちいちおもしろくて。「ん゛み゛え゛え゛え゛え゛え゛」ってなんですかそれ。

距離を詰めるのは無遠慮ながらもだんだん舟次くんにあてられたように先輩のほうにも照れが見えてくるのがまたほほえましくていい感じであり。

ともあれそんな感じで、とてもいいおねショタファンタジーでした。ややおねショタの判定は微妙かもしれませんが、その筋の人はぜひどうでしょうかというところ。

そうそう。そういえば、“怪異”ファンタジーとしての要素もありましたね。この辺も次回からますますおもしろくなってきそうな感じがあり、そうした意味でも次の巻を読むのも楽しみになってくるところです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 16:08| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月30日

さよならローズガーデン(1)

さよならローズガーデン 1 (BLADE COMICS pixiv)
さよならローズガーデン 1 (BLADE COMICS pixiv)

憧れの作家に会うため渡英した日本人女性・華子と、イギリスで途方に暮れる彼女をメイドとして雇いいれた貴族令嬢アリスによる主従の物語。1900年のイギリス。同性愛が許されない社会を舞台にして、絆を深めていくふたりの姿がとてもいい百合マンガですね。

「私を殺して」。それは、アリスから華子への頼み。家の取り決めた結婚で人種差別や同性愛への嫌悪を隠す気もない人々と家族になることを、頭では受け入れつつも厭わしさを募らせているうちにすっかり疲れてしまった心が発したSOS。

それを受け止める華子は、アリスにとってとても優しい人なんですよね。女の身で一念発起してイギリスに渡ってくるような自立心に富んだ女性であり、貴族令嬢としてではなくただのアリスの幸せを思ってくれる人であり、彼女の心身を苛む常識という名の偏見を偏見と断じることのできる存在であり。同性愛者であるとことを隠して生きてきたアリスにとって、彼女がどれほどまぶしい存在に映ることか。自身を肯定してくれる華子の存在がどれほどありがたいことか。

とはいえ、何をするにも貴族という家の立場が伴うアリスにとって、肯定してくれる存在がいたとしても取れる選択肢には限りがあって、自分らしくふるまうことは現状許されることではない。この物語の結末がどういうものになるのか、見届けたいものですね。

……とかなんとか書いてきましたが、女の子同士の話はとてもかわいいというのがいちばんの感想なのでして。

途方に暮れていたところを拾ってくれたアリスに一生懸命お仕えする華子はかわいいし、自分を信頼してくれるアリスの力になりたいとがんばる華子はかわいいし、ときどきアリスにからかわれてあわててる華子はかわいいし……。華子の印象はだいたいがかわいいにつきるというか。

それに、上で書いた事情もあるからこそ、弱さを見せる彼女が華子によって支えられる場面がとても引き立つんですよね。かわいくて、けれどその実芯の強い女性に向けられる視線に混じるのは、負い目とありがたさと、ほかにもいろいろと? 心を許した共犯者にだけ見せる感情の色がたいへんいいものでした。

とてもいい話。とてもいい百合だと思います。次の巻も楽しみです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 02:05| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月27日

不可解なぼくのすべてを(1)

不可解なぼくのすべてを (1) (MeDu COMICS)
不可解なぼくのすべてを (1) (MeDu COMICS)

不可解なぼくのすべてを|COMIC MeDu (こみっくめづ)

表紙の絵がかわいいやったーと興味を持ったところ、なんと作者さんが昔読んでた『B.A.D.』のイラスト描いてたkonaさん(@kt_konyam)じゃないですかということで、これは読まないわけにはいかないてしょうとなった作品。

読んでみるとこれがかなり面白い。表紙のキャラ、この子がメインのヒロイン(?)なんですけど、ぱっと見で男の娘かなと思うとそんなことはなく。読みはじめてわりとすぐにジェンダーがテーマの話だとわかるので、トランスジェンダー的な感じのキャラなのかと思うとそれも違う。この子はいったいどういうキャラなんだろうかと、わかってようなわからないようなまま収録されてる話を読み終えた感がありましたが、あとがきまで読んでようやくわかりました。この子、Xジェンダーなんですね。

Xジェンダー、それは体の性別は存在していながらも、心の性別でもある性自認において、自分を体の性別と同一だと思えず、かといってもう一方の性別であるとも思えない人を指す言葉。平たくいえば、自分を男とも女とも思えない人のことでしょうか。

そうとわかるとすとんと理解できるものもあるんですが、たがらといってそれですべてを理解したつもりになってはいけないし、なによりそれ自体は本作の魅力のほんの一部にすぎないのが、この作品の面白いところ。

作中に登場するキャラクターたち、これが表紙の子以外も特筆すべき特徴を持った子たちばかりで。彼らは主人公の兄が店長を務める男の娘カフェで働いているんだけど、ジェンダーをテーマにしてる話なだけあって、そのそれぞれに男の娘としてふるまう背景があるんですよね。トランスジェンダーの人がいたり、ゲイ(バイセクシャルの可能性も否定できない?)の人がいたり、女性化願望めいたものを持ち合わせている人もいる。LGBTという枠ではすべてをくくれなくとも、ここに登場するキャラのほとんどはなんらかのマイノリティーにあたるように思うんですよね(もしかしたらQueerに該当するのかもしれないけど、これについては知識がないのでわかりません)。

なので、カフェで男の娘になる理由としても、単にかわいい格好が好きな人もいれば、より自分らしい姿になれる場を求める人もいるし、表に出せず抑圧された気持ちをすこしでも満たせる場としている人もいる。

けれど、そんな理屈は背景程度に理解した上で、なによりやっぱり男の娘たちのかわいさがとてもいい作品なんですよ。見た目は男の娘なキャラばかりだし、そんなキャラクター同士で恋バナしたり、女の子の服をああだこうだしながらわいわい会話してるのは見ててとてもかわいらしいことで。そしてなにより、より自然体な自分を出せる場ならではの彼ら/彼女たちの表情は、とてもキラキラして見えるんですよね。

「ぼくの性別を、おまえらが勝手に決めるな!」とは、表紙の子であるメインヒロイン(?)もぐものセリフではありますが、もぐもに限らず彼ら/彼女たちは世間から偏見の目を向けられることをおそれて、そんな自分を隠すようにして生きることにフラストレーションを抱えているのであって。それに対して作中のカフェで働く姿はより自分らしいと思える姿なんですよね。押しつけられるこうあるべきという姿ではなく、自分がより自分らしくあれる姿。それを望むのは決しておかしなことではなくて、誰もが持ちうる普遍的な気持ちであって。だからこそ、おおっぴらにより自分らしくあれるこのカフェに集まる皆の表情って、輝いて見えるんですよね。

個人的には特にめいちゃんが、自分らしさの扉の先を見つめて、おずおずうきうきしてる姿が最高にかわいいと思いますね。のろけてるときの鈴も、幸せいっぱい感があふれててかわいいことかわいいこと。自分を抑制しがちな子たちが心の底から楽しんでる表情を見れるのって、すごくいいですよね。

とはいえ、それぞれの子たちにとって、男の娘カフェというのは必ずしもベストな回答ではないというのもポイントでしょうか。特にもぐもにとっては、男であるけど女っぽくもある男の娘というのは、自分のことを男とも女とも思えず、どちらに所属しているとされることにも違和感を覚えずにはいられない性質であるだけに、そこが安心できる居場所となるにはもういくつかのステップが必要かなあというところ。その意味で、カフェが男の娘カフェという枠は維持しつつも、それぞれのらしさを理解し尊重する職場に変わっていってる様子なのはいい感じに思えますね。あたたかい空気が感じられて。ときどきギスギスしたりするのは、まあ必要な段階ということで?

ともあれ、男の子・女の子という枠組みを揺さぶって、そんなことよりとにかくかわいいと思わせてくれるキャラクターたちの話で、そのついでにジェンダー的なものについても感じとれる作品でした。すごくいいと思います。いろんな人に読んでもらいたい。次の巻も楽しみにしたいです。
posted by 青山尚之(あおやまたかゆき) at 15:59| Comment(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする